標準管理規約に関する誤解と正解

もうかなり時間が経ってしまいましたが,6月22日に,マンションコミュニティ研究会が主催する「管理規約とコミュニティ〜スタイル多様化の時代へ〜」というテーマのフォーラムを聞きに行きました。

RJC48センターの應田さんと,今般の標準管理規約改正に先立って多くのメガマンション管理組合のコミュニティ活動に関するご意向を意見書にまとめた梶浦弁護士の貴重なお話を伺うことができました(私もちょっとだけマイクを握らせていただいたのですが,何か上手いこと言わなければと焦った挙句「良い管理組合とは,弁護士が介入しない管理組合です。」とコメントしてしまったので,相当数の潜在的顧客を失ったと思います。)。

フォーラムの詳しい様子は,同研究会主宰の廣田信子さんや,はるぶーさんミッキーさんのブログでも紹介されているので,そちらをご参照ください。

・・・と丸投げしてしまい,では私はこのフォーラムに関連し何を言いたいのかというと・・・

このフォーラムにて,廣田さんから「管理の現場から『今回の標準管理規約改正によるコミュニティ条項削除に伴って,コミュニティ活動を行えなくなったのでは』という懸念の声が上がっている。」という趣旨のお話がありました。

この懸念は2つの誤解を含んでいます。

一つは「管理組合におけるコミュニティ活動の可否と,今般の標準管理規約改正との関係」という問題であり,「標準管理規約の改正によりコミュニティ活動ができなくなった」という誤解です。

これについては先日このブログでも連載にて詳しく書いておきましたのでご参考ください(我ながら力作であり,まとめページまで作ったにも拘らず,はっきりいってあまりご覧いただけておりませんw 力が入りすぎたせいかも知れませんが。)。

momoo-law.hatenadiary.jp

 そしてもう一つは,より根本的な,
「各マンションの管理規約は標準管理規約に連動して自動的に改正される,又は,標準管理規約に準拠させる義務がある。」
という誤解です。

もちろん,正解は「標準管理規約は国交省が作ってくれている規約のモデルに過ぎませんので,もちろん参考にはなりますが,連動もしないし,義務もありません。」です。

このような誤解は,どうして生ずるのでしょうか。
やはり,区分所有法,管理規約,各種細則等,集会(総会)決議といった,管理組合における様々な規律の意義や相互関係に係る基本的知識が浸透していないため,管理規約のモデルに過ぎない標準管理規約の性質も誤解されてしまっているのだと思います。

ご存知のとおり,分譲マンションを主とする区分所有建物の権利関係は,「建物の区分所有等に関する法律」(いわゆる区分所有法)によって定められています。

しかし,分譲マンションの事情は物件ごとに全く異なりますから,一つの法律によって全てのマンションに共通して適用されるルールを設けることは合理的ではありません。

そのため区分所有法は,そのルールの多くについて「規約や集会決議によって,各マンションの所有者が自分達で決めなさい。」というスタンスをとっています(この「区分所有法に基づき規約で定める」という構造から,私はよく「規約は区分所有法の一部のようなもの」と説明します。)。

例えば,同法第25条1項は,

区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者(※)を選任し、又は解任することができる。
※とりあえず「理事長」を指すとご理解ください。

と規定しています。
つまり,理事長を誰にするかについて,区分所有法自体では決められておらず,規約に定めがあればそれに従い,規約に定めがなければ集会決議によって定める,ということになります。

そして,この「規約」をどのように定めるかの「参考」として,上記はるぶーさんブログでも取り上げられている標準管理規約第35条は次のように定めているのです。

第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 ○名
三 会計担当理事 ○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事 ○名
2 理事及び監事は、○○マンションに現に居住する組合員のうちから総会で選任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。

繰り返しますが,これはモデルに過ぎませんので,他のルールにすることもでき,例えば「理事長は○○氏とする。」と特定の個人にしているケースも存在します。
また,規約は上記第35条のように定めつつ,選任に係るより具体的な手順を「細則で定める。」としておくことも可能です。

当然,国交省が標準管理規約を改正したとしても,このケースのマンションが自主的に規約や細則を変更しない限りは,この「理事長は○○氏とする。」や細則で定められたルールに影響はありません。

「標準管理規約はモデルに過ぎない」ことはご理解いただけたでしょうか。とすれば,次のステップは「標準管理規約を参考にしつつ,ご自身のマンションの規約をどのように定めていくか」です。
ワクワクしますね・・・しませんか。でも,最近注目されている民泊を管理規約上許容するか否かも,まさにこのステップの問題ですから,多くの管理組合にとって決して他人事ではありません(私のブログもご参照ください。)。

momoo-law.hatenadiary.jp

ただ,区分所有法が「規約で定める」ことを許容しており,また標準管理規約がモデルに過ぎないとしても,「どんな事柄であっても,またどのような内容であっても,規約で自由に定めて良い」というわけではないことには注意が必要です。

・・・この点は,また次の機会に詳しくご案内しようと思います。

ポエムを捨てよ,町へ出よう

先日重たい連載をようやく終えましたので,「このブログを始めるまで」 で書き始めた私自身のマンション購入記を続けてみたいと思います。

なお,言うまでもなく,これはあくまで私の体験記に過ぎません。
いわゆる「購入術」のような情報を得たいと思っている方は,本ブログはボンヤリ眺める程度にとどめ,のらえもんさんの本や最近始まったはるぶーさん達によるスムログの高レベルなブログをご参照ください。 

さて,「 このブログを始めるまで 」では麻布十番駅のトイレに駆け込んだおかげでSUUMOに出会えたところまで触れました。

その頃住んでいた麻布十番の賃貸マンションは,六本木ヒルズと東京タワーの両方を眺められるというオシャ子もびっくりのドヤ部屋でしたが,どうも落ち着きません。

それもそのはず,私は高いところがとても苦手なのです。
そのため購入にあたってもタワマンに興味を持たず(低層階は少々検討しました),基本的には中~低層マンションを想定していました。
最終的には世田谷区の物件を購入し大満足しているわけですが,最初から同区に狙いを定めていたわけではありません。

では,このドヤ部屋を拠点として始まったマンション探しの旅を経て,私はどのように世田谷に辿り着いたのでしょうか。

まだまだ純朴だったその頃の私は,マンション購入学部1年生必修科目であるマンションポエムの朗読にも熱心に取り組んでいました。

matome.naver.jp

ただ,法学部の1年生が「善意の第三者」だの「信義則」だのと法律用語を使いたくなるのと同じように,「寄り添う」とか「静謐な」とか「住まう」が口グセになったことで反省した私は,きちんと物件概要を読むようになりました。
すると今度は「データ」にはまり,またSUUMOの次号を待ちきれないこともあって,中古古物件情報サイトで片っ端から資料を取り寄せてはニヤニヤ眺めるようになってしまったのです。

・・・これでは効率的に良い物件を絞れません。
世の中には「物件情報収集自体が趣味」という方もおられますが,私は「自分と家族が住まう静謐な部屋」を探しているのですから,データばかりに寄り添っている場合ではありません。

そんな中,たまたま仕事で「有名な高級住宅地」を歩く機会がありました。SUUMOやら資料やらネット情報やらの影響で「住宅地ブランド志向」に染まってしまっていた私は「どれほどステキなところなんだろう」とワクワクして出かけたのです。

ところが・・・なんか違う。いい所であることは間違いないけど,あまり住みたくない。ここに自分や家族が住むことをイメージできない。まぁそもそも予算を大きく超える。
こういうことが2,3回続き,ようやく当然のことに気付いたのです。
そうなんです。どんなに有名で評判が良い街でも相性があるんです。

これをきっかけに,ある程度興味を持った物件を見つけた場合には「とにかく一度最寄駅から物件まで歩いてみる」を実践するようになりました。

モデルルームを見たり内覧したりするわけではなくただの散歩ですから,予約も要らず自分の都合でふらっと行けますし,大して時間もかかりません。
もちろん物件自体の様子も眺めますが,何より街の雰囲気を感じることを目的にブラブラ歩くのです。
そして,その雰囲気が気に入らなければ,近隣で多数販売されている全ての物件を一気に選択肢から外すことができるのです。なんて効率的なんでしょう。

この勢いで,私は一気に静謐な住まいを見つける・・・はずでした。

連載の疲れが残っているので,今回はこの辺で。
続きは・・・いつになることやら。

標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除 -まとめ-

標準管理規約改正とコミュニティ条項削除に関する本ブログ記事URLをまとめました。

標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除 
本ブログの第1回記事です。
この問題について網羅的に短く(と言っても十分長文ですが)まとめたものです。

この第1回記事を踏まえ,また福井先生と鎌野先生のご講演・論稿をきっかけに,この問題についてより詳細に検討を試みた結果,以下のような全7回に及ぶ連載となりました。

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) 
-君がいた夏は,遠い夢の中- 
・上記両先生のご講演・論稿のご紹介


続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) 
-区分所有法第3条とコミュニティ活動-  
・「管理組合はコミュニティ活動を行い得るか」は区分所有法第3条の解釈の問題
・福井先生のお考え「同条の文言に忠実に捉えるべき。夏祭りへの管理費支出は違法」


続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3)
-各見解の位置づけ-
・区分所有法第3条は一義的な条項ではない
・「物理的管理限定説(最狭義説)」
・「限定的拡張説(狭義説)」
・「夏祭り許容説(広義説)」


続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(4)
-参考4事例と町内会・自治会-
・裁判例の検討
・参考4事例と町内会との関係,参考4事例とコミュニティ活動との(無)関係(総論)


続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(5)
-参考4事例の射程-
・参考4事例の意義・内容・射程
・参考4事例と町内会との関係,参考4事例とコミュニティ活動との(無)関係(各論)

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(6)
-福井先生のご見解に係る考察-
・福井先生が想定されている「違法なコミュニティ活動」の具体的態様とは
国交省が示した「考え方」
・濱崎恭生先生『建物区分所有法の解説』

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(7)
-空に消えてった,打上げ花火- 
・私が見てきた現場の姿
・具体性を欠く議論によるコミュニティ条項削除への疑問
・鎌野先生のご見解,日本マンション学会における議論
・最後に