市場移転問題と管理組合

大変ご無沙汰しております。
前回記事から3か月も空いてしまいました。

この間も、ブログで書いてみようと思ったテーマをいくつか見つけていました。
先日閣議決定された民泊新法、第三者管理、標準管理規約のコミュニティ条項に関する梶浦弁護士の書籍、日弁連総会の委任状騒動と管理組合総会における委任状の扱い等々・・・
ただ、最近どうも気になる件があるので、今回はそちらを取り上げます。
先日百条委員会が開かれたばかりの築地市場移転問題です。

予めお断りしておきますが、私はこの件について各種報道やSNSで回ってくるコメントを読んで得た程度の知見しか持ち合わせていません。そのため、ここで「移転すべきorすべきでない」という私見を述べることはできません。

私が気にしているのは「議論の対象・性質が整理されているか」ということです。

私は、市場移転の問題はざっくり以下のように分けられると理解しています。
(1)豊洲は市場として安全か(豊洲自体の安全性、築地との比較・・・)
(2)豊洲移転の意思決定~実行プロセスの適法性・合理性(盛り土、土地取得契約、基準設定・・・)と、その責任の所在

まず(1)について
食品を扱う市場である以上、安全でなくてはなりません。
もちろん、一口に「安全」といってもその水準には高低の幅がありますから、どの程度の安全性を要求すべきであるかの判断において政治的・経済的事情を無視することはできません。

とはいえ、基本的には「土地建物を食品市場として使うことを前提に、土地からどのような量の、どのような成分が、どのように検出されると危険であり、どのような措置を講ずれば危険を除去できるのか(orできないのか)。そして、これらを豊洲と築地で比較すると、どちらが市場として安全であるのか。」という科学の問題であると思います(もし「食の安全が最優先」であり、立地の選択肢が「築地or豊洲の二択」であるならば、端的に両者の安全性を比較すれば決まるはずです。)。

次に(2)について
意思決定~実行プロセスの政治的・実務的過程にミスや怠慢や不正があったならば当然その検証をすべきであって、担当者も十分説明する義務がありますし、責任者にはきちんと責任を取ってもらう必要もあります。

しかし、そのことは上記(1)の判断に影響を与えないはずです。
石原元都知事を例に挙げて簡単に言えば、もし「石原氏に職務怠慢が認められた」としても「豊洲の土地汚染が市場に影響を与えず、かつ、築地よりも安全である」ならば移転すべきでしょうし、逆に「石原氏が完璧に職務を全うした」としても「豊洲市場の安全を保てない」ならば移転すべきではありません。

ところが、このあたりが必ずしも峻別されないままの議論が散見されるように感じます。
安全性は事後的にであろうと科学的調査を以て検証すべきことであり(上記(1))、その結果が判明したならば、移転するか否かは政治的責任追及(上記(2))とは切り離して(少なくとも並行して)判断すべきではないでしょうか。

さて、こういう議論の混乱は管理組合でも頻繁に起こります。例えば・・・
「長期間に亘って一部住民が共用部分に駐輪している。調べてみると、理事長が勝手に使用を許可していたようだ。駐輪場使用が長期間継続しているし、今のところ実害も見当たらない。管理組合(理事会)としては、物理的現状を維持しつつ規約・細則の変更や今後の使用料徴収といった方法で解決を図ろうとしている。」というケースがあるとします。

問題は以下のように分けられます。
(ア)駐輪場を維持するか否か、維持するとしてどのように運営するか。
(イ)勝手に使用を許可した理事長にどのような責任があり、その責任をどうとってもらうか(解任、謝罪、賠償・・・)

このような場面で「理事長が悪いのだから、その責任を明確にしない限り駐輪場使用を認めるな」という意見が出ることは少なくありませんが、あまり合理的とは思えません。
駐輪場を維持するか否かは適法性、安全性、利便性、公平性の観点から考えるべきことであって、理事長の責任云々とは無関係だからです。

こうした意見に対しどのように対応すべきか、理解を得るのが難しい場合にどうすべきか・・・の手法や心構えがあるのですが、それはまた別の機会に。

最近の話題と管理組合とを何とか結びつけたところで、今回はこの辺で。

キャッスル大阪 ザ・タワー -真田丸と管理組合-

終わっちゃいましたね・・・・真田丸

www.nhk.or.jp


NHKさん。もちろん総集編も見ますが、キャスト総出演で「絶対に笑ってはいけない大阪城」をやってくれませんか。

さて、相変わらず人気ドラマに便乗するわけですが・・・
このブログと真田丸をご覧の皆様であれば、もうお気づきですよね。
・・・終盤の大阪城は、管理組合そのものだということに。

大阪城  徳川勢との対立という難題に直面
管理組合 管理費滞納・大規模修繕・民泊・・・という難題に直面

大阪城  秀頼や大野治長木村重成ら重臣だけでは解決が難しい
管理組合 理事長や理事会だけでは解決が難しい

大阪城  外部から戦の専門家を招き入れる
管理組合 外部からマンション管理の専門家を招き入れる

大阪城  専門家同士(信繁vs又兵衛vs勝永・・・)が対立
管理組合 専門家同士(弁護士vsマンション管理士vs管理会社・・・)が対立

大阪城  専門家を信頼しようとする秀頼と、専門家を疑う重臣
管理組合 専門家を信頼しようとする理事長と、専門家を疑う理事

大阪城  茶々や大蔵卿局が秀頼に「もう戦には関わらないで」と哀願
管理組合 ご家族が理事長に「もうマンション管理には関わらないで」と哀願

大阪城  専門家が徳川勢を撃破しそうになったところで秀頼出馬せず
管理組合 専門家が問題を解決しそうになったところで理事長物件売却

しかし、決して誰も悪くないのです(大蔵卿局は除く)。
大阪城でも管理組合でも、皆が自分なりに必死に考えて、豊臣家や管理組合や家族を守ろうとしています(大蔵卿局を含む)。そして、それぞれに重要な事情があるのです。
立場も知識も経験もまるで異なるのですから、意見がピッタリと合わなくて当然です。

大切なのは、こうした対立を受け止めて、相手を尊重し、時には自身の信念を少し曲げながらでも、あきらめずに進んでいくということです。
そう、望みを捨てぬ者だけに道は開けるのです(これを書きたかった。)。

大阪城も、信繁達を起用しなければあれほどまでに戦えなかったことでしょう。
管理組合の皆様にも、「管理に行き詰った」と思ったならば、まずはお気軽に外部の専門家にご相談することをお勧めします。マンション内に居座ったり秘密を間者に漏らしたりはしませんのでご安心を。

それではおのおの、ぬかりなく(これも書きたかった。)。

規約作りは恥じゃないし役に立つけど万能じゃない

www.tbs.co.jp

すみません。見ていないせいもあって雑なタイトルとなってしまいました。
いや、ガッキーはもちろんカワイイですよ。ただ、私は常々「リーガルハイの続編を作るなら多部未華子でお願いしたい」と思っているもので・・・。

さて、こんな記事を目にしました。

www.sankei.com

色々な点から解説しておく必要がありそう(つまり、性懲りもなく連載になりそう)ですが、一言でいうと「管理組合がある行為を排除するにあたり、規約や細則は根拠として不可欠ではあるが、万能ではない」となります。

より具体的には「事実関係の立証」と「運用」のいずれかを失敗すると規約は役に立たないということ、そして(これらと関連しますが)裁判所は「実際どの程度の影響が生じているか」を重視し、規約に形式的に違反しているからといって、それのみを以て直ちに管理組合の請求を認めてくれるわけではないということです。
これらは、私が各種セミナーや勉強会で頻繁に指摘していることであり、実際に取り扱った案件において重要な意味を持ったことでもあります。

まず「事実関係の立証」について述べようと思います。

その準備として、上記記事に現れる様々な事実関係を「争いのない事実」「管理組合の主張」「婚活業者の主張」「裁判所の判断」に分類してみます(なお、まだ実際の判決文を入手できておりませんので、差し当たり上記記事だけを頼りにこのブログを書いていることにご留意ください。)。

1.争いのない事実
(1)管理規約は、専有部分について「住宅または住宅兼事務所(いわゆるホームオフィス)として使用するものとし、他の用途に供してはならない」と規定している。
(2)細則で「店舗使用の禁止」を明確化し、事務所として使う場合であっても、不特定多数の出入りがあったり、繰り返し特定の人(会員など)が訪れたりするようなケースはNGとしていた。
(3)婚活業者は平成25年2月に簡易裁判所に調停を申し立て、同11月に管理組合との間で調停条項がまとまった。

2.管理組合(原告)の主張
(ア)当初、婚活業者の事務所には約1週間で少なくとも69人の来訪者があった。
(イ)組合側はすぐに規約や細則を遵守するよう警告した。
(ウ)婚活業者への来客が多い月で50~70人超にのぼる。
(エ)窓口業務を行っている可能性が高そうな法律事務所などには個別の連絡を行い、改善対応の要請にあたっていた。
(オ)窓口業務停止の猶予期間を過ぎても来客が減っておらず、調停で合意した内容が履行されていない。
(カ) 婚活業者が新聞広告やHPにオフィスとしてこのマンションの所在地を記載し、HPには「婚活相談は当相談所へご連絡ください」とも記されている。

3.婚活業者(被告)の主張
(a)別のエリアに営業拠点を設けるべく準備していた。
(b)「士業など他の事務所がどの程度対策を講じているのか教えてほしい」と管理組合側に書面で申し入れたが、具体的な回答を得られなかった。
(c)マンションの秩序は利用者間に公平かつ平等な方法にて確保されるべきであり、管理組合が当社へ殊更に厳しい態度をとる理由が不明である。
(d)HPなどに住所を記載しているのは「本店」位置を示すのが目的で、マンション内で結婚相談業務を営んでいるわけではない。
(e)管理組合が確認したという来客数の算定根拠が不明。
(f)同じマンションの法律事務所や税理士事務所が、それぞれのHP上で「関西にお住まいの多くのお客さまからお越しいただいています」と表示している。
(g)婚活業者のみを問題視する本件訴訟提起は信義則に反し明らかな権利濫用である。

4.裁判所の判断
(A)(婚活業者のHPの記載から)平成27年1月以降もマンションを結婚相談業務に係る店舗として使用し続けている。
(B)管理組合が、マンションに入居する弁護士や税理士の事務所に対して、細則を遵守させるべくどのような措置を講じたのか明らかでない。
(C)婚活業者だけを相手取って訴訟を起こしたことは権利濫用にあたる。
(D)調停条項はマンション居住者に公平に適用されることが要点になっているにもかかわらず、本件訴訟はそのことに目をつむり婚活業者を狙い撃ちして行われた。

大体こんなところでしょうか。
さて、どうしてわざわざこんな整理をしたのかは、民事訴訟において判決が導き出されるまでの過程に関わります。

ざっくり言うと、本件のような争いにおいて裁判所は、【X】「まず双方当事者が繰り出す主張・証拠に基づき事実関係を認定し」【Y】「その認定した事実に基づき法的な判断をする」という手順をとるのです。
本件にあてはめると、【X】「このマンションや管理組合でどのようなことが起こっていたか」が(A)(B)であり、【Y】「その事実に基づき婚活業者の営業を止めさせるべきか」が(C)(D)です。
この【X】に向けてなされる管理組合側の活動が、冒頭述べた「規約適用の前提となる事実関係の立証」にあたるわけです(被告である婚活業者にとっても同様です。)。

具体的に述べると・・・、
本件における争点の一つである「来客数」につき、管理組合は(ウ)(カ)のように主張したのに対し、婚活業者は(d)(e)のように反論しました。ところが、記事を見る限り裁判所の認定である(A)~(D)では来客数について触れられていません。
おそらく、実際の判決では何らかの認定がなされたのでしょうけれど、私は「管理組合が立証しきれなかった」、つまり裁判所が「月に50~70人の来客があった」とは認めなかった可能性がありそうだと思っています。

別の争点である「管理組合による法律事務所等への警告の有無」についてはより鮮明です。管理組合が(エ)のように主張したのに対し婚活業者が(b)(c)(f)のように反論したところ、裁判所は(B)のとおり「明らかでない」と認定したようです。

以上を踏まえると、裁判所は【X】「来客数がどの程度であったかも不明であるし、他の事務所への警告の実態も不明である」という前提で、【Y】「婚活業者事務所としての使用を止めさせるべきか否か」を判断することになります。

いかがでしょう。もちろん、これらの事情だけで結論が定まるわけではありませんが、こうしてみると本件において管理組合の請求が認められなかったことも納得し易いのではないでしょうか。

・・・このように、【X】「そもそもどのようなことが起こっているのか」という事実関係を訴訟においてきちんと立証できないと、その先の【Y】「だからどうしてほしい」にまで辿り着けないのです。
再度本件にあてはめると、来客数の記録(防犯カメラ、業務日誌等)や、他の事務所への警告の形跡(内容証明、議事録等)といった証拠がきちんと揃っていたかが気になるところです。

同じような問題を抱えている皆さんの管理組合において、こうした証拠はきちんと集められているでしょうか。
相手も警戒しますから、トラブル・対立が表面化してからでは間に合いません。常日頃から最悪の事態をも想定して管理に取り組んでおくという意識の有無が、訴訟という局面で勝負を分けることになります。是非、記録化・証拠化への意識を高めていただきたいと思います。

長くなってしまいましたので、今回はこの辺で。