【号外】理事会における理事長解任の可否 ‐最判平成29年12月18日-

唐突ですが皆様、管理組合の理事会で理事長を解任したことはありますか?
もちろん仕事上のことですが、今まで食べたパンの数というほどではないものの、私は結構あります。
そんな私、実は今日まで気が気ではありませんでした。

時はやや遡り平成26年、私の妻の故郷でもある福岡地裁久留米支部に、ある訴訟が提起されました(便宜上「本件訴訟」といいます。)。
その紛争には色々と複雑な背景はあったようですが、私は常日頃から分かり易く読み易いブログを書くことを心掛けていますので内容が薄っぺらくてもとにかく今日中にブログをアップしたいので、ここでは思いっ切りポイントを絞ります。

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まずはこの記事をじっくり読んでください。本件訴訟の争点は正にこの点です。
前提となる規約もほぼ同趣旨なので、以下、それを踏まえてお読みください
この平成28年7月に書かれた記事で私は、

私は、以前からこれを「『誰を理事長に据えるか』を理事会判断に委ねている」規定であると理解し「理事会決議で(他の者の選任を伴って)理事長を解任することができる」と考えており

と、はっきり書いていますね・・・その4か月も前の同年3月に「理事会において理事長を解任することはできない」という本件訴訟の地裁判決が出ていたことも知らず・・・そして同年10月、控訴審高裁がこの地裁判決を維持するなんてことを夢にも思わずにっ・・・!
ざわ・・ざわ・・・お願い・・・どうか、どうか上告をっ・・・!!

そして今日っ!!

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

【判示事項】
理事を組合員のうちから総会で選任し,理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合において,その互選により選任された理事長につき,理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができるとされた事例

【理由(抜粋)】
規約に別段の定めがない限り,集会の決議によって,管理者を選任し,又は解任することができるとされている(25条1項)。そうすると,区分所有法は,集会の決議以外の方法による管理者の解任を認めるか否か及びその方法について区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているものと解される。

 (中略)
理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると,このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは,上記のように解する妨げにはならない。

www.yomiuri.co.jp

www.asahi.com

r.nikkei.com

歴史的判決!!・・・原告や代理人の先生方っ!圧倒的感謝っっ!!!

少々取り乱してしまいました。
この判決については、日を改めて興奮がもう少し冷めてから詳しく解説してみようと思います。

そして理事長の選任・解任に関し、本件訴訟における管理組合と同様の定め方をしている(おそらく多くの)管理組合の皆様、上記過去記事でも述べたように、とにかく規約で明確にしておけば済むことですから、次の総会あたりで規定を見直してしまうことをお勧めします

マンション管理士試験受験生の皆様へ -ささやかなプレゼントつき-

平成29年度マンション管理士試験 実施要領
公益財団法人マンション管理センター|マンション管理士関係|マンション管理士試験|

今年のマンション管理士試験が11月26日に(日)に実施されます。
残り1週間を切り、受験生の皆様は最後の追い込みをかけている頃でしょう。

私は平成22年秋に受験して合格し,翌23年にマンション管理士登録をしました。
民法や区分所有法を中心とする法律試験の色合いが強い試験ですから,受験の予定を周囲に公表していた当時は「弁護士が落ちたら恥ずかしい」などとプレッシャーをかけられていました。
とはいえ,知人弁護士が数人落ちていますので(つい最近も親しい弁護士から「去年落ちた」と打ち明けられました。),集中的・体系的に法律を勉強したことが無い方にとっては決して簡単な試験ではありません。
また、本業や管理組合業務もこなさなければならない皆様は、勉強時間も確保し辛いのではないでしょうか。
そこで,(私を含めおそらく受験生の多数を占める)文系で建物・設備関係に詳しいわけではなく,わずかな勉強時間で合格を目指す方向けの勉強方法をご提案してみます。

勉強に対する基本的なスタンスは、先日ご紹介した宅建試験と同じです。

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「どこまで多くの範囲を勉強できるか」よりも「どこまで勉強する範囲を絞れるか」
がポイントです。
まず,出題分野を網羅的・均等に勉強するのではなく,出題数の多い民法,区分所有法,標準管理規約,標準管理委託契約に多くの時間(イメージでは7~8割)を費やすのが良いと思います。
特に民法は短期間で身につけることが難しいので,初学者の方は我慢強く民法から取り組むのが結局早道になりそうです。
そして、区分所有法,標準管理規約,標準管理委託契約については条文知識をそのまま聞かれる問題(ひねってあるように見えても「結局条文を読めば分かる」問題)が多いため,参考書などで概要を理解できましたら「条文の素読」が効果的です。
参考書で身につけた知識を条文と結びつけることでより記憶が定着するはずですから,例えば「3日で1周」などと決めて何度も何度も繰り返すことをお勧めします(理解と記憶に応じて読むスピードも速くなります。)。条文,規約・契約の条文をそのまま読み込み,条文の欄外などに参考書知識や要注意点を書き込んでしまい,条文自体を自分用テキストにしてしまうのです。

このように条文ベースで勉強すると,例えば「標準管理規約38条2項の『管理者』は,区分所有法25条の『規約に別段の定め』に基づく規定」であるとか、「区分所有法35条1項では『集会』の招集通知は1週間前までに発信」と規定されているが標準管理規約43条の『総会』では2週間前とされている」とか、「別の定め」が「規約だけでできる」のか「集会決議でもよい」のかなど、区分所有法と標準管理規約とのリンクも頭に入り易くなりますし,ひっかけ問題にひっかからなくなります。
これらはいずれも条文数が然程多くないので,参考書を読み込むよりも記憶すべき情報量を抑えることもできると思います。

その他の分野(特に建物・設備)については,私は参考書を一度流し読みした後は,過去問と解答をひたすら解かずに「読み」ました。当初は全く分かりませんでしたし(当然,参考書流し読み程度ではやっぱり分かりません),一から勉強する時間もなかったので。
ただ,これらの分野は結構同じような問題が繰り返し出題されていましたから,この方法でもそこそこ当てることができました。もちろん時間があれば参考書できちんと勉強すべきですが,そうでなければこの方法でも何とかなります(ので,時間がなくても諦めないでください。)。

要するに法律分野に重点を置いて,これらにおいては8~9割以上の正解率を目指し,残りはある程度運に任せるという方法と言えます。法律分野で運を期待しても外しますし,建物・設備に時間を割いてもなかなか高い効果は得られないと思うためです。
そのためのコツとして私がお勧めするのが上記「条文の素読」であるところ、これを行うにあたって、標準管理規約と区分所有法との関連を意識するととても効果的です。

そこで「標準管理規約と区分所有法の対照表」を作成し、PDFをURL化しておきました。
「標準管理規約をベースに、その各条項に対応する区分所有法の条項はどれであり、そこにはどのように規定されているか」をただ並べただけの手作り感満載の資料ですが、これを淡々と読み込むことで、結構点数を稼げるのではないかと思います。
http://d.kuku.lu/e70e319393
(「ファイルなう」というサイトに飛びますので、そちらからダウンロードしてください。)
もちろん、このデータはご自由にダウンロードしていただいて結構です(代わりにと言ってはなんですが、本ブログについてブックマーク、シェア、ツイートなどしていただけると嬉しいです。)。
ただ、慌てて作りしかも殆ど見直しをしていませんから、間違いなどは少なからず混じっていると思います。しかも、標準管理規約部分のコピペに際して「改正前(しかも平成23年改正の前w)」のものをベースに作り始めてしまうという信じ難い凡ミスを犯してしまい、その後修正したという経歴のある資料です。少しでも疑問に思ったところは、原典にあたって確認してください。
言うまでもなく、この資料の正確性やダウンロードの過程で生じた事象について私は一切責任を負えませんので、ご留意ください。
 

それでは、マンション管理士試験頑張ってください。

民泊新法と管理組合 -2018年3月15日までに管理組合がすべきこと-

民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行日が、平成30年6月15日に決まったようです。

www.mlit.go.jp

しかし、同年3月15日から民泊事業者による届出の受付が開始されますので、管理組合が「届出段階で民泊を排除したい」のであれば、同日までに手を打っておく必要があります。

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この点に関連して先日アップしたこちらの記事では、国交省が公開した民泊新法施行規則案に基づき「民泊新法施行前に民泊を明確に禁ずる旨の規約改正が間に合わない管理組合はどのような措置を講ずべきか」をあれこれ検討したものの、結局「さっさと規約改正を済ませないと心配」という結論に至りました。

そこで、同記事でも触れた国交省担当者によるこのセミナーに参加してきました。
「マンション管理センター 特別セミナー(追加開催) 住宅宿泊事業法(民泊新法)公布に伴う『マンション標準管理規約』改正についての解説セミナー」 

http://www.mankan.or.jp/html/pdf/201710seminar.pd

ここでお話を伺い上記記事でも言及した疑問点につき質問をすればきっと全て解決する!と意気込んでいたのですが、人相が悪かったせいか日頃の行いが悪かったせいか、多数の質問者の中から選んでもらえず質問ができませんでした・・・
そのため(というわけでもありませんが)やはり疑問は完全には解消されませんでした。

しかし、講演をなされた国交省担当者のお話は大変分かり易く、また同省が管理組合に配慮して色々と工夫を予定していることは理解できました。その際配布されたレジュメが公開されていますので、是非こちらをご覧になりながらこのブログを読み進めてください。
http://www.mankan.or.jp/01_seminar/pdf/20171030minpaku.pdf

1.民泊届出事業者が届出に際して提出を求められる書類
レジュメ18頁のとおり、ともかく規約写しの提出は求められるようです。
(A) 規約上「民泊新法に基づく民泊可」と明確に規定されている場合
 その規約を提出すればステージクリアです。
(B) 規約上「民泊新法に基づく民泊禁止」と明確に規定されている場合
 上記のとおり規約は提出しますから、仮に届出事業者が「実は規約で禁じられている」と自己申告しなくても、担当官がこの規定を見つけて届出を受理しないでくれるはずです(後述するとおり完全ではないでしょうけれど。)。
(C) 規約上「民泊新法に基づく民泊を許容する旨の規定となっていない場合」
 文言上上記(B)の場合も含まれそうですが、それでは規約の意味がないので「規定がない」or「不明確」という場合であると考えられ、このケースこそが、上記私のブログでも触れた「規約改正が間に合わないけれど禁止したい管理組合」が直面する場面です。
 この場合に提出を求める書類について国交省は上記レジュメ19頁にて次のように例を挙げています。
 (ア) 届出者が、管理組合に事前に住宅宿泊事業の実施を報告し、届出時点で住宅宿泊事業を禁止する方針が総会・理事会で決議されていない旨を確認した誓約書(理事長の確認を要するようです。その署名捺印まで要求されているかは不明ですが、必要と考えて良いでしょう。)
 (イ) 民泊新法成立(平成29年6月以降)の総会・理事会の議事録

確かに、こうした書類の提出を求めることで「規約で禁じているor禁じようとしている」管理組合における民泊を、届出段階においてある程度排除することができそうです。

2.問題点
こうした国交省の工夫は評価に値すると思います・・・が、万全ではありません。世の中には注意深くない人もいれば、あらゆる手を使ってルールをすり抜けようとする人もいるものです(だからこそ私の仕事があるわけですが)。
(a) そもそも提出される規約写しが正確な最新版であるとは限らない。
 →意図的であろうと、規約冊子が配布されていない等の事情による不注意であろうと、このような事態は起こり得ますし、これを行政の受付担当者が全て見抜けるはずがありません。
(b) 上記(ア)の書類を、恣意的に理事長が発行してしまう可能性がある。
 →「団体としての管理組合の意思=理事長の意思」であるとは限りませんから、色々な「思惑」が介在してこうした事態が発生する可能性も皆無ではありません。
(c) 上記(イ)において「民泊を禁止する」旨の決議がなされた議事録を届出事業者が意図的に除外して提出する可能性がある。
 →このような不正が行われることは容易に想像でき、受付担当者が完全にチェックできるはずもありません。

3.対応策
(1) 繰り返しになりますし、「間に合わない場合にどうするか」というテーマからは外れてしまいますが、上記のような問題点がある以上、やはり何とかして規約を改正するべきです。
(2) その場合、使用細則等の(規約からみて)下位規範ではなく、規約自体で明示する方が安全であるといえます。何故なら、受付担当者による規約チェックに係る時間・労力・精度・能力の程度によっては「使用細則で禁じられているのに見落とす」という虞を払拭し切れないからです(また、届出事業者自身による正確な説明を期待できる場面でもありません。)。
(3) 使用細則で禁じる場合においても、このような受付担当者の見落としミスをできる限り回避するべく(また規約との矛盾を生じさせないためにも)、規約に「民泊の可否は使用細則で定める」と明記することで、規約と使用細則を明確にリンクさせておく必要があります(「規約上そのような配慮ができるのならば直接規約で禁じればいいのでは」という指摘もありそうですが、賛否数が微妙な管理組合においては「(規約ではなく)使用細則への規定で止め事後的な変更を容易にしておくから、とりあえず現時点では禁止に賛成してほしい」という管理組合内意見調整はあり得ると思います。)。
(4) 規約(使用細則)改正が間に合わない場合は、できれば総会の普通決議、それも間に合わなければ理事会決議を以て「民泊新法に基づく民泊は認めない」という管理組合の意思を明らかにしておかなければなりません(実は、特に理事会決議にそのような特殊な効力を与えることにつき私は疑問を感じていますが、差し当たり「民泊を阻止したい管理組合のため」という立場で論じています。)。
(5) 上記対応策(1)~(4)のいずれにおいても、その改正規約・禁止決議議事録の区分所有者・占有者(賃借人)に対する配布、掲示、管理組合の回覧板やウェブサイトへの掲載など、「徹底した広報」に努めるべきです(コストの問題もありますから、例えば規約や議事録の該当箇所だけでも良いでしょう。)。これによって、前述したような区分所有者の不注意による届出を予防することができますし、意図的な不正を狙っている者に対する牽制にもなり得ます(仮に不正な届出が受理されてしまい事後的な対抗を余儀なくされた場合においても、こうした事前の措置の存在は管理組合に有利な事情と評価されることが期待できますので、やっておいて損はありません。)。
(6) 上記(5)の「広報」は、物件売買仲介業者に対する重要事項調査報告(通常、管理会社や理事長が仲介業者に管理組合の状況を説明し、仲介業者がその情報を以て買主に対し重要事項説明を行います。)においても、強調しておくべきです。
(7) 考え過ぎかも知れませんが、大多数の理事や区分所有者が民泊に消極的であるのに対し、理事長がそうではないケースもあり得ます(上記問題点(b))。その場合、そのような理事長を予め(以下略
(8) 民泊新法施行を待たずに違法に民泊を行っている者がいないか、今のうちから(airbnb等の確認といっ
た)チェック体制を強化し、万一そのような者がいた場合には厳格に警告・通報・広報しておくべきです。
(9) 以上の措置は、全てそれを行ったことを記録化しておく必要があります。議事録のような文書を残すことはもちろんですが、例えば掲示された様子を撮影しておくことも後々意味を持つかも知れません。

4.まとめ
今回参加したセミナーを通じても感じましたが、国交省を初めとする国・行政は、基本的に「民泊を禁止したければ管理組合が自ら対処せよ」というスタンスです。
それはそれで仕方のないことでもあります。民泊というビジネスが合法化された以上、基本的にそれは「やっていいこと」になったからです。管理組合の皆様は「何が原則であり、その原則を変えるためには何をしなければならないか」をきちんと見定めて覚悟を決めて対処しなければなりません。
やや厳しいことを言うようですが、こうした「管理組合の自立」の必要性は民泊以前から何ら変わっておらず、今般、民泊という大きな変化によってたまたま顕在化しただけです。この民泊新法施行によって「自立した管理組合とできなかった管理組合」がはっきりと色分けされてしまうかも知れません。
もちろん、自立といっても「区分所有者が全てを考えて決めて動く」必要はありません。適宜管理会社や弁護士・マンション管理士といった外部専門家の助力を得ることも立派な自立です。ただ、それらはあくまで「助力」であって、事態解決に向けて一歩を踏み出すのは、管理組合であり区分所有者の皆様なのです。

5.おまけ
このように立派なことを言いつつも国にお願いするとすれば・・・
実現可能性は低そうですが、例えば「『当管理組合は民泊を禁じている』旨の管理組合による申告(規約や議事録を提出する)に基づき、当該管理組合での以後の届出を一律排除する」ような「管理組合による禁止申告制度(民泊禁止管理組合のリスト化)」を設けるべきだと思います。そうすれば管理意識の高い管理組合は救われますし、行政も、少なくともその管理組合に関する届出に関して機械的に届出を排除することができます。