続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(6) -福井先生のご見解に係る考察-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-(「本連載(2)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3) -各見解の位置づけ-(「本連載(3)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(4) -参考4事例と町内会・自治会-(「本連載(4)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(5) -参考4事例の射程-(「本連載(5)」)

に続く連載6回目(各項目の見出しは通し番号)です。

10 福井先生と国交省のご見解に係る私なりの理解

10-1 福井先生のご見解

前回は,参考4事例(本連載(4)参照)の射程について検討し,「参考4事例は,管理組合自身によるコミュニティ活動が法的に禁じられているという主張の論拠にはならないこと」と「参考4事例において,裁判所は管理組合自身が行うコミュニティ活動の重要性を認めていること」に触れました。
以上から,適正な要件・手続を経ていれば裁判所が管理組合による夏祭りを違法と評価するとは考えにくく,それ故私は,改正標準管理規約においてコミュニティ条項が削除されたことにつき疑問を感じている,と述べました。

では,現検討会(本連載(1)参照)座長の福井先生や国交省と私の見解が異なるのは,何故なのでしょう。
大変おこがましくも私なりに考えてみたところ,以下のように思い至りました。

福井先生は本連載(1)でご紹介したセミナーや都市住宅学93号において,管理組合は夏祭りのような(懇親目的の)コミュニティ活動を行うべきではないとご説明しつつ,不適切な行為の具体例として「役員自らの飲食に管理費を費やすこと」「私的で限定的な支出」「管理費による理事等による飲食,管理の一環たる説明のつかない私的な飲食,パーティ,サークル活動」といった態様を挙げておられます。

他方,規約等の根拠の下で役員報酬を支払うことは当然許容されるとお考えのようですし(そうであれば,現金と飲食とで区別する実益が見出せないため,それに準じた飲食への支出も許容されるとのお考えと推察します。),直接便益を受けるのは一部の者に限られるようなサービスであっても実費の支払いを伴いマンションの資産価値向上に資する態様であれば差し支えない,というお話も上記セミナーにて伺ったと理解しています。

また,改正標準管理規約コメントにおいて,許容される活動の基準として指摘されている「マンションやその周辺における美化や清掃,景観形成,防災・防犯活動,生活ルールの調整等で,その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動」という箇所も,読み方によっては「夏祭り許容説(広義説)」(本連載(3)参照)のように広く捉え得る言回しであるように思います。

これらから私は,福井先生がイメージしておられる「許容し難いコミュニティ活動」は,それ自体が横領・流用に該当し,又はそれに近いような行為,つまり「管理組合によるコミュニティ活動の可否」という問題と切り離したとしても元々許されない・望ましくない行為なのではと想像しています。

もしそうだとすれば,福井先生も,①規約・予算等の根拠があり,②(飲食等については来場者が実費を支払うなど)管理費支出が合理的範囲に収まっており,③所有者~住民~近隣住民間の活発な交流により資産価値が向上しているという評価(その判定基準はともかく)を伴う態様の夏祭りであれば,許容し得るとお考えなのではないでしょうか。

10-2 国交省のご見解

この点国交省も(福井先生と同意見であるかどうかはさておき),その「パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する 国土交通省の考え方」中の「7.コミュニティ条項の再整理」にて, コミュニティ活動への管理費支出につき以下のように述べています。

search.e-gov.go.jp

【・他方で、マンション及び周辺の居住環境の維持及び向上に資する活動には、支出可能であると考えており、その範囲内におけるイベント等への支出の是非については、各管理組合での合意形成によるべきものと考えています。】

この考えからすると,国交省は,少なくとも福井先生による「夏祭りへの管理費支出は違法」というご意見に比べれば(本連載(2)「5」),夏祭りを許容し得るというスタンスをとっているようにも窺えます。

10-3 濱崎恭生『建物区分所有法の解説』

また,福井先生は都市住宅学93号において,管理組合の目的は区分所有法第3条の文言に忠実に捉えるべきというご見解(本連載(2)参照)の論拠として,次のように濱崎恭生『建物区分所有法の解説』(法曹会 第1版 平成元年)の一文と脚注を引用しています

【レクリエーション等の共同の行事等については,(中略)社会通念(※)に従い,建物の使用のため区分所有者が全員で共同してこれを行うことの必要性,相当性に応じて判断すべきであろう(116頁)
※「社会通念」の脚注:・・・任意参加のレクリエーション行事のようなものは,一般的には,目的の範囲外というべきであろう。】

確かに,レクリエーション行事は「一般論」として「目的の範囲外というべき」と述べられています。
しかし,そもそも同書がここで想定していた「任意参加のレクリエーション」が具体的にどのようなものであったのかは判然としません。上記の(私が想像する)福井先生が懸念されているような態様を指すのであれば,私の見解とも矛盾しないように思います。

何より,同書は本文において「社会通念」を以て必要性・相当性に応じて判断すべきと述べています。
参考4事例が発生し,それらに対し裁判所が前述(本連載(4)本連載(5))のように判断し,また改正『前』標準管理規約(本連載(2)参照)においてコミュニティ条項が設けられたのは,同書が発行された平成元年(今から28年前)よりもずっと後のことです。
とすれば,この28年の間に「コミュニティ形成を重要視する」方向に社会通念が変化したとはいえないでしょうか。

10-4 小括

以上から私は,福井先生・国交省のご見解と私の考え方の違いは,ある一つの行為(夏祭り等)について「イメージしている具体的態様」の違いに起因する,即ち,福井先生は「管理意識・モラル」のレベルが低い態様を,私はその逆の態様を想定しており,その違いが意見の違いに表れている,と(勝手に推察して)考えています。

・・・次回(5月20日頃を予定)は,いよいよ最終回です。