続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(7) -空に消えてった,打上げ花火-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-(「本連載(2)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3) -各見解の位置づけ-(「本連載(3)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(4) -参考4事例と町内会・自治会-(「本連載(4)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(5) -参考4事例の射程-(「本連載(5)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(6) -福井先生のご見解に係る考察-(「本連載(6)」)

に続く連載7回目(各項目の見出しは通し番号)です。
予定していた公開日から大幅に遅れてしまいました。
長かった連載もようやく完結します。

11 私が見てきた管理組合

前回の最後に,福井先生・国交省と私との考え方の違いは「イメージしている具体的態様」の違いに起因するのではないか,つまり,福井先生は「管理意識・モラル」のレベルが低い態様を,私はその逆の態様を想定しており,その違いが意見の違いに表れているのではないか,と述べました。

私は仕事柄,どちらかといえば「管理意識・モラル」のレベルが低く,トラブルが生じている管理組合に関わる機会の方が多いといえます(依頼者の方はそのような現状を危惧してご相談にいらっしゃるからです。)。
ただ,そういった管理組合は,そもそも「管理組合という団体としてコミュニティ活動を行う」という意識すらない(規約・予算上「コミュニティ活動費」という項目が存在しない)ことが殆どですので「コミュニティ活動の名を借りた管理費の私的・不適切使用」という事象にはあまり遭遇したことがありません。
(なお,こういった規約・予算上の根拠もないままに役員が勝手に管理費を使っているのならば,それは単なる私的流用であり「管理組合はコミュニティ活動を行えるか」という問題ではありません。)

他方,積極的に,きちんと予算計上してコミュニティ活動を行えるほど「管理意識・モラル」のレベルが高い管理組合においても,「名を借りた私的・不適切使用」を許さない体制がきちんと構築され監視の目も厳しいため,私はこちらでも今のところ「コミュニティ活動の名を借りた管理費の私的・不適切使用」という事例に遭遇したことはありません(評価の問題ではありますが。)。
※こうした「レベルの高い」管理組合の情報を得たい方は,多くのマンション管理組合理事長経験者が集う勉強会「RJC48」を覗いてみることをお勧めします。

もちろん,これらは私という一人の弁護士による,日本にあるマンションのうちほんの一部に関する経験談に過ぎません。

これに対し現検討会(本連載(1)参照)は,改正標準管理規約検討に際し,長期間に亘った検討会の過程で,昨今の国内の管理組合におけるコミュニティ活動について,かなり広く綿密に視察・検証をしたのだと思います。
とすれば,その中には規約・予算の根拠を備えて大々的に夏祭りを実施し,所有者・住民から大いに好評を得ている管理組合もあったはずですし,逆に,夏祭りの名を借りた不適切なケースもあったはずです(このような管理組合こそ調査対象になったのではと推察します。)。
ところが,改正標準管理規約やそのコメントにおいては,そういった現場の姿,つまり,どのような規約・予算化という手続を経て,どのような態様の夏祭りが開かれ,どのような評価を得ているか,そしてこれらのうちどのような場面を前提として可否が論じられているのかという点が明確には表れていないように感じられ,私はこれが議論の行き違いを生んでいるのではないかと思っています。

「前提が具体的でない議論を以て,現に素晴らしい活動を行っている管理組合の邪魔をすべきではない。」というのが,今回のコミュニティ条項削除に対する私の感想です。 

なお,私も「自治会と管理組合とを峻別し,コミュニティ活動は前者に集約する」という方法に異論はありません。私が述べたいことは「様々な事情・経緯に基づき管理組合自身が行っているコミュニティ活動を否定すべきではない」ということです。

12 コミュニティ活動の活かし方

福井先生は都市住宅学第93号(本連載(1)参照)の結び(11頁)において,「現在の制度を前提とする限り,今後居住の場としてマンション購入という危険な選択を人々が行うことは必ずしも賢明とはいえないと考えているが(中略)できるだけその資産価値の下落を防ぐことは社会にとっても重要である」と述べておられます。
仕事柄多くのマンションの皆様とお付き合いをさせていただき,自身も所有者である私の経験からすれば,マンションで生ずるトラブルの殆どは人間関係に起因します。そして,金銭的な問題や困難が存在しても,それが「トラブル」になるかどうかは人間関係次第であり,また人間関係が円滑であれば,多くの金銭的問題の発生・深刻化も回避し得ると考えています。

もし福井先生のご主張のとおりマンション購入が「危険な選択」なのであれば(私自身はそう思いませんが),夏祭りのようなコミュニティ活動を否定するより,それによる人間関係の円滑化を通じて危険を回避していく方が,前向きではないかと思うのです。

13 日本マンション学会

13-1 鎌野先生のご見解

さて,長々と述べて参りましたが,「たかが一弁護士がいくら力説しても信じられない。」という感想をお持ちの方も多いでしょう。
安心してください。
最終回の,しかも終盤までほとんど触れずに来てしまいましたが,区分所有法分野における第一人者であり前検討会(本連載(1)参照)座長であった鎌野邦樹先生(日本評論社の「コンメンタールマンション区分所有法」という分厚い書籍をご覧になったことがある方も多いでしょう。)も「一定の要件を充たせば,管理組合は夏祭りを行って差し支えない。」とのお考えのようです(本連載(1)でご紹介した日本マンション学会千葉大会におけるご講演に際して私が汚い字で提出した質問票に対し,お答えいただきました。同種の質問をなされた方が他にも多くおられたため取り上げてくださったのだと思います。)。
詳しくは,本連載(1)でご紹介したマンション学54号をご参照ください。

13-2 日本マンション学会千葉大

また,この日本マンション学会千葉大会の各分科会において,マンションのコミュニティ形成について活発な議論が展開されておりました。少なくとも同学会においては,管理組合によるコミュニティ活動の重要性・有用性に関する認識が共有されているものと思います。同学会の様子は,廣田信子さんもブログで取り上げておられます。

14 最後に

マンションや管理組合の状態・機能・方針・組合員の考え方は物件ごとに千差万別であり,その大前提を無視しては有意な議論など不可能です。
そして,不正が横行するような状態の悪い物件にこそ求められるような制約を,専門家並みの知識・情熱を備えた役員を多数擁し高度な管理を実現している物件にまでも及ぼすことによって,せっかく成熟・発展した管理組合の足を引っ張るべきではありません。もちろん,逆もまた然りです。
そのため,「標準」管理規約そのものの在り方も考える必要があるような気がします。

管理組合の皆様におかれては,きちんとした手続により規約・予算等を整えた上で,楽しく,但しはめをはずさぬよう注意しつつ,各管理組合にマッチしたコミュニティ活動を行って,充実したマンションライフを送っていただきたいと思います。

長~い連載を最後まで読んでいただき,有難うございました。
次回は,やや軽いテーマで書きたいと思っています。