規約作りは恥じゃないし役に立つけど万能じゃない

www.tbs.co.jp

すみません。見ていないせいもあって雑なタイトルとなってしまいました。
いや、ガッキーはもちろんカワイイですよ。ただ、私は常々「リーガルハイの続編を作るなら多部未華子でお願いしたい」と思っているもので・・・。

さて、こんな記事を目にしました。

www.sankei.com

色々な点から解説しておく必要がありそう(つまり、性懲りもなく連載になりそう)ですが、一言でいうと「管理組合がある行為を排除するにあたり、規約や細則は根拠として不可欠ではあるが、万能ではない」となります。

より具体的には「事実関係の立証」と「運用」のいずれかを失敗すると規約は役に立たないということ、そして(これらと関連しますが)裁判所は「実際どの程度の影響が生じているか」を重視し、規約に形式的に違反しているからといって、それのみを以て直ちに管理組合の請求を認めてくれるわけではないということです。
これらは、私が各種セミナーや勉強会で頻繁に指摘していることであり、実際に取り扱った案件において重要な意味を持ったことでもあります。

まず「事実関係の立証」について述べようと思います。

その準備として、上記記事に現れる様々な事実関係を「争いのない事実」「管理組合の主張」「婚活業者の主張」「裁判所の判断」に分類してみます(なお、まだ実際の判決文を入手できておりませんので、差し当たり上記記事だけを頼りにこのブログを書いていることにご留意ください。)。

1.争いのない事実
(1)管理規約は、専有部分について「住宅または住宅兼事務所(いわゆるホームオフィス)として使用するものとし、他の用途に供してはならない」と規定している。
(2)細則で「店舗使用の禁止」を明確化し、事務所として使う場合であっても、不特定多数の出入りがあったり、繰り返し特定の人(会員など)が訪れたりするようなケースはNGとしていた。
(3)婚活業者は平成25年2月に簡易裁判所に調停を申し立て、同11月に管理組合との間で調停条項がまとまった。

2.管理組合(原告)の主張
(ア)当初、婚活業者の事務所には約1週間で少なくとも69人の来訪者があった。
(イ)組合側はすぐに規約や細則を遵守するよう警告した。
(ウ)婚活業者への来客が多い月で50~70人超にのぼる。
(エ)窓口業務を行っている可能性が高そうな法律事務所などには個別の連絡を行い、改善対応の要請にあたっていた。
(オ)窓口業務停止の猶予期間を過ぎても来客が減っておらず、調停で合意した内容が履行されていない。
(カ) 婚活業者が新聞広告やHPにオフィスとしてこのマンションの所在地を記載し、HPには「婚活相談は当相談所へご連絡ください」とも記されている。

3.婚活業者(被告)の主張
(a)別のエリアに営業拠点を設けるべく準備していた。
(b)「士業など他の事務所がどの程度対策を講じているのか教えてほしい」と管理組合側に書面で申し入れたが、具体的な回答を得られなかった。
(c)マンションの秩序は利用者間に公平かつ平等な方法にて確保されるべきであり、管理組合が当社へ殊更に厳しい態度をとる理由が不明である。
(d)HPなどに住所を記載しているのは「本店」位置を示すのが目的で、マンション内で結婚相談業務を営んでいるわけではない。
(e)管理組合が確認したという来客数の算定根拠が不明。
(f)同じマンションの法律事務所や税理士事務所が、それぞれのHP上で「関西にお住まいの多くのお客さまからお越しいただいています」と表示している。
(g)婚活業者のみを問題視する本件訴訟提起は信義則に反し明らかな権利濫用である。

4.裁判所の判断
(A)(婚活業者のHPの記載から)平成27年1月以降もマンションを結婚相談業務に係る店舗として使用し続けている。
(B)管理組合が、マンションに入居する弁護士や税理士の事務所に対して、細則を遵守させるべくどのような措置を講じたのか明らかでない。
(C)婚活業者だけを相手取って訴訟を起こしたことは権利濫用にあたる。
(D)調停条項はマンション居住者に公平に適用されることが要点になっているにもかかわらず、本件訴訟はそのことに目をつむり婚活業者を狙い撃ちして行われた。

大体こんなところでしょうか。
さて、どうしてわざわざこんな整理をしたのかは、民事訴訟において判決が導き出されるまでの過程に関わります。

ざっくり言うと、本件のような争いにおいて裁判所は、【X】「まず双方当事者が繰り出す主張・証拠に基づき事実関係を認定し」【Y】「その認定した事実に基づき法的な判断をする」という手順をとるのです。
本件にあてはめると、【X】「このマンションや管理組合でどのようなことが起こっていたか」が(A)(B)であり、【Y】「その事実に基づき婚活業者の営業を止めさせるべきか」が(C)(D)です。
この【X】に向けてなされる管理組合側の活動が、冒頭述べた「規約適用の前提となる事実関係の立証」にあたるわけです(被告である婚活業者にとっても同様です。)。

具体的に述べると・・・、
本件における争点の一つである「来客数」につき、管理組合は(ウ)(カ)のように主張したのに対し、婚活業者は(d)(e)のように反論しました。ところが、記事を見る限り裁判所の認定である(A)~(D)では来客数について触れられていません。
おそらく、実際の判決では何らかの認定がなされたのでしょうけれど、私は「管理組合が立証しきれなかった」、つまり裁判所が「月に50~70人の来客があった」とは認めなかった可能性がありそうだと思っています。

別の争点である「管理組合による法律事務所等への警告の有無」についてはより鮮明です。管理組合が(エ)のように主張したのに対し婚活業者が(b)(c)(f)のように反論したところ、裁判所は(B)のとおり「明らかでない」と認定したようです。

以上を踏まえると、裁判所は【X】「来客数がどの程度であったかも不明であるし、他の事務所への警告の実態も不明である」という前提で、【Y】「婚活業者事務所としての使用を止めさせるべきか否か」を判断することになります。

いかがでしょう。もちろん、これらの事情だけで結論が定まるわけではありませんが、こうしてみると本件において管理組合の請求が認められなかったことも納得し易いのではないでしょうか。

・・・このように、【X】「そもそもどのようなことが起こっているのか」という事実関係を訴訟においてきちんと立証できないと、その先の【Y】「だからどうしてほしい」にまで辿り着けないのです。
再度本件にあてはめると、来客数の記録(防犯カメラ、業務日誌等)や、他の事務所への警告の形跡(内容証明、議事録等)といった証拠がきちんと揃っていたかが気になるところです。

同じような問題を抱えている皆さんの管理組合において、こうした証拠はきちんと集められているでしょうか。
相手も警戒しますから、トラブル・対立が表面化してからでは間に合いません。常日頃から最悪の事態をも想定して管理に取り組んでおくという意識の有無が、訴訟という局面で勝負を分けることになります。是非、記録化・証拠化への意識を高めていただきたいと思います。

長くなってしまいましたので、今回はこの辺で。