第三者管理移行前に考えてほしい10のこと 後編

前回(AKBに学ぶマンション管理組合運営 -私のことは嫌いでも(以下略- - 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ)の最後にお約束しましたので、硬派なブログに戻ります。第三者管理について考えた前編の続きです。

2.外部専門家(業者)側の事情
前編の「1.管理組合側の事情」の「(2)外部専門家の選定が大変」や「(3)三者管理を担える外部専門家が少ない」と一部重複しますが改めて。

(1)広範な分野に対応できる外部専門家
マンションでは日々どのようなことが起こり、管理者(≒理事長&役員)はどのような場面で対応・判断を迫られるでしょうか。
日常的な管理・清掃、植栽、ゲストルーム等共用施設の管理、設備不良・故障、備品の購入、工事の発注、修繕・耐震・建替え計画の策定、管理人との遣り取り、管理費滞納等の問題のある区分所有者、住民間トラブル、会計・税務処理、専有部分内工事の申請・承認、専有部分売却時の仲介業者調査、対管理会社契約交渉、理事会・総会運営、隣地との境界確認、隣地住民とのトラブル、町内会等との関係構築、規約・細則変更、法人化とその登記・・・まだまだありますね。

これらに万遍なく「専門家レベルで」対応できる外部専門家を見つけるのは容易ではありません。

(2)継続性
マンション管理は数十年単位の仕事ですから、日々ノウハウや情報を蓄積していく必要があります。「外部専門家(管理会社も含みます)を雇う」とは、彼らが蓄積させてきたノウハウや情報を買うことでもあります。
ところが、あるマンション固有のノウハウや情報を外部専門家に集中させていた場合、その外部専門家が個人であったり小規模組織であったりすると、万一の場合にそれまでの積み重ねが失われてしまい易くなります。
また、外部専門家を替えた際に、こうした物件固有のノウハウや情報が(競合他社である)後任者にスムーズに引き継がれるとは限りません。

(3)コストと責任
こうした様々な問題への処理に要する日常的・突発的・継続的な作業は決して少なくありませんし、これらを第三者管理として引き受ける外部専門家も、高レベルな責任を負うことを前提に取り組まなければなりません。
そのため、(上記のように希少な)外部専門家にそれを委ねるとすれば、相応のコストを覚悟しなければなりません。

(4)財務的基盤
この「責任」とも関連しますが、外部専門家がミスや犯罪を犯した場合には最終的に金銭的賠償を求めることになります。
しかし、外部専門家が個人や小規模組織の場合、その賠償資金が乏しく被害回復を図れない虞があります(もちろん保険によりカバーがされる場合も多いでしょうけれど)。

(5)マンション管理会社
(コストについてはともかく)こうした条件をクリアし易い存在がマンション管理会社です。そのため「管理会社を外部専門家として起用するタイプの第三者管理」も考えられます。
ただ、それなら「役員は区分所有者が担い、管理の実質的大部分を管理会社に外注」という一般的なスタイルをとりつつ、管理会社の業務を監視監督すれば足りるのではないでしょうか(後述します。)。

3.管理意識
多くの方にとってマンションはとても大きな資産であり、大切な住まいであるはずです。
ところが、上記のような「役員は区分所有者が担い、管理の実質的大部分を管理会社に外注」という一般的スタイルをとっていても、「自分たちの資産を自分達で管理している」という意識はなかなか醸成されません。それなのに、この「役員は区分所有者」という要素まで欠けてしまったら管理意識はますます低下してしまい、第三者管理方式において不可欠である「外部専門家に対する監視・監督」も実効性を失うことになるでしょう。
輪番でも抽選でも長期政権であっても、とにかく「区分所有者が自ら管理を担っている」という意識の存在は、形には見えずとも少なからず管理状況に影響を及ぼしていると思います(もちろん、上記いずれの態様も過剰な場合は弊害もありますが。)。

4.私の考え
「第三者管理を採用しよう!」と考えている方へ。
2回に亘ってご紹介したように、それを実行すること、その後健全な管理を維持すること、その後方向転換することのいずれも、決して平坦な道ではありません。
もし、貴方が「それでもやる!」という決意をお持ちなのであれば、まずは貴方が理事長として、(上記のとおり外部専門家としての利点を広く備えているはずの)委託先管理会社と向き合い、その業務に問題があれば改善するよう求めるのが最も効率的で合理的だと思います。
その交渉に不安があり、また管理会社の業務の適否の判断がつかないのであれば(それが普通です。)、まずは外部専門家に「相談」し、一定期間管理を「手伝って」もらい、管理会社の業務の良し悪しを「見極め」てもらいましょう。
今は自主管理という方も同様です。こうした「相談」と「助力」を得ながら、管理会社を選択したり第三者管理採用の適否を見極めてもらったりするのです。
そのような関わり方であれば、外部専門家に支払うべき費用も(第三者管理の場合に比して)然程高額にはならないはずですし、その専門家との相性が悪くても、他に替わってもらえば良いだけです(「一旦始めた第三者管理を止める」よりもずっと簡単です。前編の「1(5)後戻りが困難」参照)。
しばらくそのように専門家の助力を得ながら管理会社を上手く使って管理に取り組み、その上で「やはり第三者管理が望ましい」という結論が変わらなければ、それから実行に移しても遅くはありません。
他の役員のなり手がいないのであれば、その定数を減らしてしまっても構いません(これも第三者管理採用よりずっと簡単にできることです。)。後で「役員に加わりたい」という仲間が現れた際に改めて増やせばよいのです。

「第三者管理を採用しよう!」と決断したということは、貴方はマンションの将来を真剣に考え、対策を模索し、第三者管理という方法に辿り着いた人であるということです。その上で「やれる」自信がある貴方であれば、きっと良い理事長になれると思います。

5.弁護士による第三者管理については番外編で
さて、弁護士の私が書いたこの記事をお読みになり「弁護士に管理者を任せてもダメなのか」という疑問を持つ方もおられるでしょう。
私は「お勧めしないし、当面私も引き受けない」とお答えします。
その理由は番外編として別の機会にご説明しようと思っています。

特別編はこちら↓

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