高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(2)_横浜地裁平成22年11月29日判決

前回の記事でご紹介したとおり、管理組合の総会における高圧一括受電方式導入決議に従わず従来の電力供給契約の解約手続を行わなかった者に対し、一部の区分所有者が損害賠償請求訴訟を提起した、という事例に係る最高裁判決が3月5日に予定されています。

momoo-law.hatenadiary.jp実は、この件のように「高圧一括受電方式導入決議に抵抗した者が訴えられたケース」は過去にもありました。しかもそれは単なる損害賠償請求ではなく、区分所有法第59条が定める競売請求(59条競売)が認容されているケースです(横浜地裁平成22年11月29日判決。なお、ここでは59条競売の説明は割愛します。私のこちらのブログをご参照ください…とできればよかったのですが、まだ関連記事を書いていないのでググってください。簡単に言うと、その所有している専有部分を強制的に競売にかけ、管理組合・区分所有建物から排除するという、管理組合の区分所有者に対する制裁措置のうち最も強力な手段です。それ故、これが認められるまでのハードルもかなり高いわけです。)。
このように書くと、「59条競売が認められたのであれば、損害賠償請求訴訟である本件は当然に認められるのではないか」と思われるかも知れません。

そこで、3月5日の最高裁判決を占う(?)べく、この横浜地裁判決についてざっくりと分析してみます。

1.経緯
平成21年5月 管理組合は、特別決議を以て高圧一括受電方式採用を決定
しかし被告は、同方式採用に必要な運営業者への文書の提出を拒否した。
そのため、管理組合は同方式に係る契約を締結できず、それに基づく工事を行うこともできなくなった。
平成21年10月 管理組合は臨時総会を開催し、暫定的に既存ケーブルを使って従来どおり東京電力から電気供給を受けつつ、高圧一括受電方式導入に備えて配線工事を完成させる旨を決議し、同工事は11月に完了した。
この臨時総会において、管理組合は59条競売及び被告に対する損害賠償を求める裁判を提起する旨の決議をした。
なお、同条に基づく弁明の機会が与えられる旨の通知を受けていたが、被告は上記臨時総会を欠席した。 

2.主な争点(便宜上59条競売に関する点に絞ります。)
被告の文書提出拒否が区分所有者の共同の利益に反するものであり、それによる共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか(59条競売が認められるかの判断基準です。)。

3.裁判所の認定・判断
(1) 管理組合は事前説明会や広報などの事前手続を周到に行っている。
(2) (被告は、高圧一括受電方式採用により「特別の影響」が生ずるため「承諾」を要すると主張するが)各住戸に等しく生ずる影響であるから、承諾は不要である。
(3) 同方式の採用は、各住戸の電気容量の選択肢を広げ利便性を高めるとともに、電気料金の低減も図るものであり合理性がある。
(4) 被告一人だけが文書提出を拒んでおり、それにより工事が行えない。
(5) 被告は、文書提出を拒む理由として「単相三線式電源に切り替える必要性がないこと」「業者を信用できないこと」「電源等に問題が生じた場合の東京電力への復帰がほぼ不可能であること」を挙げるが、その内容は極めて主観的な危惧感の域を出ておらず客観的な裏付けを伴うものとはいえない。
(6) しかも、被告は事前説明会や定期総会などの自己の見解を述べる機会があったにもかかわらずこれらには出席せず、本件訴訟提起後に行われた被告を対象とする説明会においても質疑応答をするにとどまっている。
(7) 本件訴訟の過程においても裁判官の説得に耳を貸さず、競売されるかもしれないとの警告を受けても自己の見解を変えようとしない。
(8) 被告の態度には建設的な議論を通じて問題解決に取り組む、という姿勢は見られず、専ら自己の見解に固執し、他の住民と協力して住環境の保全と向上を図ることには目を向けないという姿勢が顕著である。
(9) その上、被告は、以前から他の住民と協調して住環境の保全を図ることを拒否することがしばしばあった。
(10) とりわけ、雑排水管改修及び浴室防水工事を拒否した際には裁判にまで発展し、被告はその和解において「・・・管理規約、総会決議その他の関係法規を遵守し、相互に協力することを約する。」旨の約束をしたにもかかわらず、その後もこの約束に反した対応をとり続けている。
(11) 以上から、上記「2.主な争点」は全て認められる。

いかがでしょうか。
前回記事でご紹介した事例とよく似ていますね。
ということは、最高裁もこの横浜地裁と同様に、一審・二審の判断を維持して原告の請求を認めるのでしょうか。

次回は、この2件の違いを検討しつつ最高裁判決を予想(?)してみようと思います。
3月5日に間に合うかな…。

次回記事はこちら↓

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