新型コロナによる管理組合の総会延期

2020年3月17日、文末に追記

新型コロナ感染防止のために様々なイベントが中止・延期を余儀なくされていますが、東京地裁は今のところ通常運転です。法廷の人口密度は然程高くないものの、弁準の会議室や待合室でゴホゴホしている方がおられると不安になりますね…。私は、そろそろストックがなくなるマスク、肌が荒れるほどの手洗い、したたり落ちるほどのアルコール消毒で燃え尽きるほど頑張っています。

さて、そんな我々のビッグイベントといえば、言うまでもなく年に一度の祭典である通常総会です。皆さん、開催を心待ちにしておられますよね。

ただ「参加者は理事と管理会社の担当者だけ」といった平和な(?)管理組合でない限り、Perfumeでさえライブを中止するこの状況下で、全区分所有者を集めて2時間も侃々諤々だなんて…。
事態が落ち着くまで延期したいけれど、延期しちゃうと理事長としての責任を問われてしまうのでは、と悩んでいる方もおられるかも知れません。

残念ながら私はその筋の専門家ではありませんので、新型コロナの感染経路や治療法、総会延期による感染防止の実効性などについて正確な情報をお伝えすることができません。また、本日2月27日時点以降、新たな情報が明らかになったり政府から指導・要請が発せられたりすることもあるでしょう。

とはいえ、今現在開催or延期で迷っておられる理事長の皆様には、頼りなくても判断材料が必要であろうと思いますので「あくまで現時点での私見」としてお伝えします。
会場の広さ、見込まれる参加人数、喫緊の課題の有無、当局の要請といった事情を考慮し「やっぱり総会はアブナイ」とお考えになるならば、無理せず延期して差し支えない(それによって、その判断に至った理事(長)が個人的な責任を負うことは想定し難い)と思います。

そもそも、総会ってどういう根拠により、いつやらなければならず、やらないとどうなってしまうか、という点から整理してみます。

1.区分所有法(以下「法」)における総会開催時期
(1) 非法人の場合
法第43条は「管理者(※標準管理規約では理事長)は、集会(※総会)において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。」と定めており、「一定の時期」がいつであるのかは多くの管理組合では規約で具体化されています。
(2)法人の場合
上記法43条の読み替え規定である法47条12項も、理事(※法人の理事を指し、標準管理規約における非法人の理事とは性質を異にします。やや不正確ですが「理事長」をイメージしてください。)が上記報告の義務を負う旨を定めているに止まり、「いつからいつまでに」という規定はありません。
このように、法人非法人を問わず、一般的には「いつからいつまでの間に総会を開催すべきか」は規約次第となります。以下、標準管理規約を前提として説明します。

2.標準管理規約が定める総会開催時期
標準管理規約第42条3項は「理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後2か月以内に招集しなければならない。」と定めています。
「会計年度」も規約次第ですが「3月締め」としている管理組合は比較的多いと思います(12月締めや9月締めの管理組合もありますね。なお「会計年度を変更することで管理会社への管理委託費の値下げを実現した」というケースがありますが、それは別の機会に。)。
3月締めだとすると、標準管理規約第42条3項に基づき4月~5月の間に総会を開催しなければなりません。それまでにコロナが収束すればよいのですが、そうでなかった場合、理事長は規定どおりの開催か延期かの決断を迫られることになります。

以上が、総会開催時期に関するルールです。
では、こうしたルールに違反した場合、どのような効果が生ずるのでしょうか。誰かに叱られたり、誰かにお金を払わなければならないのでしょうか。

3.罰則
管理組合に関し「罰則」というと意外に思われるかも知れませんが、実は、一定のやらかしに関し法が罰則を設けています(※但し、下記「過料」はいわゆる「刑罰」ではありません。少々複雑であるため詳細は割愛します。)。
そして法第71条4号は、上記法43条(と読み替えられた47条12項)に違反して総会で一定の期間内に事務の報告をしなかった理事長は「20万円以下の過料に処する。」と定めています。

4.規約違反
上記のように規約で「総会を招集して報告せよ」と定められているのですから、それに従わず総会を延期すれば(即ち所定の時期に総会を招集しなければ)、当然「規約違反」にあたり、法25条所定の解任請求や、善管注意義務違反に基づく損害賠償請求の対象になりそうです(「誰にどんな損害が生じたか」はさておき)。

5.出席に代わる書面提出の推奨
こうしたリスクを回避するために、「ルールどおり総会は開催するが、できる限り出席者を減らすために、議決権行使書・委任状の提出を推奨する(来場はなるべくご遠慮いただく)」といった方法が考えられます。
私も、この方法自体は現実的で合理的であると思いますし、状況によってはそのように助言するかも知れません。
ただ、例えば2大勢力による激しい意見対立が生じているような管理組合で理事長が上記のように推奨すれば、一般的傾向として「招集側」が有利であるという傾向も相まって、総会当日以外に意見表明機会が乏しい反対派の強い反発を受けかねません(そのような経緯を理由に決議が無効と評価される可能性は低いと思われるものの、事実上トラブルが生じることは容易に想像できます。)。
何より、理事長の「推奨」に負けない熱心な区分所有者が集まれば、感染のリスクが残ってしまいます。

6.延期による現実的なリスク
では、感染予防を重視して規約に抵触する延期を実行した場合、招集権者(義務者)である理事長には、現実に上記3や4のような責任が生ずるのでしょうか。
もちろんその可能性が皆無であるとは言いませんが、法や裁判所はそこまで常識外れではありませんし、暇でもありません。
総会延期は、新型コロナ感染という身体・生命への脅威から区分所有者を守る措置であり、その目的は総会の趣旨と比較して優先すべきといえますから、それが善管注意義務違反であるとか解任事由に該当するとか罰則が適用されるといった事態(要するに、その措置が「違法である」と評価されること)は、なかなか想定し難いと思います。
なお、総会延期に限らず、私は恥ずかしながら上記3の罰則が適用されたケースを直接知りません(判例検索によると事件として手続が開始された事例は見受けられましたが、現実に過料が科されたかどうかは不明でした。どなたかご存知であれば情報をお寄せくださいw)。

ここまで書いていたところ、あのはるぶーさんから情報が。
マンション管理業協会が、本日2月27日改訂版「マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン」を公表したようです。
インフォメーション|一般社団法人 マンション管理業協会

これはあくまで「管理会社視点」によるものですが「居住者の安全を確保するために、場合によっては集会等を延期、中止することも止むを得ないことをアドバイスする必要があります。」「法令遵守(※管理委託契約締結時の説明会開催義務)を優先する余り、居住者の安全を脅かす結果となることは、マンション管理会社の姿勢としてふさわしいものではありません」「いかなる場合でも居住者の安全を確保することを最優先として業務を行うことが望まれます。」と指摘されています。そして、同ガイドライン国交省による「集会、スポーツ大会等については、一律の自粛要請は行わないが、主催者に対し、感染の広がりを考慮し、当該集会等の開催の必要性を改めて検討するとともに、感染機会を減らすための工夫を検討するよう要請する」という要請も踏まえたものです。

こうした事情も踏まえれば、形式的に法や規約に抵触するからといって、総会の延期を理由にその判断をした理事(長)に個人的な責任が生ずる(と裁判所が法的に評価する)ことは、やはり考えにくいといってよさそうです。

と、ここまで書いていたところに更にこんなニュースが…。

実際の総会予定日とは重ならないかも知れませんが、この状況が以後も続くようであればやはり総会も延期するのが穏当であるといえそうですね。

7.実際に延期する場合
延期はあくまで「多くの区分所有者が集まることを避ける」措置であるため、それ以外の「できること」はやっておくと良いでしょう。そうすることで上記リスクも更に縮減できるはずです。
具体的には、所定の内容を記した議案書を通常と同じ時期に配布することで区分所有者による検討は促しておき、開催日のみを未定としておく、というのがシンプルで合理的であるように思います。
もちろん、延期によるタイムラグに起因する問題も生じるでしょうけれど、まずは区分所有者の身体・生命を優先しつつ、できる限りで対処すれば良いのではないでしょうか。
この点でお悩みがあれば、是非ご相談ください(と、最後はいつもどおり宣伝)。

8.1/5総会(あまり考えたくない論点)
なお、法的責任とは別次元の問題ではありますが、理事(長)としての資質を問う意味で、総会を延期したことを理由に別途その解任を求めることはもちろん可能です。
では、例えば現理事の解任を求めるためのいわゆる1/5総会(※説明は割愛します)の招集を請求された理事長は、新型コロナ感染予防を理由に所定の期間内における総会招集を拒否することができるでしょうか。拒否されたことに基づき請求者側が招集した総会で有効に決議ができるのでしょうか。
法的にどうなるにせよ、そのような手段での決議によって問題が根本的に解決することはあまり期待できませんから、せめて感染が収束するまでは、管理組合内の紛争も一時休戦とすることをお勧めします・・・(「どうしてもやりたい」とか「やられたけどどうしよう」という方もご相談ください。)。

2020年3月17日追記
法務省が、このようなコメントを出しました。
法務省:マンションの管理組合等における集会の開催について
結論はこの記事と変わりませんが、こちらで区分所有法34条2項と66条を指摘し忘れていたのに気づきました…。