新型コロナを理由とする管理費等滞納への配慮

先ほど、私が事務所近所で黒胡麻担担麺をヒンナヒンナしてポロシャツにシミをつけている間に、39県の緊急事態宣言が解除される旨の会見が開かれたようです。
とはいえまだまだ油断はできませんし、管理組合からの新型コロナに関するご相談も途切れておりません。

このブログでもこの点に関し数件記事を書いてきましたが、一つ大事なことを忘れていたところ・・・、著名なマンション管理士である(その枠に止まらず大変幅広く活躍されている)廣田信子さんのこちらのブログに気づきました。

廣田さんの優しいお人柄が伝わる記事であり、お気持ちは大変良く理解できます。
理解できますが…賛成することはできません。理由は以下のとおりです。
なお、管理組合側の選択肢は支払の時間的猶予、元金や遅延損害金の免除など色々あるものの、それらをどのような条件で行い得るかという点は一旦ここでは割愛し、抽象的に「配慮」としておきます。また「支払義務がある(請求する権利がある)」という点は当然のことなので、こちらにも触れません。

1.原因による区別
そもそも、管理費滞納の理由がコロナか否かで区別する意味はないと思います。
もちろん、コロナによる経済的困窮は大変気の毒なことです。
しかし、同じように本人に全く責任がなく同情すべき理由で経済的に困窮する例はいくらでもあります(病気、事故、勤め先の破綻など)。
これらについては配慮せず、コロナについてのみ配慮する合理的理由はなさそうですし、公平の観点からも適切ではありません。

2.原因の確認
仮に「区別すべき」と考えるとしても、それが「コロナが理由である」ことや、それによって「実際に収入が減った」ことを、どうやって確かめられるでしょうか。
中には「長年の関係を通じてお話を信頼できる」という方もいるでしょうけれど、それを他の組合員に説得的に説明できるでしょうか。また、そのような「関係」がある方とない方とで区別してもよいものでしょうか。

3.調査・判断に伴う負担
「コロナにより経済的に厳しいから配慮してほしい」という申入れに対し、誰が調査し対応するのでしょうか。管理会社は連絡窓口になってはくれますが、その調査や判断は理事長や理事会でせざるを得ません。
「帳簿や通帳を精査する」能力がある理事がいるとは限りませんし、そのような特別な負担や調査に係る責任を負わせてしまうことになります。

4.意見対立
廣田さんと私という二人だけの間でもこうして意見が違うのですから、組合員相互間でも「配慮すべきだvsすべきではない」という意見対立が生じます。しかもテーマは管理費という管理組合の根幹に関わり組合員の利害に直結する問題であるため、対立は深刻化し易いと言わざるを得ません。「配慮」の目的は円満なコミュニティの維持であったはずなのに、かえって管理組合内に分断を生じさせてしまいかねません。
また、最近の政府は対コロナ政策において「自粛を強化すべきvs緩和すべき」という意見対立の中で専門家を起用し判断をくだしています(その是非についてはここでは触れません)。そして、どのような判断であろうとも(仮に将来歴史が「正しかった」と評価しても)、それは激しい批判に晒されます。
管理組合のプロでも専門家でもなく、管理費の滞納自体には何の責任もない理事長にその重圧を加えるのは酷でしょう。

概ね以上の理由により、私は「新型コロナを理由とする管理費滞納への配慮」は、すべきではないと考えています。
それでは、どうすればよいのでしょうか。

苛烈に取り立てる必要はありませんし、そんなことをするべきでもありません。滞納を理由に根拠のない不利益を与えたり村八分にすることなど言語道断です。
何も特別なことをしなくてもよいのです。粛々と淡々と、とるべき手続を踏めば足ります。そのように進めたとしてもある程度時間はかかりますし、法的手続に踏み切ったとしても短期間で終わるわけではありません。
こうした時間を使って、手続と並行して協議しつつ事態の改善を待てばよいのです。
その結果、残念ながら「やはり払えない」ということであれば、それまでの手続を活かして次の段階に進むことができ、時間を無駄にしません。何より「やるべきことをきちんとやっている」のですから、他の組合員の理解も得られることでしょう。

冷たい対応であるように感じられるかも知れませんが、管理組合という団体の特性からすれば、このような対応の方が円満なコミュニティを維持できるのではないかと思います。