Zoom等のweb会議による理事会

この件について、顧問先管理組合を中心に多くのご相談を受けています。特に、先般当ブログでもご紹介した「理事会決議による総会延期」に関し、「そのための理事会を開くことも躊躇している」というご相談です。
普段は、顧問先に提供した助言をすぐにブログにアップすることは避けており、また今回ほど踏み込んだ裁判所の判断予測も書かないのですが、何しろ緊急事態ですから皆様のために頑張りました…ので褒めてください。そして、コロナ禍が収束したら(収束しなくても)顧m(以下略)。

なお、管理規約はマンションごとに異なりますので、ここではいつもどおり標準管理規約を前提に検討します。

1.標準管理規約の規定

第53条1項
理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
2 次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。

第53条に関する標準管理規約コメント⑤
理事会に出席できない理事について、インターネット技術によるテレビ会議等での理事会参加や議決権行使を認める旨を、規約において定めることも考えられる。

第52条4項で準用される第43条1項
総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して組合員に通知を発しなければならない。

これらの条項やコメント(簡単に言えば、国交省による標準管理規約に関する補足説明です。)の文言を素直に読めば、標準管理規約はあくまで「メンバーが一堂に会して直接議論する方法によるリアル会議」を想定しており、「Zoom等を活用したweb会議」は規約の定めがない限り行えない、とも思えます。
もちろん、今後web会議を行いたいという管理組合におかれては、こうした規約の整備を進めておくべきです。
では、規約上明確にweb会議に係る規定がないと、理事会をweb会議で行うことはできないのでしょうか。

2.リアル会議の趣旨
標準管理規約がリアル会議による理事会を想定している趣旨は「理事が対等・公平な立場で現実に意見を交換し、その議論に基づき決議される」という意思決定の「品質」維持にあると解されます。
この点web会議も、少なくともネット環境が安定している状態のZoomであれば上記趣旨にかなった方法であると思われます(以下、web会議はこうした性能を備えていることを前提とします。)。

では、そのようなweb会議であれば、規約に明確な規定がなくとも理事会で採用して良いでしょうか。

3.web会議採用の態様
そもそも「理事会をweb会議で行う」と一口でいっても、その態様は以下のように分けられます。実際、私へのご相談でも以下の両パターンがありました。
①通常の「リアル会議」を行いつつ、web会議による参加も認める「併用型」
②web会議のみの方法で行う「web限定型」
順に検討します。

(1) 併用型
上記のとおり現在のweb会議自体はリアル会議の趣旨を充たし得るといえます。
そして、物理的・技術的にweb会議に参加できない理事はリアル会議に出席すれば足ります。リアル会議にも参加しない理事がいたとしても、そのような理事が(定足数に抵触しない範囲で)存在することは現行規約でも元々予定されています。出席の選択肢を広げる方向の修正であり、これにより制約を受ける理事はいないはずですから、web会議について明確が規定のない現行標準管理規約の下でも、併用型を採用することは可能であると考えます。

※ここで「可能である」とは、緊急事態宣言がなされたという状況を踏まえて、「仮に理事会決議無効確認訴訟が提起されても、裁判所が『手続に瑕疵がない』又は『瑕疵はあるが決議を無効とする重大な瑕疵ではない』と判断すると(桃尾が)予想する」という意味です。形式的には標準管理規約に抵触するであろうこと及び規約の明確化が望ましいことは前述のとおりです。以下も同様です。

(2) web限定型
「web会議もリアル会議の趣旨を充たす」という点からすれば、これも差し支えないでしょうか。
理事全員がweb会議に参加できるのであればそのように言えると思います。ファミレスなどの騒々しく情報管理上の配慮が必要な環境で行うリアル会議よりも、各理事が静かな自宅に居ながらにして行うweb会議の方が適しているとさえいえるでしょう。なお、本筋からは外れますが、この点カラオケボックスは便利です。残念ながら今は多くの店舗は営業を止めているようですが。

問題は、「物理的・技術的にweb会議に参加できない理事がいた場合」です。
この場合にweb限定型を強行すると「規約上の根拠がない方法がとられたことによって、理事会に参加する権利を侵害された理事」が生ずることになりますから、そのような理事会の決議は無効であると判断されるリスクが増すと言わざるを得ません。

では、一人でもweb会議に参加できない理事がいる以上、web限定型は採用できないのでしょうか。平時ならそれも仕方ないかも知れませんが、やはり緊急事態にある中でリアル会議を行うリスクを考えると、話はそう簡単ではないはずです(地域、理事の人数・年齢、マンション内や近隣における会議に適した環境の不存在、といった事情から「理事会程度の規模であっても集まるのはリスキー」と考えても不合理ではないでしょう。)。

そこで「このweb会議に参加できない理事」に対し「リアル会議にできるだけ近づくような権利行使の機会を与える」方法を考えることになります。
最もシンプルな方法は、そのような理事から「理事会をweb会議で行う旨の承諾」を得ることです。もちろん、文書やメールといった形に残る方法で、web会議欠席理事「全員」から取得するべきです。

ただ、この場合ウェブ会議欠席理事はweb会議での議論に参加できませんから、議案に対する意見や賛否の表明は「ア 総会での議決権行使書のように事前に行う」か「イ web会議の後に、その議論を踏まえて行う」ほかありません。

リアル会議の趣旨からすれば、イの方が丁寧であるといえます。理事会における委任状提出・書面による議決権行使は少なくとも文言上明確には認められておらず推奨もされていませんし、web会議欠席理事は「自身の意見・賛否を知ってもらえばいい」だけでなく「他の理事の意見に対する自身の反対意見も踏まえて賛否を決してもらいたい」はずだからです。
とはいえ私は、アを採用したとしても、それによって決議無効を評される可能性は然程高くないのでは、と考えています。当該理事自身がこうした要請を放棄しているといえるからです。

さて、残る問題は「web会議にも参加しないし、web会議を行うことも承諾してくれない理事がいる場合」です。理事会内で意見対立が生じているといった状況では起こり得る事態です。このような場合に、リアル会議の趣旨に近づける方法はあるでしょうか。

私は、上記イの場合の具体的手法の応用によることを考えていますが、さすがに長くなってきたので本日はこの辺で。