秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人について(2) -職務執行停止仮処分・保全異議-

秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人(以下「管理組合」)46期理事の職務執行を停止する仮処分(以下「原仮処分決定」)に対し、債務者46期理事から異議申立て(以下「本件保全異議」)がなされていましたが、東京地裁民事第8部は、令和4年9月9日付で原仮処分決定を維持(認可)しました。

本件、特に令和3年11月6日に開催された臨時総会における議事進行に関し、一部事実と異なる報道・主張がなされていました。
この点について、原仮処分決定に際しては、裁判所の実務的運用により詳細な事実認定は示されませんでしたが、本件保全異議認可決定に伴い、主に以下のように認定されました。
なお、原仮処分決定の内容やそれまでの経緯については前回の記事をご参照ください。

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債権者:組合員1名(代理人弁護士:桃尾俊明)
債務者:管理組合及び46期理事(理事長及び理事3名※1。以下「46期理事」。代理人弁護士:なし※2)
※1:原仮処分決定の対象となった理事5名全員が保全異議を申し立てましたが、その後債務者Eがこれを取り下げ、また債務者Fは申立後に「理事を辞任した」旨を表明しました。それ故、下記主文において債務者Eは除外され、債務者Fについては原仮処分決定が取り消されました。
※2:管理組合顧問弁護士2名が46期理事及び管理組合の双方の代理人として本件保全異議を申し立てましたが、その後いずれの代理人も辞任しました(管理組合の顧問も辞任したようです。)。

主文(やや簡略化しています)
1 本件保全異議の申立てのうち、債務者管理組合の申立てによる部分を却下する。
2 原仮処分決定のうち、債務者Aは理事兼代表理事の職務を、債務者B、C、Dは理事の職務を執行してはならない部分を、いずれも認可する※。債務者Fの部分は取り消す。
  ※原仮処分決定を維持するという意味です。
3 債務者Fの取消しに係る部分につき、債権者の本件仮処分命令申立てを却下する。
4 申立費用及び異議申立費用は、いずれも債務者A、B、C及びDの負担とする。

まず、主文1は、原仮処分決定によって理事長としての職務執行を停止されていたにも関わらず、債務者Aが(個人としてではなく)管理組合代表理事としても本件保全異議を申し立てたことを理由に、「管理組合による保全異議申立て」が却下されたものです。
前述のとおり、この却下された部分の申立ても、当時の顧問弁護士が代理人として行っていました。

また、主文3は、前述のとおり債務者Fが理事辞任を表明したため「保全の必要性なし」と判断されたものです。

主文2が、本件保全異議の実質的な結論です。

1.議長不信任・交代決議の有効性
以下の事実認定を踏まえて、債務者A(当時の理事長)に係る議長不信任・債権者への交代決議に瑕疵はない、と判断しました。なお、一部メディアにおいて「債権者が当時の議長債務者Aから強引にマイクを奪い取った」かのような報道・主張も見受けられましたが、そのような認定は一切なされていません。
 (1)開会当時に債務者A、Fが発表した委任状数においては、46期理事会が多数を占めていた。
 (2)債権者側が上記発表に疑義があると指摘したことで行われた46期理事側による再集計(顧問弁護士の1名が立会い)の結果は、次のとおり債権者側委任状が大幅に増加したものであった。
  ①会場出席者:57名(議決権数59票)
  ②46期理事側への委任状:106名(議決権数110票)
  ③債権者側への委任状:98票(議決権数100票)
 (3)この発表後、議長を務めていた債務者Fが本件総会を終了させる意向を示したことから、債権者が本件総会に同席していた顧問弁護士に対し意見を求めたところ、同弁護士は、決議をとることはやむを得ない旨の発言をした。
 (4)議長が債務者Fから債務者A(当時の理事長)に交代し、債務者Aは再度票数を精査する必要がある旨の意向を示した。
 (5)債権者が債務者Aについて議長不信任・交代の動議を申し入れたが、債務者Aは、票数に疑義があるから本件総会を理事長責任で終了させる旨を述べ、動議を議場に諮ることを拒否した。
 (6)債権者が自ら動議の採決を議場に諮ったところ、賛成多数であったことから、議長不信任・交代決議がされたとして、自身が本件総会の議長を務めることとした。
 (7)債権者側の委任状は、議長選任及び当日なされた動議に対する議決権行使の権限を委任することもその対象としていた。
 (8)議長交代後、債権者側推薦候補者・46期理事推薦候補者の双方について本件役員選任決議の採決がなされ、債務者Aら46期理事も挙手して議事に参加した(その後債務者Aは「議決には参加していない」旨の発言をした。)。

2.本件役員選任決議
 (1)結果
  債権者を議長としてなされた本件役員選任決議の集計結果について、以下のとおり認定しました
  ①居室数(総議決権数):298
  ②出席組合員の議決権数:269
  ③出席組合員の議決権の過半数:135
  ④債権者側選任の賛成数:143(議場では137と宣言された。)
  ※なお、会場壇上にて本件総会に同席していた顧問弁護士(当時は3名)が代理人として作成した原仮処分決定前の審尋における答弁書には、当日出席者中の46期理事側選任賛成者数に関し「現役員による賛成が9票、会場出席者の賛成が19票であった」(即ち計28票)との記載がありました。しかし、債権者提出証拠である動画・画像に基づき認定された「46期理事側選任に賛成する会場出席者票数」は「3票」に止まりました。
 (2)債務者(46期理事)の反論とそれに対する裁判所の判断
  46期理事は主に以下のように反論しましたが(いずれも顧問弁護士が代理人として準備書面を提出)、これらの主張は次のとおりいずれも認められませんでした。
  ア 本件総会を撮影した画像は合成されたものである。
    ←証拠なし
  イ 債権者側の委任状は、当時の理事会(46期理事)が作成した書式ではなく、未だ議題が不明であった令和3年6月頃(本件総会は同年11月6日開催)から集められたものであり、個別委任の原則に反し、全て無効である。
    ←総会延期の経緯(46期理事会の判断)、債権者側委任状書式の記載(対象議題の明記)から、これらの委任状を作成した組合員の意思を合理的に解釈すれば、債権者らを代理人とする意思を有していると解せられる。
  ウ 一旦出席した者が事前に提出した委任状は、委任状を行使する旨を途中退席時に改めて申し出ない限り、無効となる。
    ←途中退席者が債権者らに委任する意思を有していたことが証拠(陳述書)により認められる。
  エ 日付の記載のない委任状は無効と扱うべきであり、債権者もその旨合意した。
    ←合意した証拠なし

3.保全の必要性
  次のように肯定されました。
 (46期理事は)「原仮処分決定後も理事会として業務を継続する意向を示しており、工事等の発注、物品の購入、預貯金の引出しなどを行えば、管理組合に経済的な損害が発生するから、保全の必要性が認められるというべきである。」

以上のとおり、原仮処分決定は維持されました。
なお、本件に係る本案訴訟(原告:上記債権者、被告:管理組合、補助参加:債務者A~D)は既に係属しています。