このブログを始めるまで

ブログを開設して3本目の記事となりました。
今更ながら自己紹介を兼ねて,私が何故,弁護士業務としてはかなりマイナーなマンション管理という分野に取り組み,このブログを始めるに至ったのかを綴ってみます。
・・・今回,マンション管理に有益な情報は本当に一切ありませんのでご注意を。

平成14年秋に旧司法試験に合格し司法研修所の寮(いずみ寮B棟)に移るまでの約25年間,ずっと実家暮らしが続いていた私は,その後計9回もの引越しを経て,今から6年前に現在住んでいるマンションを購入しました。

マンション購入を検討し始めたのは,私がまだいわゆる渉外事務所に勤めていた頃です。
弁護士登録後最初に所属したその事務所は,六本木一丁目を最寄駅とする大型オフィスビルにありました(弁護士登録→その10日後からの北京語学留学→上海事務所勤務→東京にて商社への出向,という外回りを経て登録2年後からようやくこのオフィスで働くようになったのですが,これらのお話はまた別の機会に)。

渉外事務所といえば「家には寝るためだけに帰る」という激務のイメージがあるかも知れません・・・まぁ概ねそんな感じでしたから,少しでも時間を節約すべく隣駅の麻布十番の賃貸マンションで東京での弁護士生活をスタートさせました。
大人になった(?)今考えると,同じく南北線一本で通える飯田橋本駒込に住んでみれば良かったと思うのですが,きっと調子にのっていたのでしょう。おしゃ子(※)に嫌われそうなイキッた物件でした(正に建物は第1話,家具は第2話のまんま)。

ある日の夜,その麻布十番駅で私の人生に転機が訪れます。
久しぶりに早く帰宅できるという気の緩みからか,下車した途端に強烈な腹痛が。私は徒歩3分の道のりに耐えられるか否かを瞬時に判断し,駅のトイレに駆け込み,一仕事を終えたのです。
身も心も軽くなった私がそのとき出会ったのが・・・トイレの入口脇に整然と並んだ

「SUUMO」でした。

ええ,あのSUUMOです。
当時はまだ「住宅情報マンションズ」だったような気もしますが,細かいことはさておき,SUUMOを手に取り心を揺さぶられ,マンションを買いたいと思ったのです。リクルートさんの思惑どおりの,ちょっと恥ずかしいくらい普通のきっかけです。

ただ,これはあくまで「マンション購入」のきっかけに過ぎません。
その後マンション管理士資格をとり,この分野の仕事に取り組み,あちこちで偉そうにつまらないコメントをし,このブログを書くようになるまでには,更にいくつかの出会いがありました。

・・・前2回の記事が長過ぎたという反省から,今回はこの辺で。

※おしゃ家ソムリエおしゃ子!

realestate.yahoo.co.jp

規約による民泊の禁止 -法令・条例等と規約との関係,「専ら住宅」条項の位置づけ-

今回もやや重めの内容です(以前,私のFacebookページに掲載した記事を若干加工したものです。)。

予めお断りしておきますが,今後もずっとこのような真面目で重たい記事ばかりを書くつもりはありません(というか無理)。
せっかくブログを開設したのですから自己紹介等の軽めの記事も書いてみたいのですが,早めに知っておいていただきたい事柄を優先させることにします。我ながらエライですね。

さて,先日の記事でご案内したとおり標準管理規約が改正されたところ,同第12条の
「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」
という文言は従来のままとなりました。

そして,同条と民泊に関して,標準管理規約を採用している管理組合が多いという前提のもと,この「専ら住宅として」との文言を以て民泊を禁止し得るか(即ち,民泊を行うためにはこの条項を変更する必要があるのか),という点が議論されました。
問題の所在は,この「専ら住居として使用」という文言だけでは,民泊が禁じられているのか許容されているのかが必ずしも明らかではない,という点にあります。

もっとも,後述するとおり,現在標準管理規約を採用している管理組合であっても,民泊を禁止(又は許容)したければ,この第12条を独自の文言に修正しその方針を明確化することができますから,管理組合の今後の対応を考える上では,上記議論自体にあまり意味はありません。

ただ,民泊の禁止・許容,管理規約,旅館業法や条例に表れる国・地方の政策という各事項間の関係が少々分かり辛いため,今回は「専ら住宅として」条項がどの次元の問題であるかを交えつつ,「自身のマンションではどうすればよいか」という観点で,これらについて整理してみようと思います。

1.そもそも管理組合の方針は民泊禁止なのか許容なのか

まずはこの点について管理組合内部で意見調整を行うことが肝要です。
もちろん「良く分からないからどっちでもいい」も一つの考え方ではありますが,「方針を明らかにしないうちに物件内で民泊が広く行われるようになってしまった」という事態に至ると軌道修正は困難ですから,やはり早めに民泊について理解するよう努め,方針を定めて動くことをお勧めします。

(1)禁止する
「国・地方の政策に従うしかないのでは」と誤解している方もおられますが,これらが民泊を推進し,旅館業法等の法律や条例等によってこれを許容しようとも,管理組合がその区分所有建物の管理上民泊は相応しくないと考えるならば,規約によって禁ずることが可能です。
例えば,ペットの飼育は法律で禁じられていなくても規約でこれを禁じ得ることと同じように考えてみてください。

(2)許容する
「許容する」としても,どのような態様において許容されるのかは旅館業法や条例等を精査しなければなりませんし,また,これらに抵触する態様で行われていないかを監視する必要があります。

現状民泊が許容される場面はかなり限定的であり,「禁止したい」という思いで本ブログをお読みの方が多いと想像しますので,今回は「(1)禁止する」を選択して続けます。

2.現在,どのような規約であるか(標準管理規約を採用しているか)

(A)独自の規約
標準管理規約ではなく独自の規約を設けているのであれば,その文言により民泊を禁止していると解釈し得るか否か(禁止するために規約を変更する必要があるのか)を確認します。その判断が難しい場合には専門家の助言も参考にしてください。

(B)標準管理規約を採用している(又は上記同12条と同様の条項がある)
この(B)が,冒頭ご案内した「議論」があてはまる場面です。
比較的多くあてはまるケースではあるのですが,こうして議論全体を整理してみると意外と局地的な問題であることが分かると思います。
この件に限らず,ニュースなどで大きく取り上げられる問題だからといって,それが結論を直接決定づける論点であると誤解しないよう注意してください。

この(B)のケースであるとして続けます。

3.規約を変更するか

(B)の場合の対応方法は,
(a)(「専ら住宅として」という文言を以て民泊が禁止されているという解釈に基づき)現状を維持する
(b)(「専ら住宅として」という文言では民泊が禁止されているか否かが不透明であるという解釈に基づき,又は上記(a)の解釈をとるものの,疑いや紛争が生じぬよう)規約を変更し「禁止」であることをより明確にする
という選択肢となります。

私は,文言解釈としては(a)の見解をとります(厳密には民泊も色々ですから一概には言えませんが。)。とすると,規約改正は要せず現状維持で良いでしょうか。
しかし,「民泊禁止」が管理組合の意思であるならば,無用な解釈論争を回避し(現在のところ行政の考えも定まっておりませんし,行政がある解釈を示したとしても,それがそのまま法的に採用されるとは限りません。),また警告的効果を得るためにも(規約改正により区分所有者には当然周知されます。中古販売に際しては重説で示すよう徹底すべきです。),(b)のとおり規約変更をお勧めします(上記(b)のうち,下線部の考え方です。)。

4.どのような規約にするか

(b)を選択した場合には,具体的にどのような規約にするかを考えます。
具体的には,
(ア)専有部分・共用部分を問わず全面禁止とするか,共用部分(ゲストルーム等)のみ禁止とするか
(イ)禁止する態様(人数・宿泊日数等)を具体的に定めるか「不特定多数による短期の利用」といった抽象的文言に止めるか
(ウ)単に「民泊禁止」を謳うか,広告の禁止や立入検査等についても定めるか
(エ)牽制効果を狙って民泊を規約上禁じたことを対外的に公表するか否か

等々が考えられ,これらを組み合わせて条項を定めていきます。

 

おそらく,今後も法律,条令,通達等々によって民泊の許容度は(おそらく促進方向で)変化していくと思われます。
しかし,それらの政策と規約とは別次元の問題でありますので,管理組合は,その方針に基づいて態度を明確にしておくべきです。
「考える間もなく,いつの間にかマンションで民泊が広まっており,手の施しようがない」という最悪の事態を避けるため,まずは「民泊とは何か」を知り,「自身のマンションがとるべき方向性」を考えることから始めましょう。

標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除

ブログを開設しました。

最初の記事は自己紹介から始めるのが普通だと思いますが,マンション管理に携わる皆様,特に現在管理組合の役員を務めておられる皆様に,なるべく早くお知らせし安心していただきたいことがありますので,いきなり長文で重めの記事となりました。
自己紹介やブログを始めるに至った経緯などは,改めてご紹介いたします。

3月14日,改正標準管理規約が発表されました。
その改正事項のうち大きな注目を集め議論が展開されたものの一つが,いわゆるコミュニティ条項の削除です。
ところが,その議論の位置づけがやや捉え辛く誤解も見受けられるため,少々くどくなりますが,この議論の問題の所在に遡って解説しつつ,管理組合がどのように対処するべきかについて考えてみたいと思います。

1.新旧条項(コミュニティ条項の削除)
第27条
「管理費は,次の各号に掲げる通常の管理に要する経費に充当する」
と管理費の用途を定め,その10号が
「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」
と定めていたところ,今回この10号が削除されました。
32条
「管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う」
と管理組合の業務内容を定め,その15号が
「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」
と定めていたところ,今回この15号が削除されました。

2.標準管理規約の性質
国交省は,標準管理規約の条項と,それらの解説である「コメント」を作成し公表します。

まず,大前提として同規約は法的拘束力をもつものではなく,あくまで国交省が提示するモデルに過ぎませんから,今回の改正によって皆様の物件の規約が自動的に標準管理規約のとおりに改正されるわけでもありませんし,規約をこれに合わせなければ違法ということでもありません。

では,このように直接的な影響が生ずるわけではないにも関わらず,今回何故「削除すべきではない」という意見が多く寄せられたのでしょうか。
※上記削除の是非に関し各方面から多数の意見が寄せられ,今般の改正に際し国交省が公表した「パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方」によると「コミュニティ条項等の再整理」(第27条,第32条等)への意見数は,他の殆どの項目よりかなり多い147件であったようです。

それは「国交省有識者(以下,便宜上単に「国交省」といいます)の見解の表れである標準管理規約やコメントの影響により,コミュニティ活動が違法であるとの誤解や,萎縮効果が生ずる」ことが懸念されたからであるといえます。

その問題の所在が少々分かり辛いため(実際,問題を誤解して捉えている方も見受けられます。),まずはこの点からご案内します。

3.問題の所在(解説の便宜上,あえてシンプルに場合分けして論じています。なお,ここでいう「規約」は標準管理規約ではなく一般的意味における規約を指します。)

管理組合による行為の適法性を検討しなければならない場面としては,当該行為が,
(A)規約上許容されているか否かが不透明な状況下で行われた場合
(B)規約上当該行為が許容されている状況下で行われた場合
に分けられます((C)規約上当該行為が許容されない状況下でなされれば当然違法ですから,検討の必要はありません。)。

(A)の場合の問題は,当該行為が
(a)規約の文言や解釈において許容されるか
(b)規約の上位にある区分所有法において許容されるか
に分けられます。
(B)の場合は,(規約上許容されているのですから)上記(b)の区分所有法上許容されるか,だけが問題となります。

実務上は,以上のうち(A)(a)が最も頻繁に生ずる問題であると存じます。
ただ,この(A)(a)については規約を改正すれば上記(B)の状態にすることができますので,「管理組合の『今後』への影響如何」という今回の議論においては,結局(b)の問題に集約されます。

このように,今回の改正に伴う議論は「あるコミュニティ活動が規約の文言上許容されている場合に,その上位の次元の問題として区分所有法上も許容されているか」という争点を対象とするもの,つまり,標準管理規約の改正を契機とする議論ではありますが,実は同規約自体の問題というより,その上位規範である区分所有法の解釈の問題なのです。

より踏み込めば,国交省の見解の表われである標準管理規約やコメントを踏まえて,上記について
(ア)裁判所による法的な判断基準を予測することで,
(イ)管理組合がとるべき対応を見極める
という問題であるといえます。

そして,コミュニティ条項削除に反対する立場は,
(ア)に関しては「裁判所は国交省が考えるほどコミュニティ活動を制限的に捉えてはいない」との見解を採り,
(イ)に関して「それゆえ,国交省がコミュニティ条項を削除することで,裁判所が禁じていない態様のコミュニティ活動についてまで,それが禁じられているかのような誤解や萎縮効果をもたらす」
との懸念を示したわけです。

この問題の根本は,区分所有法上「管理組合は何を目的とする団体であるか」という点にあります。
区分所有法第3条は「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(注:管理組合)を構成し」と定めていますから,その目的は「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行う」ことになります。
この目的に「コミュニティ形成」が含まれるのか,含まれるとしてその範囲如何,が問題の所在の核心となるのです。

4.改正標準管理規約・コメントが示した考え方
この区分所有法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」という文言を形式的にみれば,原則として物理的経済的管理に限定されると読み取り易く,かかる考え方を徹底すればコミュニティ形成は除外されそうですから,管理費等をこれに充てることも許されないという結論を導き易いでしょう。

今回のコミュニティ条項の削除がこの考え方を含んだものであろうことは,改正標準管理規約第6条や第32条において次のように目的を限定する文脈での加筆がなされたことにも表れていると思います。

以下,いずれも下線部分が加筆された箇所です。
第6条
区分所有者は,区分所有法第3条に定める建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体として,第1条に定める目的を達成するため,区分所有者全員をもって○○マンション管理組合を構成する。
32条
管理組合は,建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため,次の各号に掲げる業務を行う。
1号 管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安,保全,保守,清掃,消毒及びごみ処理
2号 組合管理部分の修繕
3号 (以下略)

更に,改正標準管理規約第27条のコメントは,管理組合と自治会・町内会等とを混同することにより自治会費を管理費として一体で徴収したという事例や,自治会的な活動への管理費の支出を巡るトラブルが生じているという実態を指摘しています。

これらは,管理組合が強制加入団体であるのに対し,自治会等は任意加入団体であるという違いに基づく問題です。つまり「本来任意に参加すればいい自治会等活動のために,強制的に徴収される管理費等を支出することは,同活動に参加したくない人の権利を害し許されない」ということです。
この点については数件の参考裁判例があり,国交省も今回の改正にあたって「裁判例に配慮した」と指摘しています(この裁判例については後述します。)。

5.検討
さて,繰り返しますが,標準管理規約やコメントはあくまで国交省の見解であって法律ではありませんし裁判所の判断でもありません。
検討すべきは「こうした国交省の見解を踏まえて,どのようなコミュニティ活動が法的に許容されるか」です。

(1)国交省(標準管理規約・コメント)のスタンス
改正標準管理規約第27条,第32条の文言(即ちコミュニティ条項の削除)や上記コメントからすると,管理組合は,自治会等が行う性質の活動に対して管理費等を支出してはならないのかとも思えます。

他方,同コメントは「いわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち,例えば,マンションやその周辺における美化や清掃,景観形成,防災・防犯活動,生活ルールの調整等で,その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動はそれが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である『建物並びにその敷地及び附属施設の管理』の範囲内で行われる限りにおいて可能である。」とも述べています。

また,今般標準管理規約と併せて改正された「マンションの管理の適正化に関する指針」においても,「マンションにおけるコミュニティ形成は,日常的なトラブルの防止や防災減災,防犯などの観点からも重要なもの」との文言が加えられました。

更に,上記「パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方」は「マンション及び周辺の居住環境の維持及び向上に資する活動には,支出可能であると考えており,その範囲内におけるイベント等への支出の是非については,各管理組合での合意形成によるべきものと考えています。」と指摘しています。

つまり,国交省もコミュニティ活動全般を否定しているわけではなく,むしろその有益性を認めているのです。

そのため,まずはこうした例示に明確に該当する態様のコミュニティ活動であれば国交省の見解に照らしても許容されるのですから,国交省のような国家機関が公に認めている行為を裁判所が違法と認定することも通常考えにくいと言えるでしょう。

とはいえ,上記例示は決して具体的かつ明確なラインを引くものではありません。
例えば「管理組合が管理費等を支出していわゆる夏祭りを主催し,その中の催しとして防災訓練やマンション内マナーの啓蒙活動を行った」としたらどうでしょうか。
防災訓練等は国交省もコミュニティ活動の内容として許容する考えであることは前述のとおりですが,夏祭りは通常は自治会的活動といえそうですから,国交省の見解を重視すれば「止めておいた方がいい」という結論に傾き易そうです。

(2)裁判所のスタンス
では,法的判断の最終的な主体である裁判所はどう考えるでしょうか。法律に明示されていない以上,まずは裁判例を手がかりにするほかありません。

しかし,管理組合によるコミュニティ活動に関連した判断を下し,国交省が今回のコミュニティ条項削除の根拠とした裁判例は,私が知る限り数例に止まります。
しかも,これらの事例は,前述の「町内会・自治会の入退会は自由である」という元々法的に明確な事項と,そこから導かれる「管理組合による町内会費等の強制徴収の禁止」というある意味当然の帰結を示したものに過ぎず,コミュニティ活動が管理組合の目的に含まれないと判断したわけではありません。

それどころか,ある裁判例はマンションにおけるコミュニティ活動の重要性を積極的に認定しているくらいですから,裁判所はコミュニティ活動について比較的寛容なスタンスをとっていることが窺えます(そのため,国交省がコミュニティ条項削除に際しこれらの裁判例に根拠を求めたことは,やや疑問を感じています。)。

(3)資産価値との関係(ここからは私見の色が更に強まります)
また,コミュニティ活動を活発に行うためには,管理組合が十分に機能し区分所有者の多くが協力的でなければなりません。逆にいえば,コミュニティ活動の存否や水準は管理組合の熱意を測る一つの要素といえます。
管理組合の熱意が高くなければ,財務状況が健全であり,住民のマナーが良く,安全・安心に暮らせ,環境も美しく保たれているという資産価値の高いマンションは生まれず維持もされません。
そして,区分所有法第3条に定める管理組合の目的である『建物並びにその敷地及び附属施設の管理』は,経済的側面においては「資産価値維持のための管理」に他なりませんから,適切なコミュニティ活動もその目的に適うはずです。

(4)結論
以上から,私は今のところ,
改正標準管理規約第27条コメント記載の「マンションやその周辺における美化,清掃,景観形成,防災防犯活動,生活ルールの調整」という要素が皆無では適法性を争われる余地が生じ得るが,これらの要素が活動の全体を占めたり効果が具体的・確定的な活動である必要まではなく,部分的・抽象的・潜在的にでもそのような要素・効果が見出せるコミュニティ活動であれば(また当然の要件として常識的な予算化を経ていれば),当該活動への管理費支出が違法と評される可能性は低い
と考えています。

長々書いておきながら恐縮ですが,要するに,今般のコミュニティ条項削除によって管理組合の活動範囲が法的に大きく狭められわけではないと思います。
それなのに,同削除に反対する立場による主張のとおり,(コメント部分でフォローがなされているとはいえ)コミュニティ条項の削除という形式的(視覚的?)に目立つ手法が採られたことによって,誤解・萎縮的効果が生じかねない事態となったのではないでしょうか。

実際,下記先日の読売新聞の記事は少々言い過ぎであって,これを読んだ方がせっかくの夏祭りを中止したり,中止を求めたりしてはいないかなと,やや心配しています。
【マンション管理費、夏祭り支出はダメ…指針改正】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl…

※平成28年5月2日加筆:上記読売新聞記事は削除されたようです。

では,管理組合としては今後コミュニティ活動を行うにあたり,そのような点に留意すべきでしょうか。
まずは規約においてコミュニティ活動を行うこと,その内容,それに対し管理費等を支出することを明示することが肝要です。
前述の(A)の状態を脱し(B)の状態にしておき,(A)(a)の問題を回避するわけです。
もし,規約を全体的に今回の改正標準管理規約に準じたものに改定する予定があるとしても,コミュニティ条項の削除に関しては採用せず,想定するコミュニティ活動を明示しましょう。
また,改正前の標準管理規約を引き続き採用する(即ちコミュニティ条項が現存する)としても,これを機に条項を一層具体化しておくことをお勧めします。

そして,行おうとするコミュニティ活動において,上記「美化,清掃,景観形成,防災防犯活動,生活ルールの調整」といった要素を,少しでも含ませておくのが安全策といえます。
例えば,マンション内マナーや防犯の啓蒙活動だけを行うイベントとする必要まではありませんが(それでは人を集めにくいですね),夏祭りとして屋台を出したりライブを行ったりしつつ,祭り内でマンション内マナーに関する問題を盛り込んだ「子供向け景品付きクイズ大会」を開催したり,地域の警察・消防のキャラクターが防犯・防災を呼び掛けてチラシを配るといった工夫がなされていれば,「夏祭り全体が管理組合の目的外行為」として違法と評されることは考えにくいと思います。

(5)懇親会について
ところで,夏祭りとはやや性質を異にするコミュニティ活動として「一部の者のみが参加する懇親会」があり,標準管理規約のコメントはこれに対する管理費支出につき「管理業務の範囲を超え,マンション全体の資産価値向上等に資するとも言い難いため」適切でない,と指摘しています。
上記指摘自体に異論はありませんが,例えば役員の顔合せや慰労会であれば,役員への報酬支給が可能である以上,その一態様として明確に予算化されその額に合理性がある限り差し支えないように思っています。「管理組合の目的如何」という観点からも,このような懇親会により親睦が深まれば役員活動も行い易くなるでしょうから,許容されるのではないでしょうか。

6.最後に
これでも説明の便宜上かなりシンプルに場合分けや説明をし,結論もなるべく短くまとめたつもりです。
しかし,現実には様々な要素が複雑に絡み合う問題ですから,実際に悩んでいる方は専門家にご相談ください。まだ確立された裁判例等は存在せず手探りで法的な予測をせざるを得ませんが,専門家の助力を得ながらトラブルをできる限り回避しつつ,充実したコミュニティ活動を実践していただければ幸いです。

長文を最後までお読みいただき有難うございました。