民泊新法と管理組合 -標準管理規約改正版のつまみ食い-

武井咲が結婚しようともマンションで暮らしていかなければなりませんので、民泊新法の検討を続けますよ・・・。
民泊新法と管理組合に関する前回記事でも触れたように、

momoo-law.hatenadiary.jp

8月29日に国交省が民泊新法対応の標準管理規約改正版を発表しました。
まずこちらのサイトを開いてみてください。

www.mlit.go.jp下の方に掲載されている「添付資料」
【資料1】改正の概要
【資料2】マンション標準管理規約(単棟型)及びコメント(民泊関係改正)
【資料3】パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方
が今般発表されたものです。
そこで、今回は速報としてこれらの内容(のほんの一部を選んで)ご紹介しつつ、僭越ながら私なりに考えを述べてみたいと思います。 

1.【資料1】改正の概要
本当に概要です。

2.【資料2】マンション標準管理規約(単棟型)及びコメント(民泊関係改正)
こちらがメインですね。
今回の改正は民泊新法に関連する部分に限られていますので順に見ていくつもりだったのですが、前回記事でも述べた(言い訳した)ように、あくまで「民泊を禁じたい管理組合」の視点に立って(つまり民泊を認めることに関する事項はスルーして)ご紹介・・・ということにしたら対象は第12条のみとなりました*1
なお、ご存知の方も多いと思いますが、標準管理規約には本文(条文)と、各条文に関する「コメント」という国交省による解説部分があります。以下「コメント」はこれを意味します。

(1) 第12条
民泊を可能とする場合の例(ア)と禁ずる場合の例(イ)が挙げられていますので、(イ)の方を参照します。

(イ)住宅宿泊事業を禁止する場合
(専有部分の用途)
1 区分所有者はその専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない。

第1項は改正前と同じです。これを以て民泊が禁じられているかどうかは議論があるところですが、前回記事で述べたとおり規約上明確にしてしまえば解決する問題です(コメントにも同趣旨の記載があります。)。
第2項が今回の改正の「目玉」です。
とはいえその内容は、民泊新法の該当条文を指摘して「住宅宿泊事業に使用してはならない」とするシンプルなものです。
前回記事で述べたとおり(さっきからこればっかりw)、とりあえずこの文言は皆様の規約に(既に規約等で民泊を禁じている場合は、それらに加筆する形で)盛り込んでおくと良いと思います。旅館業法上の許可を得た場合や特区民泊といった例外的場合を除き、現行法上民泊は民泊新法でのみ許容されていますから、同法を根拠とするものを封じておけば一先ずルール上はカバーされるからです

(2) 第12条関係コメント

④ 新規分譲時の原始規約等において、住宅宿泊事業の可否を使用細則に委任しておくこともあり得る。
(条項例)

1 区分所有者はその専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 区分所有者が、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用することを可能とするか否かについては、使用細則に定めることができるものとする。

この④は、民泊を許容するか否かを「使用細則で定める」こともできるとし、条項例を挙げています。
その手法自体に問題があるわけではありませんが、私は「特段の障害がないのであれば規約で明記」とお勧めしています。長くなるのでその理由は次回以降で。

⑤ (イ)の場合において、住宅宿泊事業の実施そのものだけでなく、さらに、その前段階の広告掲載等をも禁止する旨を明確に規定するため、「区分所有者は、前2項に違反する用途で使用することを内容とする広告の掲載その他の募集又は勧誘を行ってはならない」のような規定を置くこともあり得る。

⑤は、(規約・使用細則のいずれを活用するかを問わず)民泊自体の禁止のほか、その主な営業手段である広告掲載等の行為をも禁ずる旨を提案しています。
実務的には、民泊自体の禁止条項と同程度に重要な事項である(にも関わらず、必ずしもそのことが世間的に共通認識となっていない)ため、標準管理規約ではこういった条項案こそもっと多様に提案するべきだと思っています。具体的にどのような条項を設けるべきかについては、次回以降にまわします。

3.【資料3】パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方
こちらは、標準管理規約改正版の策定にあたり国交省の募集に応じて寄せられた「意見」と、それらに関する国交省の「考え方」です。昨年の標準管理規約改正の際にも同じように公開されました。
官民双方の「現場」がどのように考えているかの参考になりますので、こちらも気になった2点をご紹介します。
(1) まず、「意見」全体を見回してみると「民泊を認めるべきではない(認めるべきだ)」とか「こういう規約を盛り込んでほしい」といった趣旨の意見が散見されました。
もちろん何らかの意図があってのことでしょうし、個々の規約とは別次元の問題として標準管理規約のあり方を論ずる意味は大いにあるでしょう。
しかし、繰り返し述べるとおり標準管理規約は「モデル」に過ぎませんから、特に民泊を許容するか否かという重大な問題は、是非「自分たちのマンションの意思決定の問題」であると捉えて(冷たい言い方かも知れませんが「標準管理規約に頼らずに」)、必要に応じて外部専門家を含め様々な意見を集めながら良く考えて決定していただきたいと思います。
この点は「考え方」でも次のように述べられています。

・・・民泊を許容するかどうかについて、あらかじめ区分所有者間でよく御議論いただき、その結果を踏まえて、民泊を許容する、あるいは許容しない、どちらかの旨をマンション管理規約上に明確化しておいていただくことが望ましいと考えております。

このように、国・行政は基本的に「管理組合(規約)まかせ」です*2

(2) 規約改正が間に合わない場合
このような意見が寄せられたようです。

管理組合によっては、住宅宿泊事業法の施行に管理規約の改正が間に合わないケースが発生することが想定される。その場合に、法令施行後すぐに住宅宿泊事業の届出がなされてしまうと、当該マンションでは、住宅宿泊事業が行えることが既成事実となってしまう可能性がある。そのため、法令施行に管理規約の改正が間に合わない場合の対応や考え方について明らかにしてほしい。 

これに対し「考え方」はこのように答えています。

・・・管理規約の改正までには、一定の期間を要することから、管理規約上に民泊を禁止するか否かが明確に規定されていなくても、管理組合の総会・理事会決議を含め、管理組合として民泊を禁止する方針が決定されていないことについて届出の際、確認する予定としております。

ホントかなぁ・・・というのが率直な感想です。
もちろん、行政がそこまで踏み込んで実質的に判断をしてくれるのであればそれに越したことはありませんが、適法な届出がなされた場合に「いや、この管理組合は理事会で禁止方針を決議しているから」という理由で民泊を認めない、なんて判断ができるのでしょうか(少なくとも、届出をする方からすればちょっと容認し難い運用ではないかと思います。規約上「理事会が判断する」という仕組みがとられているのならばともかく)。
とはいえ国交省がこのように言ってくれているのですから、民泊を禁じたいけれど規約*3改正が間に合わない管理組合は、とりあえず理事会決議をし、議事録に正確・丁寧に反映させておくべきです。

なお、前述した標準管理規約第12条関係コメント④でも触れられているように、特別決議を要する規約改正に比してハードルが低い(通常普通決議で足りる)細則改正による民泊禁止も理屈上可能です。
この点、上記のとおり(そして次回以降説明を予定している理由により)私は「できれば規約で」というスタンスですが、「規約化しておきたいものの特別決議は難しい。でも普通決議なら何とかなりそう。」という場面もあり得ます。

そういった場合には・・・、あ~そろそろ出かけなければならないので今回はこの辺で。
次回以降で、民泊を禁じたい管理組合がなすべき対策をより具体的に検討していきたいと思います。

*1:民泊を認める場合の手当てについては、今後・・・書くかどうか考えます。これを認めるか否かは管理組合の意思決定の問題であり、良し悪しの問題ではありません。実際、「民泊を認めた方が資産価値の向上を期待できる物件」は少なからず存在すると思います。

*2:それには法律上の理由がありますので、この「区分所有法と規約」というテーマについてはいずれ詳しく述べたいと思います。上記「民泊禁止は規約で定めるべきか細則で足りるか」とも関連します。

*3:ここでは文脈上使用細則を含むと考えて良いでしょう。