民泊新法と管理組合 -規約改正が間に合わない管理組合のリスク(民泊新法施行規則案)-

※10月1日(公開は9月30日):「2 2つのルート」以下の部分を修正しました。
※10月2日:マンションタイムズ(10月1日号№388)を参考に、文末に加筆しました。

民泊新法と管理組合について、これまで以下の2回

momoo-law.hatenadiary.jpmomoo-law.hatenadiary.jpにわたってご紹介したところ、記者の方に本ブログをご覧いただいたことがきっかけで、住宅新報さん(平成29年9月26日発売3534号)に、上記2本目の記事で言及した標準管理規約とその国交省コメントに関して、私の意見を掲載していただきました(※登録会員限定記事です。)。

www.jutaku-s.comその主なポイントは「民泊新法施行までに規約*1による民泊禁止が間に合わない場合に管理組合がとるべき対応如何」でした。

そんな中、9月21日付で国交省厚労省から「住宅宿泊事業法施行令(仮称)の案について(概要)」「住宅宿泊事業法施行規則(仮称)等の案について(概要) 」が公開され、これらに関する意見募集(パブリックコメント)が始まりました。
(1) 意見募集

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000164095
(2)
「住宅宿泊事業法施行令(仮称)の案について(概要)」
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000164096
(3)「住宅宿泊事業法施行規則(仮称)等の案について(概要) 」
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000164097

今回は、このうち(3)の規則案と上記「民泊新法施行までに規約による民泊禁止が間に合わない場合に管理組合がとるべき対応如何」との関係について検討します。

1 規則案における民泊事業を行おうとする者の届出の方法
規則案は以下のように示しています(下線は私によるものです。)*2

(4)届出(法第3条第2項及び第3項関係)
① 届出書の様式等を定める。
② 届出書の記載事項は、
・届出住宅の規模等
・住宅宿泊管理業務を委託する場合には、住宅宿泊管理業者の商号、名称等
・住宅が賃借物件である場合の転貸の承諾の旨
住宅が区分所有建物である場合には規約で住宅宿泊事業が禁止されていない旨(規約に住宅宿泊事業に関して定めがない場合は管理組合に禁止する意思がない(※)旨)
等とする。
③ 届出書に添付する書類は、
・住宅の図面、登記事項証明書
・住宅が賃借物件である場合の転貸の承諾書
住宅が区分所有建物である場合には規約の写し(規約に住宅宿泊事業に関して定めがない場合は管理組合に禁止する意思がない(※)ことを確認したことを証する書類)
等とする。
※「管理組合に禁止する意思がない」ことは、管理組合の理事会や総会における住宅宿泊事業を禁止する方針の決議の有無により確認する予定。

2 2つのルート
上記下線部からは、分譲マンションで民泊事業を行おうとする事業者は、
ルートA 届出書に「この管理組合は民泊を禁止していない」と書き、資料として規約を提出する。
又は、
ルートB 届出書にAと同様に書きつつ、(規約に定めがないため代替的に)
総会・理事会決議(議事録)を提出する(※部分)。
のどちらかの届出ルートをとるように読み取れます。

(1) ルートA
この場合、役所は規約を確認し「民泊ダメ」と書かれていれば許可しませんし、「民泊可」と書かれていれば(そして他の要件を充たしていれば)許可します。
なお、上記規則案が述べる届出書記載事項は「規約で民泊が禁止されていない旨」とされていることから、ここだけを読むと「言及がない」場合も含まれそうですが、その場合は下記ルートBとなります(より明確に「民泊を許容している旨」とすれば良いのにと私は思いますが。)。

(2) ルートB
上記規則案の※部分によると「『管理組合に禁止する意思がない』ことは、管理組合の理事会や総会における住宅宿泊事業を禁止する方針の決議の有無により確認する予定」とのことです。
具体的にどうやって確認するのでしょうか。
ア 「届出時」に確認する
もし「『禁止する旨の決議』がなければ許可する」としてしまうと、全ての総会・理事会決議を確認しなければならなくなり、これは非現実的です。多大な手間がかかりますし、何より民泊を実行したい事業者が素直に「禁止されている」と申告し、その旨の議事録を提出するはずがなく実効性に欠けます。
そのため、規則案※部分が「届出時に確認する(→確認できなければ許可しない)」という意味であるならば「『禁止しない旨の決議』(≒「許容する旨の決議」)を事業者側が議事録等を提出して説明しなければならない」という手順になるはずです。
これを言い換えると「『禁止する意思がない』(≒許容する)ことを記した総会・理事会決議ない場合」は、事業者はルートBでも届出をすることができないことになります(ないものは提出できませんから。)。
つまり、「規約において特段禁じていないし、許容する旨の総会・理事会決議もない場合」は許可されない、という考え方です。
イ 確認は「届出時」に行うわけではない?
さて、本記事を一旦公開した直後、9月25日に開催されたマンション管理センターによる「住宅宿泊事業法(民泊新法)公布に伴う『マンション標準管理規約』改正についての解説セミナー」に出席された方から、当日の国交省担当者による説明について情報をいただきました。
それによると、届出時には届出書の形式審査を行うに止まり、万一届出書が事実と異なり「実際は禁止されていた」又は「『規約を改正し禁止する予定である』などの、禁止する意思を示す決議があった」場合には、管理組合が事後的にその旨を申し入れ、役所はそれを受けて許可を取り消す、という運用となる可能性が示唆されたとのことです。
制度としてはあり得るものですし、元々このような運用を予想していた方も多いのではないでしょうか(多くの専門家が早期の規約改正を勧めていたのもそのためでしょう。)。
ただ、もしこのような運用が予定されているのだとしたら、今回公開された規則案の(上記アのような「届出時確認」であると読み取り易い)書き方は、民泊を禁じたい管理組合を過剰に期待させるものであるように感じます。
この点はあくまで伝聞ですし、担当者の説明も口頭によるものであったそうですから、10月26日に開かれる同内容の追加セミナーに出席して確認してみようと思います。

http://www.mankan.or.jp/html/pdf/201710seminar.pdf

3 管理組合の対応
上記(2)アのとおりに運用されるのであれば、要するに「規約又は総会・理事会決議で『民泊可』とされてさえいなければ、明確に禁止と謳われていなくても、分譲マンションにおける民泊届出はできない」ことに
なります。私の個人的な感覚としては、このように事業者側にある種の証明責任を負わせ、それをクリアしない限り許可しない、という制度が望ましい形であると思います。
しかし、以下の問題がありますので、結論はやはり「さっさと規約改正すべき」です

(1) 曖昧な場合
上記規則案は「定めがある場合」と「定めがない場合」のことしか触れていません。
そして、そのいずれの場合であるかを一次的に判断するのは届出を受けた役所です。
例えば、規約に標準管理規約第12条の「専ら住宅として使用する」という規定しかないケース(実際、このような管理組合が最も多いかも知れません。この点についてはこちらの記事をご参照ください。)はルートAとルートBのどちらに振り分けられるのかが未だ明らかではありません。
このように曖昧な規約のままだと「民泊も住宅なのだからルートA」と判断・処理され、届出が通ってしまう可能性が残ります。
(2) 理事会の独断
ルートBを通るのは規約において定められていない(と判断された)場合です。
このような管理組合は、普通積極的に「民泊を認めよう」とは考えていないでしょう(そうであれば規約で明らかにしているはずです。)。そのため、そのような管理組合の理事会が独断で「民泊を認める」といった決議をする(それによってルートBを通過されてしまう)ことも通常想定されません。

しかし、例えば輪番制等により「民泊推進派」がたまたま理事会の多数を占める状況が生ずると、規約どころか総会決議までスルーして、「民泊可」という理事会決議を根拠にルートBを通じて届出が通ってしまう可能性があるわけです。もちろん、そのような理事会決議が管理組合の団体的意思決定として有効なのかという問題は残りますが、届出が通って実際に民泊が行われてしまうと、以後それを排除するのには手間がかかります。
(3)ルートBの運用が上記(2)イのとおりである場合
この場合「差し当たり届出はクリアされてしまう」ケースが多いと予想されます。
「事後的にでも対処できるのなら良いではないか」と思われるかも知れませんが「届出時点で排除される」のと「事後的に『管理組合が』不服申立てをし、かつ、『管理組合が』既に始まった民泊事業を排除しなければならない」のとでは、手間・コストの面で全く異なります。
(4) 結論
このように、対応を怠ったり規約を曖昧なままにしておいたりすると大きなリスクを残します。
そのため、今回公表されたのはあくまで規則「案」ですから今後の推移を見届ける必要がありますが、いずれにせよ(仮に事業者に一定の制約が課される規則が制定されたとしても)、
民泊を禁止したい管理組合は、速やかに規約・細則を以て明確に禁止すべきという結論に変わりはなさそうです。

【※以下、10月2日加筆】
4 マンションタイムズ(10月1日号。№388)掲載の国交省担当者コメント
同担当者は(上記ルートBに関し)
次のような趣旨の説明をしています。
(1) 規約改正への議論に時間がかかりそうであれば、まずは理事会で議論し、方針を示した上で以後規約を改正していくことを決議する。
(2) 民泊事業届出時には、添付資料の提出を求める。
(3) 規約で民泊を禁止する旨の記載がない場合、管理組合として民泊を禁止していないという方針を書類にして添付してもらう。
以上(特に(3))からすると、ルートBについて上記「(2)ア」の手順を想定しているように読み取れます。
ところが、同担当者は他方で「禁止したい場合は規定をそのままにするのではなく、必ず意思表示が必要だ」とも指摘しています。
「はっきりさせておけ」という考え方は分かるのですが、その「禁止する旨の理事会の意思表示」を、具体的な手順として、誰が、いつ、どのような時期に届出手続に乗せることを予定しているのかが今一つ判然としないように思います。

*1:ここでは使用細則も含めて良いと考えます。

*2:あくまで規則「案」ですから今後変更される可能性は残ります。ただ、パブリックコメントを経て案が実際に変更される可能性はあまり高くないと思われます。