不動産格差を嘆く前にしたい10のこと

のうち、ここでは2つしか書きませんし、そのうちの1つの大部分は別の機会に書きますし、そもそも私は10も思いついていませんので、初めにお詫びしておきます(なお、お察しのとおり、人のセックスも人の住む街も笑うな - 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログと同じく、私は

movies.yahoo.co.jp

を見たことがありません。)。

でもご安心ください。不動産コンサルタントである長嶋修氏の新作著書「不動産格差」には、格差を嘆く前にできることが10どころではなく紹介されています。

www.sakurajimusyo.com

書名や「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」という帯は少々刺激的ながら、内容は「不動産購入の基本的な教科書」といった印象で、データや写真を丁寧に引用した読み易く分かり易い本です。
新築・中古、またマンション・戸建てを問わず、これから不動産を購入しようとされる方にとって、のらえもんさんの「本当に役立つマンション購入術」と同様、良い参考資料になろうと思います。

専門家は絶対に教えてくれない! 本当に役立つマンション購入術 (廣済堂新書) | のらえもん |本 | 通販 | Amazon

私なりに一言で本書をまとめるならば「不動産には、立地のように努力では如何ともし難い決定的な要素があるものの、その調査・選択やリフォーム・管理によってその格差を挽回し、更には他に大きく差をつけることができる要素も数多くある」というところでしょうか(我ながらつまらないまとめですが。)。

同書の内容は多岐に亘りますから、このブログではそのうちのマンション管理について、そしてもっと絞って「管理組合の情報開示」と「第三者管理」の2点について、もう少し具体的に触れてみることにします。

1.管理組合の情報開示
長嶋氏は同書において、中古マンションの取得に際して管理組合の議事録等の閲覧ができれば有用な情報を得られるとしつつ、現実にはあまり開示はなされていない、と指摘しています。
確かに、総会や理事会の議事録は(きちんと作成されていればの話ですが)情報の宝庫です。とはいえ、詳しい議事録であればあるほど、プライバシーに関わる事項や対外的にはオープンにしたくない事項(管理組合内で対立が生じているとか、裏で誰かさんのような弁護士が暗躍しているとか)も盛り込まれていますから、これをそのまま開示しようという話だと、なかなか多くの区分所有者の賛同を得られないかも知れません。

そこで、こうした議事録等とは別に「マンションを買おうとしている人に見てもらうための資料」を用意しておくことが考えられます。その最たるものが管理組合のホームページです。マンション管理業界(?)に多少なりとも詳しい人であれば誰でも知っているマンションの実例をいくつか挙げておきます。

www.isa515.com

tokias.jp

prism511.com

パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー 【公式サイト】

手間もコストもかかる手法ですが、これほど充実していれば、それらの負担を大きく上回る効果がありそうです。

また、昨年夏に標準管理委託契約が改正され情報開示対象項目の充実が図られるという動きもありました。

国交省
マンション標準管理委託契約書・同コメントの改正概要 別添1
http://www.mlit.go.jp/common/001140312.pdf

このように、今後は一層「情報開示によって資産価値を上げる」という考え方が広まると思われますから、まず第一歩として管理組合(管理会社)から仲介業者に対してどのような説明がなされているかを把握することで管理意識を変え、それを日々の管理業務へ反映させることをお勧めします。
そして上記のようなホームページを作ることは大規模かつ高度な管理組合でなければなかなか現実的ではありませんので、最初は大きくハードルを下げ、簡易な広報紙のようなものから初めてみても良いでしょう。ただ、前述のような事情もありますから、「どんな情報を開示するか」については事前に管理組合内で十分に協議しておくことが肝要です。

2.第三者管理
長嶋氏は、管理組合の運営に第三者を介在させることも強く勧めておられます。
他方で、最近よく話題となる所謂「第三者管理」に関し、外部専門家に理事等役員としての議決権を持たせることには慎重になるべきと指摘し、あくまで第三者性・客観性を保てる方式を推しています。

この点は、私も全く同意見です・・・が、これについては一つのテーマとして別の機会に書いてみようと思います。

刑事弁護をやらない弁護士がローカス先生のブログを読んで思ったこと

私は刑事弁護を扱っていません。
高尚なポリシーがあるわけではなく「知識も経験もないから」という理由です。
「刑事弁護は専門性が高い分野であり、しかも短時間で判断・処理しなければならないことが多いから、私が付け焼刃的に勉強して担当するくらいなら、他の弁護士に任せた方が依頼者の利益になる。」と言い訳しています。
おそらく弁護士が東京ほど多くない地方ではなかなかこうはいかず、東京だからこそとり得るスタンスなのだと思います。

さて、最近「痴漢を疑われた男性が線路に降りて逃走した」とか「逃走してビルから転落して死亡した」といった事件が起こり話題となっています。

www3.nhk.or.jp

そんな中、twitterで積極的に情報発信をしている弁護士の三浦義隆先生(twitterではローカス先生という名で有名です。)が次のブログを公開したところ、大きな反響があったようです。

miurayoshitaka.hatenablog.com

miurayoshitaka.hatenablog.com

上記のとおり私は刑事弁護の知識・経験を備えていませんから、恥ずかしながらこれらのブログを読んだ感想は「ふむふむ、なるほど。」という程度のものでした。
紹介されている「裁判所の現在の運用」の実態や弁護士としての「感覚」の適否は、私には分かりません。ローカス先生とは異なる見解をお持ちの弁護士もいるでしょうけれど、それを分析する能力を私は持ち合わせておりません。

そんな私が僭越ながら上記ブログをまとめてみるならば「逮捕を避けるため、そして逮捕されてしまったとしても勾留を避けるためには、留まって弁護士を呼んだ方が安全。無理に逃げると却って逮捕・勾留のリスクが高まる。」ということになろうと思います。

こうした私なりの(浅い)理解・感想とは別に、気になった議論がありました。
このブログに端を発してtwitterの一部で展開された「推定『有罪』であるかのような現状の司法制度はけしからん」といった主張と、これに対するローカス先生の「全体を一気に改善するなら政治の仕事」という回答です。
結論から言えば、私もローカス先生の言うとおりだと思います。

刑事弁護活動は一般的に民事に比して短期決戦であって、その瞬間ごとの状況に応じて行動・対応しなければなりません(それくらいは私も知っています。)。これは弁護人のみならず被疑者自身も同様であり、今回のブログはその貴重な行動指針となるものといえます。

その最中において「現行の運用がおかしい。推定無罪の原則を蔑にするこの担当裁判官の意識を変えなければならない。」と嘆いたり、その根本的解決を図ったりしている余裕はありません(なお、ローカス先生がそれらを放棄しているわけではないことは容易にブログから読み取れます。)。

思いっ切り身近な(?)例に例えるなら・・・「審判が(客観的にはストライクであるのに)外角いっぱいをとってくれない」という状況下で、「貴方の判定はおかしい」と審判に詰め寄れば退場させられるでしょうし、「審判を替えてくれ」と頼めば笑われるだけで試合はそのまま続くことでしょう。
このとき、まともなキャッチャーなら、ピッチャーに「外角より内角を攻めよう」などとアドバイスするのではないでしょうか。
ただ、これだけでは「この審判は外角いっぱいをとらない」という本来のルールからすればおかしな状況が続いてしまいますから、根本的に解決するには野球界のエライ人がこの審判を首にするか、ルールを以て判定を厳格化するほかありません。

これは刑事司法制度も同じことで、裁判官が「無罪推定の原則」を守ろうとしないならば、最後は人事・立法という「政治」によって守らせるほかありません。

そして、多くの弁護士は刑事司法制度の枠外でも、「無罪推定の原則」が徹底されるよう政治的活動に尽力しています(刑事弁護に熱心に取り組んでいる弁護士ほど、こうした活動にも力を入れていると思います。)。

言うまでもなく、弁護士は個々の刑事事件において全力を尽くさなければなりませんし、それが不十分であれば批判は免れません。しかし、このように長期的・根本的な解決には政治的な力も不可欠です。
とすれば、その力を持っている市民がこの問題や刑事司法制度全般に関心を持ち正確な知識を得ることが肝要です。ローカス先生のブログは、その大きなきっかけになったと思います。

・・・なんてことを書いている途中で、ローカス先生が3本目のブログをアップされたようです。大事なことはこちらに全部書いてありますので、私からはこのへんで。

miurayoshitaka.hatenablog.com

人のセックスも人の住む街も笑うな

※平成30年8月9日加筆
文中の弁護士佐藤大和先生から「下記記事の引用・使用や、これに関する問合せ・取材を全て断っている。」とのご説明をいただきました。この記事は、やはり佐藤先生のご意向どおりに編集・公開されたものではなかったと推察されます。

movies.yahoo.co.jp

突然ですが、皆さんこの作品をご覧になったことはあるでしょうか?
すみません、私はありません。
感想ブログやレビューによると、冒頭で「Don't laugh at my romance.」という英語タイトルが流れる素敵な作品のようです。

さて、実は少々怒っています。
笑ってはいけないのは、他人のセックスやロマンスだけじゃねーぞ、と。

日刊SPA!のこの記事。
ご近所トラブルが多い街・ワースト5 

news.livedoor.com

タイトルだけで嫌な予感がしましたが、中身を読んでみたところ・・・予想どおりとても不快感を覚えました。
SPAが面白おかしく街にレッテルを貼るだけならまだしも、有名な弁護士さんのコメントがそれに彩りを加えているので、ここで挙げられている街にお住まいの皆様の名誉と、その街の物件の資産価値を少しでも回復するべく、無粋ながらネタにマジレスをいたします。

まず、「ワースト5」とのことですが、何を基にしたランキングなのでしょう?
本文を読むかぎり街を評価しているのは佐藤弁護士のようであるものの、何を比べて順位をつけているのかがよく分かりません。
「トラブル多発の街」とのことですから、同弁護士の相談件数でしょうか。
だとすると、燦然と1位に輝く「成城の古参住民vs新参住民やミュージシャンが絡むトラブル」の相談件数は、足立区全域のマンション内騒音の相談件数より多いことになりそうですが、本当でしょうか。

また、全く別エリアであるにも関わらず一つにされている同率1位の玉川は、今では二子玉川ライズに代表されるところですが、本当にここで閉鎖的な古参住民と新参住民のトラブルが、1位にランクされる程度の頻度で起きているのでしょうか(古くからお住まいの住民が多いという意味に限れば、周辺の瀬田や上野毛の方が当てはまる気がします。)。

ベンチャー系のパリピが入居しているマンションは、2位にランクされるほど、そして六本木や麻布などよりも、恵比寿に多いのでしょうか。

スカイツリー周辺の下町のいじめが他の街と比較して「容赦ない」とは、事実でしょうか。佐藤弁護士は、このエリアと他のエリアとに有意な差を見出すことができるほどの件数のいじめ相談を受けているのでしょうか。仮に本当にそうだとしても、それをこのように公表するべきだったでしょうか。

豊洲の(タワー?)マンション・PTA内不倫やスポーツクラブのコーチとの不倫が他の街より多いことを、どうやって確かめたのでしょうか。例えば世田谷の大規模マンション(二子玉川ライズ(約1000戸)、深沢ハウス(約770戸)、東京テラス(約1000戸)、桜上水ガーデンズ(約880戸))と比べて、豊洲の方がご近所不倫(?)が多いことを示すデータはあるのでしょうか(なお、私はこれらの大規模マンションの住民から不倫相談を受けたことはありませんが、そのことを以て「豊洲の方が多い」という結論は導けません。)。佐藤弁護士やSPAの記者は、砂の塔をご覧になったのではないでしょうか。

momoo-law.hatenadiary.jp

足立区の賃料が都心に比して安いことは確かですが、その分「壁が薄い」のは本当でしょうか。少なくとも私はこれまで足立区のマンションの住民から「壁が薄くて夜の営みの声がうるさい」という相談を受けたことは一度もありません。そして、ここで単に「声」ではなく「人のセックス」の声を例に挙げる意味はあるのでしょうか。
なお、騒音問題は客観的な音の大きさよりも「静かであるはずなのに聞こえる」というギャップによって生ずることが多く、むしろ防音設備が整ったマンションの方がトラブル化し易いというのが、私の印象です。

最後に、佐藤弁護士が事務所を構えておられる文京区の治安が良いことに異論はないものの、少なくとも私のマンション管理相談経験からは、その件数において周辺区との明らかな差はありません。このエリアに多いヴィンテージマンション特有の相談もありますし、最近話題となったル・サンク小石川のトラブルが起こったのは正に文京区です。

mainichi.jp

率直に申し上げて、このランキングが「佐藤弁護士が実際に受けた相談件数」を基に作成されたとは思えません(佐藤弁護士の真意がそのまま表れた記事ではないのでは、とも推察します。)。
根拠が相談件数でないのだとすれば、何に基づく順位なのかを明示しないでこのような記事を掲載することは、安易で下品なレッテル貼りと言わざるを得ないと思います。

もし佐藤弁護士の実際の相談実績によってこのランキングを作成したのだとしても、それをこのような形で明らかにするべきであったか、大いに疑問です。
なぜなら、この記事によって、同弁護士に相談をした方々がお住まいの成城、玉川、恵比寿、スカイツリー周辺、豊洲、足立区全域という街に対する社会的評価が低下しかねないからです。物件を所有しているならば、その資産価値(売却価格、賃料)への影響が生ずることもあり得ます。

街にはそれぞれ特徴があることは否定しません。
しかし、ネガティブな事柄であればあるほど、それを語る際には明確な根拠を示すべきです。

人生最大級の買い物で手に入れ、思い出や思い入れの詰まった住まいのある街を笑われて喜ぶ人はいないのですから。