高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決_速報

皆様、ちゃんと予習はしましたか?

この件について、最高裁判決が出ました。
概ね、私の予習(予想)どおりであり一安心です(原審の判断が覆りそうであることは「最高裁が弁論を開いた」ことで大体予想できますが、理由づけも大きく外していなかったと思います。)。

要するに第1審・2審の判断を覆し、高圧一括受電方式導入決議の効力を否定し、原告の請求を棄却したわけです。
その理由として最高裁は次のように述べています(桃尾が一部(特に団地に係る事項について)要約・簡略化しています。原文は上記サイトからご確認ください。*1)。

(1) 本件決議のうち、建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、共用部分の変更またはその管理に関する事項を決するものではない。
(2) したがって、本件決議の上記部分は、区分所有法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。
(3) 本件細則が、個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても、その部分は同法30条1項の「建物所有者相互間の事項」を定めたものではない。
(4) 建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、他の建物所有者等による専有部分の使用又は共用部分等の管理に影響を及ぼすものではない。
(5) 本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がなされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は共用部分等の適正な管理が妨げられるという事情はうかがわれない。

つまり、本件決議は、区分所有法17条1項*2もしくは18条1項*3又は30条1項*4が定める「決議や規約で決められる事項」にあたらない(定めても効力が無い)、ということです(脚注に記しておくので、これらの条文はきちんと読んでみてください。)。

これらの条文は、私が予習記事で述べた「管理組合の権限の範囲」を「決議・規約で定められること(その限界)」という側面から具体化したものですから、冒頭触れたとおり概ね予想どおり、といって宜しいかと思います(よね?予想よりも「的を絞った」判決ではありましたが。)。

そして、この最高裁判決は「どのようなものが上記各条項所定事項に該当する」というルールや抽象的な判断基準を定立してくれているわけではなく、あくまで「本件決議」という具体的状況下における判断であるため、必ずしも所謂「判決の射程」が広いものとはいえません。

しかし、高圧一括受電に限らず、「個々の専有部分に関する(共用部分の管理に影響しない)こと」であり「他の建物所有者等による使用とも関係が無いこと」であれば、本件と同様の帰結となり得るといえますから、管理組合が今後「専有部分の使用」に係る事項を規約・決議で定めようとする際には、やはり注意が必要です。

なお、「高圧一括受電方式導入には全員承諾が必要」ということは、実は区分所有法の問題ではなく、本件判決から直接導かれるわけではありません(本件では前提として争われていませんのでここでは触れません。)。
ざっくりいえば、
①決議により、反対者がいても高圧一括受電を導入できる。
②決議により導入に協力する義務は生ずるが(従わなければ損害賠償責任が生ずる)、導入できるわけではない。
③決議によっても、導入に協力する義務も生じないし、当然導入もできない(従わなくても損賠責任は生じない)。
という「あり得る結論の各段階」のうち、②or③で争われたのが本件であって、「本件判決によって、反対者がいる場合に導入できなくなった」(①が否定された)わけではありません(元々、反対者がいれば導入できません。)。
とはいえ、上記②のように仮に原告の請求が認められていれば、被告は全住民から本件と同様の請求を受けかねない立場にありますから(本件の請求額は原告一人分約9,000円であり、全戸約540戸が請求すれば×540=約490万円に及びます。)、こうしたリスクを負ってまで決議に反して抵抗する者は減る乃至いなくなるはずですので、事実上は「本件判決によって導入が難しくなった」といえるでしょう。

本件について一点不思議なことがあります。
無事入手できた原審判決をみても、最高裁が指摘した本件の根本的問題である決議の有効性に関する区分所有法の上記各条文の該当性が、然程詳細には論じられていないように見受けられることです(それに比して「その先の議論」が厚く触れられているという印象です。)。こうした状況下で諦めず上告を試みた被告及びその代理人の先生は、この結果に満足されていると思います。他方、原告側からすると、最高裁のこの判断は少々唐突に感じられたかも知れない、と勝手に想像しています。

とりあえず、今回はこのあたりまで。
タイトルを「速報」としておきましたが、今後「詳報」を書くかどうかは追って考えます…。

*1:なお、以下では、判決に合わせて同決議を「本件決議」といい、本件決議に伴って作られた細則を「本件細則」といい、区分所有者や占有者を「建物所有者等」といい、建物所有者等が個別に従来の電力会社と締結している電力供給契約を「個別契約」といいます。

*2:共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。

*3:共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。

*4:建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。