人のセックスも人の住む街も笑うな

※平成30年8月9日加筆
文中の弁護士佐藤大和先生から「下記記事の引用・使用や、これに関する問合せ・取材を全て断っている。」とのご説明をいただきました。この記事は、やはり佐藤先生のご意向どおりに編集・公開されたものではなかったと推察されます。

movies.yahoo.co.jp

突然ですが、皆さんこの作品をご覧になったことはあるでしょうか?
すみません、私はありません。
感想ブログやレビューによると、冒頭で「Don't laugh at my romance.」という英語タイトルが流れる素敵な作品のようです。

さて、実は少々怒っています。
笑ってはいけないのは、他人のセックスやロマンスだけじゃねーぞ、と。

日刊SPA!のこの記事。
ご近所トラブルが多い街・ワースト5 

news.livedoor.com

タイトルだけで嫌な予感がしましたが、中身を読んでみたところ・・・予想どおりとても不快感を覚えました。
SPAが面白おかしく街にレッテルを貼るだけならまだしも、有名な弁護士さんのコメントがそれに彩りを加えているので、ここで挙げられている街にお住まいの皆様の名誉と、その街の物件の資産価値を少しでも回復するべく、無粋ながらネタにマジレスをいたします。

まず、「ワースト5」とのことですが、何を基にしたランキングなのでしょう?
本文を読むかぎり街を評価しているのは佐藤弁護士のようであるものの、何を比べて順位をつけているのかがよく分かりません。
「トラブル多発の街」とのことですから、同弁護士の相談件数でしょうか。
だとすると、燦然と1位に輝く「成城の古参住民vs新参住民やミュージシャンが絡むトラブル」の相談件数は、足立区全域のマンション内騒音の相談件数より多いことになりそうですが、本当でしょうか。

また、全く別エリアであるにも関わらず一つにされている同率1位の玉川は、今では二子玉川ライズに代表されるところですが、本当にここで閉鎖的な古参住民と新参住民のトラブルが、1位にランクされる程度の頻度で起きているのでしょうか(古くからお住まいの住民が多いという意味に限れば、周辺の瀬田や上野毛の方が当てはまる気がします。)。

ベンチャー系のパリピが入居しているマンションは、2位にランクされるほど、そして六本木や麻布などよりも、恵比寿に多いのでしょうか。

スカイツリー周辺の下町のいじめが他の街と比較して「容赦ない」とは、事実でしょうか。佐藤弁護士は、このエリアと他のエリアとに有意な差を見出すことができるほどの件数のいじめ相談を受けているのでしょうか。仮に本当にそうだとしても、それをこのように公表するべきだったでしょうか。

豊洲の(タワー?)マンション・PTA内不倫やスポーツクラブのコーチとの不倫が他の街より多いことを、どうやって確かめたのでしょうか。例えば世田谷の大規模マンション(二子玉川ライズ(約1000戸)、深沢ハウス(約770戸)、東京テラス(約1000戸)、桜上水ガーデンズ(約880戸))と比べて、豊洲の方がご近所不倫(?)が多いことを示すデータはあるのでしょうか(なお、私はこれらの大規模マンションの住民から不倫相談を受けたことはありませんが、そのことを以て「豊洲の方が多い」という結論は導けません。)。佐藤弁護士やSPAの記者は、砂の塔をご覧になったのではないでしょうか。

momoo-law.hatenadiary.jp

足立区の賃料が都心に比して安いことは確かですが、その分「壁が薄い」のは本当でしょうか。少なくとも私はこれまで足立区のマンションの住民から「壁が薄くて夜の営みの声がうるさい」という相談を受けたことは一度もありません。そして、ここで単に「声」ではなく「人のセックス」の声を例に挙げる意味はあるのでしょうか。
なお、騒音問題は客観的な音の大きさよりも「静かであるはずなのに聞こえる」というギャップによって生ずることが多く、むしろ防音設備が整ったマンションの方がトラブル化し易いというのが、私の印象です。

最後に、佐藤弁護士が事務所を構えておられる文京区の治安が良いことに異論はないものの、少なくとも私のマンション管理相談経験からは、その件数において周辺区との明らかな差はありません。このエリアに多いヴィンテージマンション特有の相談もありますし、最近話題となったル・サンク小石川のトラブルが起こったのは正に文京区です。

mainichi.jp

率直に申し上げて、このランキングが「佐藤弁護士が実際に受けた相談件数」を基に作成されたとは思えません(佐藤弁護士の真意がそのまま表れた記事ではないのでは、とも推察します。)。
根拠が相談件数でないのだとすれば、何に基づく順位なのかを明示しないでこのような記事を掲載することは、安易で下品なレッテル貼りと言わざるを得ないと思います。

もし佐藤弁護士の実際の相談実績によってこのランキングを作成したのだとしても、それをこのような形で明らかにするべきであったか、大いに疑問です。
なぜなら、この記事によって、同弁護士に相談をした方々がお住まいの成城、玉川、恵比寿、スカイツリー周辺、豊洲、足立区全域という街に対する社会的評価が低下しかねないからです。物件を所有しているならば、その資産価値(売却価格、賃料)への影響が生ずることもあり得ます。

街にはそれぞれ特徴があることは否定しません。
しかし、ネガティブな事柄であればあるほど、それを語る際には明確な根拠を示すべきです。

人生最大級の買い物で手に入れ、思い出や思い入れの詰まった住まいのある街を笑われて喜ぶ人はいないのですから。

第三管理組合の作り方 -用法・用量を守って正しく作ってください-

最近この記事を見つけていただいた方へ

本記事は2017年4月に公開したものです。大切なことは後半にまとめておきましたので、是非最後までお読みください。

 

本日、こんなブログを読みました。面白いのでまずは皆様もご一読ください。

www.gentosha.jp

・・・いかがでしたか?
リゾートマンション、共用部分、税金、管理費・修繕積立金、雨漏り、資産価値、管理組合の分裂・対立・・・区分所有法の教科書のように、マンションに関する重要単語が盛り沢山でワクワクしますね。しませんか。

その中でもひときわ目を引くパワーワードがありました。
そう、「第二管理組合」です。

皆様ご存知のとおり、区分所有建物(分譲マンション)における区分所有者は区分所有法上当然にその建物の管理を担う団体を構成し、一般的にその団体を管理組合と呼びます。
このような性質上、一つのマンションの管理組合は一つです(一部共用部分や団地という例外もありますが、ここでは割愛します。)。

では、「第二管理組合」とは何でしょうか。

最初から管理組合、理事会又は規約の体裁すら整っておらず複数の管理組合がほぼ同時に「立ち上がる」というケースもありますが、比較的多いのは事後的分裂型だと思います。

例えば以下のようなケースです。
①X理事会のA理事長が総会を招集して、Aとその仲間が多数を占める役員選任決議をし、新たにY理事会を構成した。
②A理事長と対立するX理事会のBら平理事グループが、①の手続的瑕疵を理由にその決議無効を主張しつつ(つまりY理事会は存在しないことを前提に)、X理事会において規約に則りA理事長を解任してBを理事長に選任した。
③B理事長が総会を招集し、Bとその仲間で多数を占める役員選任決議をし、新たにZ理事会を構成した。

以後Y理事会とZ理事会が、それぞれ自分たちが正当な理事会であると称して活動し、それぞれが勝手に招集した総会を「管理組合総会」などとして実績を残していけば、あたかも二つの管理組合が存在するかのような状態が出来上がります。
もちろん、これは「二つあるように見える」だけであって、結局は①の役員選任決議の有効性如何により、いずれが正当な理事会(その後の総会)であるかが決まるわけです。

ここで、このブログの読者の方は不思議に思うのではないでしょうか。
①の総会で賛成票を投じた区分所有者はA理事長とY理事会を支持しているのだから、③の総会は無視されて定足数や決議要件を充たさず、Z理事会は成立しないのではないか・・・と。
ところが、理事会・理事長名義で総会議案書が手元に届けば、特に吟味せず委任状や賛成の議決権行使書を返送してしまう管理に無関心な区分所有者も少なくありません。これによって①でも③でも形式的な決議要件を充たしてしまう、という事態が生じ得るのです。

また、両陣営がこうした要件をきっちり充たしていなくても(傍から見ればいずれが正当であるかが明確であっても)、法的手続による決着に至らない限り「事実上併存している」という状態はあり得ますし、実際はそのようなケースが多いでしょう。「管理組合の対立を法的手続で解決しよう。」という意識はまだまだ広まっていませんので。

以上からも分かるとおり、第二管理組合は、マンションが以下のような条件を充たすと誕生し易いといえます。
(1)特定の区分所有者間に激しい対立があり、双方に強力なリーダーがいる。
(2)対立当事者以外の区分所有者の多くはマンション管理に無関心である。
(3)元々の管理組合運営が杜撰である(自主管理、居住所有者が少数等々。)。
(上記ブログのようなリゾートマンションは、(2)(3)を充たし易く要注意です。)

このような仕組みやコツさえ分かれば(決して簡単ではないものの)第二どころか「第三管理組合」を作ることもでき、実際、私は第三管理組合の立ち上げを手伝ったことがあります。

もちろん、このような分裂状態は極めて不健全であり、泥沼化して管理が滞りスラム化してしまっては元も子もありませんから、管理組合や現行理事会が自分の思うように動かないからといって安易に対立を煽るべきではありません。
私がお手伝いした第三管理組合も、その後何とか第二管理組合との和解を経て最終的にマンション統一を果たしたようですが、それまでの道のりは険しいですし、統一後も対立感情がなくなるわけではありません。

将来こうした事態に陥らぬようにするには、やはり日頃から区分所有者間・住民間において適度なコミュニケーションをとっておくことが肝要です。

momoo-law.hatenadiary.jp

それでもやむを得ない場合は・・・ご相談ください。

なお、こうした管理組合対立が激化すると、マンション内で様々な文書が飛び交うことがあります。こうした事態に遭遇した組合員の皆様は、是非「その文書がどのような立場の人物によって作成されたものか。そもそも本当に文書の名義人によって作成されたものなのか(例えば、理事長や弁護士の名前がきちんと掲載されているか)」を慎重にご確認ください。

市場移転問題と管理組合

大変ご無沙汰しております。
前回記事から3か月も空いてしまいました。

この間も、ブログで書いてみようと思ったテーマをいくつか見つけていました。
先日閣議決定された民泊新法、第三者管理、標準管理規約のコミュニティ条項に関する梶浦弁護士の書籍、日弁連総会の委任状騒動と管理組合総会における委任状の扱い等々・・・
ただ、最近どうも気になる件があるので、今回はそちらを取り上げます。
先日百条委員会が開かれたばかりの築地市場移転問題です。

予めお断りしておきますが、私はこの件について各種報道やSNSで回ってくるコメントを読んで得た程度の知見しか持ち合わせていません。そのため、ここで「移転すべきorすべきでない」という私見を述べることはできません。

私が気にしているのは「議論の対象・性質が整理されているか」ということです。

私は、市場移転の問題はざっくり以下のように分けられると理解しています。
(1)豊洲は市場として安全か(豊洲自体の安全性、築地との比較・・・)
(2)豊洲移転の意思決定~実行プロセスの適法性・合理性(盛り土、土地取得契約、基準設定・・・)と、その責任の所在

まず(1)について
食品を扱う市場である以上、安全でなくてはなりません。
もちろん、一口に「安全」といってもその水準には高低の幅がありますから、どの程度の安全性を要求すべきであるかの判断において政治的・経済的事情を無視することはできません。

とはいえ、基本的には「土地建物を食品市場として使うことを前提に、土地からどのような量の、どのような成分が、どのように検出されると危険であり、どのような措置を講ずれば危険を除去できるのか(orできないのか)。そして、これらを豊洲と築地で比較すると、どちらが市場として安全であるのか。」という科学の問題であると思います(もし「食の安全が最優先」であり、立地の選択肢が「築地or豊洲の二択」であるならば、端的に両者の安全性を比較すれば決まるはずです。)。

次に(2)について
意思決定~実行プロセスの政治的・実務的過程にミスや怠慢や不正があったならば当然その検証をすべきであって、担当者も十分説明する義務がありますし、責任者にはきちんと責任を取ってもらう必要もあります。

しかし、そのことは上記(1)の判断に影響を与えないはずです。
石原元都知事を例に挙げて簡単に言えば、もし「石原氏に職務怠慢が認められた」としても「豊洲の土地汚染が市場に影響を与えず、かつ、築地よりも安全である」ならば移転すべきでしょうし、逆に「石原氏が完璧に職務を全うした」としても「豊洲市場の安全を保てない」ならば移転すべきではありません。

ところが、このあたりが必ずしも峻別されないままの議論が散見されるように感じます。
安全性は事後的にであろうと科学的調査を以て検証すべきことであり(上記(1))、その結果が判明したならば、移転するか否かは政治的責任追及(上記(2))とは切り離して(少なくとも並行して)判断すべきではないでしょうか。

さて、こういう議論の混乱は管理組合でも頻繁に起こります。例えば・・・
「長期間に亘って一部住民が共用部分に駐輪している。調べてみると、理事長が勝手に使用を許可していたようだ。駐輪場使用が長期間継続しているし、今のところ実害も見当たらない。管理組合(理事会)としては、物理的現状を維持しつつ規約・細則の変更や今後の使用料徴収といった方法で解決を図ろうとしている。」というケースがあるとします。

問題は以下のように分けられます。
(ア)駐輪場を維持するか否か、維持するとしてどのように運営するか。
(イ)勝手に使用を許可した理事長にどのような責任があり、その責任をどうとってもらうか(解任、謝罪、賠償・・・)

このような場面で「理事長が悪いのだから、その責任を明確にしない限り駐輪場使用を認めるな」という意見が出ることは少なくありませんが、あまり合理的とは思えません。
駐輪場を維持するか否かは適法性、安全性、利便性、公平性の観点から考えるべきことであって、理事長の責任云々とは無関係だからです。

こうした意見に対しどのように対応すべきか、理解を得るのが難しい場合にどうすべきか・・・の手法や心構えがあるのですが、それはまた別の機会に。

最近の話題と管理組合とを何とか結びつけたところで、今回はこの辺で。