刑事弁護をやらない弁護士がローカス先生のブログを読んで思ったこと

私は刑事弁護を扱っていません。
高尚なポリシーがあるわけではなく「知識も経験もないから」という理由です。
「刑事弁護は専門性が高い分野であり、しかも短時間で判断・処理しなければならないことが多いから、私が付け焼刃的に勉強して担当するくらいなら、他の弁護士に任せた方が依頼者の利益になる。」と言い訳しています。
おそらく弁護士が東京ほど多くない地方ではなかなかこうはいかず、東京だからこそとり得るスタンスなのだと思います。

さて、最近「痴漢を疑われた男性が線路に降りて逃走した」とか「逃走してビルから転落して死亡した」といった事件が起こり話題となっています。

www3.nhk.or.jp

そんな中、twitterで積極的に情報発信をしている弁護士の三浦義隆先生(twitterではローカス先生という名で有名です。)が次のブログを公開したところ、大きな反響があったようです。

miurayoshitaka.hatenablog.com

miurayoshitaka.hatenablog.com

上記のとおり私は刑事弁護の知識・経験を備えていませんから、恥ずかしながらこれらのブログを読んだ感想は「ふむふむ、なるほど。」という程度のものでした。
紹介されている「裁判所の現在の運用」の実態や弁護士としての「感覚」の適否は、私には分かりません。ローカス先生とは異なる見解をお持ちの弁護士もいるでしょうけれど、それを分析する能力を私は持ち合わせておりません。

そんな私が僭越ながら上記ブログをまとめてみるならば「逮捕を避けるため、そして逮捕されてしまったとしても勾留を避けるためには、留まって弁護士を呼んだ方が安全。無理に逃げると却って逮捕・勾留のリスクが高まる。」ということになろうと思います。

こうした私なりの(浅い)理解・感想とは別に、気になった議論がありました。
このブログに端を発してtwitterの一部で展開された「推定『有罪』であるかのような現状の司法制度はけしからん」といった主張と、これに対するローカス先生の「全体を一気に改善するなら政治の仕事」という回答です。
結論から言えば、私もローカス先生の言うとおりだと思います。

刑事弁護活動は一般的に民事に比して短期決戦であって、その瞬間ごとの状況に応じて行動・対応しなければなりません(それくらいは私も知っています。)。これは弁護人のみならず被疑者自身も同様であり、今回のブログはその貴重な行動指針となるものといえます。

その最中において「現行の運用がおかしい。推定無罪の原則を蔑にするこの担当裁判官の意識を変えなければならない。」と嘆いたり、その根本的解決を図ったりしている余裕はありません(なお、ローカス先生がそれらを放棄しているわけではないことは容易にブログから読み取れます。)。

思いっ切り身近な(?)例に例えるなら・・・「審判が(客観的にはストライクであるのに)外角いっぱいをとってくれない」という状況下で、「貴方の判定はおかしい」と審判に詰め寄れば退場させられるでしょうし、「審判を替えてくれ」と頼めば笑われるだけで試合はそのまま続くことでしょう。
このとき、まともなキャッチャーなら、ピッチャーに「外角より内角を攻めよう」などとアドバイスするのではないでしょうか。
ただ、これだけでは「この審判は外角いっぱいをとらない」という本来のルールからすればおかしな状況が続いてしまいますから、根本的に解決するには野球界のエライ人がこの審判を首にするか、ルールを以て判定を厳格化するほかありません。

これは刑事司法制度も同じことで、裁判官が「無罪推定の原則」を守ろうとしないならば、最後は人事・立法という「政治」によって守らせるほかありません。

そして、多くの弁護士は刑事司法制度の枠外でも、「無罪推定の原則」が徹底されるよう政治的活動に尽力しています(刑事弁護に熱心に取り組んでいる弁護士ほど、こうした活動にも力を入れていると思います。)。

言うまでもなく、弁護士は個々の刑事事件において全力を尽くさなければなりませんし、それが不十分であれば批判は免れません。しかし、このように長期的・根本的な解決には政治的な力も不可欠です。
とすれば、その力を持っている市民がこの問題や刑事司法制度全般に関心を持ち正確な知識を得ることが肝要です。ローカス先生のブログは、その大きなきっかけになったと思います。

・・・なんてことを書いている途中で、ローカス先生が3本目のブログをアップされたようです。大事なことはこちらに全部書いてありますので、私からはこのへんで。

miurayoshitaka.hatenablog.com

人のセックスも人の住む街も笑うな

※平成30年8月9日加筆
文中の弁護士佐藤大和先生から「下記記事の引用・使用や、これに関する問合せ・取材を全て断っている。」とのご説明をいただきました。この記事は、やはり佐藤先生のご意向どおりに編集・公開されたものではなかったと推察されます。

movies.yahoo.co.jp

突然ですが、皆さんこの作品をご覧になったことはあるでしょうか?
すみません、私はありません。
感想ブログやレビューによると、冒頭で「Don't laugh at my romance.」という英語タイトルが流れる素敵な作品のようです。

さて、実は少々怒っています。
笑ってはいけないのは、他人のセックスやロマンスだけじゃねーぞ、と。

日刊SPA!のこの記事。
ご近所トラブルが多い街・ワースト5 

news.livedoor.com

タイトルだけで嫌な予感がしましたが、中身を読んでみたところ・・・予想どおりとても不快感を覚えました。
SPAが面白おかしく街にレッテルを貼るだけならまだしも、有名な弁護士さんのコメントがそれに彩りを加えているので、ここで挙げられている街にお住まいの皆様の名誉と、その街の物件の資産価値を少しでも回復するべく、無粋ながらネタにマジレスをいたします。

まず、「ワースト5」とのことですが、何を基にしたランキングなのでしょう?
本文を読むかぎり街を評価しているのは佐藤弁護士のようであるものの、何を比べて順位をつけているのかがよく分かりません。
「トラブル多発の街」とのことですから、同弁護士の相談件数でしょうか。
だとすると、燦然と1位に輝く「成城の古参住民vs新参住民やミュージシャンが絡むトラブル」の相談件数は、足立区全域のマンション内騒音の相談件数より多いことになりそうですが、本当でしょうか。

また、全く別エリアであるにも関わらず一つにされている同率1位の玉川は、今では二子玉川ライズに代表されるところですが、本当にここで閉鎖的な古参住民と新参住民のトラブルが、1位にランクされる程度の頻度で起きているのでしょうか(古くからお住まいの住民が多いという意味に限れば、周辺の瀬田や上野毛の方が当てはまる気がします。)。

ベンチャー系のパリピが入居しているマンションは、2位にランクされるほど、そして六本木や麻布などよりも、恵比寿に多いのでしょうか。

スカイツリー周辺の下町のいじめが他の街と比較して「容赦ない」とは、事実でしょうか。佐藤弁護士は、このエリアと他のエリアとに有意な差を見出すことができるほどの件数のいじめ相談を受けているのでしょうか。仮に本当にそうだとしても、それをこのように公表するべきだったでしょうか。

豊洲の(タワー?)マンション・PTA内不倫やスポーツクラブのコーチとの不倫が他の街より多いことを、どうやって確かめたのでしょうか。例えば世田谷の大規模マンション(二子玉川ライズ(約1000戸)、深沢ハウス(約770戸)、東京テラス(約1000戸)、桜上水ガーデンズ(約880戸))と比べて、豊洲の方がご近所不倫(?)が多いことを示すデータはあるのでしょうか(なお、私はこれらの大規模マンションの住民から不倫相談を受けたことはありませんが、そのことを以て「豊洲の方が多い」という結論は導けません。)。佐藤弁護士やSPAの記者は、砂の塔をご覧になったのではないでしょうか。

momoo-law.hatenadiary.jp

足立区の賃料が都心に比して安いことは確かですが、その分「壁が薄い」のは本当でしょうか。少なくとも私はこれまで足立区のマンションの住民から「壁が薄くて夜の営みの声がうるさい」という相談を受けたことは一度もありません。そして、ここで単に「声」ではなく「人のセックス」の声を例に挙げる意味はあるのでしょうか。
なお、騒音問題は客観的な音の大きさよりも「静かであるはずなのに聞こえる」というギャップによって生ずることが多く、むしろ防音設備が整ったマンションの方がトラブル化し易いというのが、私の印象です。

最後に、佐藤弁護士が事務所を構えておられる文京区の治安が良いことに異論はないものの、少なくとも私のマンション管理相談経験からは、その件数において周辺区との明らかな差はありません。このエリアに多いヴィンテージマンション特有の相談もありますし、最近話題となったル・サンク小石川のトラブルが起こったのは正に文京区です。

mainichi.jp

率直に申し上げて、このランキングが「佐藤弁護士が実際に受けた相談件数」を基に作成されたとは思えません(佐藤弁護士の真意がそのまま表れた記事ではないのでは、とも推察します。)。
根拠が相談件数でないのだとすれば、何に基づく順位なのかを明示しないでこのような記事を掲載することは、安易で下品なレッテル貼りと言わざるを得ないと思います。

もし佐藤弁護士の実際の相談実績によってこのランキングを作成したのだとしても、それをこのような形で明らかにするべきであったか、大いに疑問です。
なぜなら、この記事によって、同弁護士に相談をした方々がお住まいの成城、玉川、恵比寿、スカイツリー周辺、豊洲、足立区全域という街に対する社会的評価が低下しかねないからです。物件を所有しているならば、その資産価値(売却価格、賃料)への影響が生ずることもあり得ます。

街にはそれぞれ特徴があることは否定しません。
しかし、ネガティブな事柄であればあるほど、それを語る際には明確な根拠を示すべきです。

人生最大級の買い物で手に入れ、思い出や思い入れの詰まった住まいのある街を笑われて喜ぶ人はいないのですから。

第三管理組合の作り方 -用法・用量を守って正しく作ってください-

最近この記事を見つけていただいた方へ

本記事は2017年4月に公開したものです。大切なことは後半にまとめておきましたので、是非最後までお読みください。

 

本日、こんなブログを読みました。面白いのでまずは皆様もご一読ください。

www.gentosha.jp

・・・いかがでしたか?
リゾートマンション、共用部分、税金、管理費・修繕積立金、雨漏り、資産価値、管理組合の分裂・対立・・・区分所有法の教科書のように、マンションに関する重要単語が盛り沢山でワクワクしますね。しませんか。

その中でもひときわ目を引くパワーワードがありました。
そう、「第二管理組合」です。

皆様ご存知のとおり、区分所有建物(分譲マンション)における区分所有者は区分所有法上当然にその建物の管理を担う団体を構成し、一般的にその団体を管理組合と呼びます。
このような性質上、一つのマンションの管理組合は一つです(一部共用部分や団地という例外もありますが、ここでは割愛します。)。

では、「第二管理組合」とは何でしょうか。

最初から管理組合、理事会又は規約の体裁すら整っておらず複数の管理組合がほぼ同時に「立ち上がる」というケースもありますが、比較的多いのは事後的分裂型だと思います。

例えば以下のようなケースです。
①X理事会のA理事長が総会を招集して、Aとその仲間が多数を占める役員選任決議をし、新たにY理事会を構成した。
②A理事長と対立するX理事会のBら平理事グループが、①の手続的瑕疵を理由にその決議無効を主張しつつ(つまりY理事会は存在しないことを前提に)、X理事会において規約に則りA理事長を解任してBを理事長に選任した。
③B理事長が総会を招集し、Bとその仲間で多数を占める役員選任決議をし、新たにZ理事会を構成した。

以後Y理事会とZ理事会が、それぞれ自分たちが正当な理事会であると称して活動し、それぞれが勝手に招集した総会を「管理組合総会」などとして実績を残していけば、あたかも二つの管理組合が存在するかのような状態が出来上がります。
もちろん、これは「二つあるように見える」だけであって、結局は①の役員選任決議の有効性如何により、いずれが正当な理事会(その後の総会)であるかが決まるわけです。

ここで、このブログの読者の方は不思議に思うのではないでしょうか。
①の総会で賛成票を投じた区分所有者はA理事長とY理事会を支持しているのだから、③の総会は無視されて定足数や決議要件を充たさず、Z理事会は成立しないのではないか・・・と。
ところが、理事会・理事長名義で総会議案書が手元に届けば、特に吟味せず委任状や賛成の議決権行使書を返送してしまう管理に無関心な区分所有者も少なくありません。これによって①でも③でも形式的な決議要件を充たしてしまう、という事態が生じ得るのです。

また、両陣営がこうした要件をきっちり充たしていなくても(傍から見ればいずれが正当であるかが明確であっても)、法的手続による決着に至らない限り「事実上併存している」という状態はあり得ますし、実際はそのようなケースが多いでしょう。「管理組合の対立を法的手続で解決しよう。」という意識はまだまだ広まっていませんので。

以上からも分かるとおり、第二管理組合は、マンションが以下のような条件を充たすと誕生し易いといえます。
(1)特定の区分所有者間に激しい対立があり、双方に強力なリーダーがいる。
(2)対立当事者以外の区分所有者の多くはマンション管理に無関心である。
(3)元々の管理組合運営が杜撰である(自主管理、居住所有者が少数等々。)。
(上記ブログのようなリゾートマンションは、(2)(3)を充たし易く要注意です。)

このような仕組みやコツさえ分かれば(決して簡単ではないものの)第二どころか「第三管理組合」を作ることもでき、実際、私は第三管理組合の立ち上げを手伝ったことがあります。

もちろん、このような分裂状態は極めて不健全であり、泥沼化して管理が滞りスラム化してしまっては元も子もありませんから、管理組合や現行理事会が自分の思うように動かないからといって安易に対立を煽るべきではありません。
私がお手伝いした第三管理組合も、その後何とか第二管理組合との和解を経て最終的にマンション統一を果たしたようですが、それまでの道のりは険しいですし、統一後も対立感情がなくなるわけではありません。

将来こうした事態に陥らぬようにするには、やはり日頃から区分所有者間・住民間において適度なコミュニケーションをとっておくことが肝要です。

momoo-law.hatenadiary.jp

それでもやむを得ない場合は・・・ご相談ください。

なお、こうした管理組合対立が激化すると、マンション内で様々な文書が飛び交うことがあります。こうした事態に遭遇した組合員の皆様は、是非「その文書がどのような立場の人物によって作成されたものか。そもそも本当に文書の名義人によって作成されたものなのか(例えば、理事長や弁護士の名前がきちんと掲載されているか)」を慎重にご確認ください。