高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(4)_最終回

3月5日に予定されている高圧一括受電方式に係る最高裁判決の予習の最終回です(これまでの3回は以下のとおり。)。

本件において最高裁は原告に対して「総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠」について補充するよう求めました。
私は、この点が本件の帰趨を決し、結果として原告の請求が認められた一審・二審の判断は覆されるのではないか、と予想しています。
ここまでが予習(3)記事までのお話です。
それでは、この最高裁による主張補充の指示はどのような意味をもつのでしょうか。

「桃尾のこのブログを読破した」という奇特な方であれば「標準管理規約の改正とコミュニティ条項」というテーマの記事をご記憶かと思います(まとめを貼っておきます。)。

一言でいうと、これは「コミュニティ活動は管理組合が行い得る活動に含まれるか」という「管理組合の権限の範囲」に係る区分所有法の解釈の問題でした。つまり「区分所有法第3条が定めるとおり*1、管理組合は区分所有『建物と敷地』の『維持管理』を目的とする団体である。コミュニティ活動はこれにあたらないのだから、管理組合には同活動を行う権限はないのではないか。仮に管理組合が規約や決議でこうした活動を行おうとしても、区分所有者(組合員)はそれに従う義務はないのではないか」ということです(これについて私がとった結論は上記記事をご参照ください。また、こうした「管理組合の私的自治の限界」については、日本マンション学会誌「マンション学」第58号でも特集されています。私は、本記事を書く前に読・・・んでおかなかったことを後悔しています。)。

本件における最高裁の上記求釈明にあてはめて考えます。
高圧一括受電方式導入決議という「管理組合の意思決定」を以て「従来契約の解約義務」を区分所有者に課すためには(それに違反したものの行為を「違法」と評価するためには)、この意思決定が管理組合権限の範囲内にある必要があります。
例えば「区分所有者は1日1以時間以上区分所有法の勉強をしなければならない。違反したら管理組合に違約金を納めなければならない。」という総会決議に違反した者に対し違約金を請求できるわけがないことは、感覚として分かると思います。

それでは、本件ではどういった点が「管理組合の権限の範囲外」と評価され得るのでしょうか。
高圧一括受電方式導入決議に伴う「従来契約の解約」は「個人が締結した契約の終了」を強いるものです。しかし「どのような契約を締結するか(しないか)」は、本来個人の自由です(「契約自由の原則」という言葉を聞いたことがあるかも知れません。)。しかも、各区分所有者が締結しているのは、共用部分や他の区分所有者とは関係のない「専有部分への」電力供給に係る契約です。
こうした契約を継続するか否かは「建物の維持管理」に係る事柄といえるでしょうか。

これが否定されるのであれば、本件の高圧一括受電方式導入決議に伴う「解約義務」が否定されますから、その余の論点を検討するまでもなく原告の主張は認められなくなります(義務が無い以上、被告が解約を拒んだことは違法ではなくなり、それによって原告が「経済的に損した」としても、法的な賠償責任は発生しません。)。

私は、上記本件最高裁の求釈明はこの議論を尽くさせるものであったと想像しています。
そして、契約自由の原則民法の大原則であり(言い換えると、個々の区分所有者が享受する重要な権利であり)、上記「コミュニティ活動」と比べても「建物の維持管理」という管理組合権限の「中心」からの距離が遠いと考えられることから、原告の請求を認容した一審・二審の判断は覆されるのではないかと予想しているわけです。

なお、この点に関連し、私は以前から区分所有法第18条1項*2と同法第30条*3との関係が気になっています。簡単にいうと、前者は「共用部分の管理」のみに言及しているため「専有部分の使用方法等」は同条の守備範囲外であって、それを定めるには第30条のとおり規約で定めなければならないのではないか、という考えです。一般的には「規約で『専有部分の使用方法等は使用細則で定める』と定めておく(詳細は細則に委ねる)」とすることでクリアされていますが、純然と総会決議のみを以て専有部分の使用方法を規律できるのか、という問題意識です。本件でこの点が言及されているのかは分かりません。

さて、改めて予習(2)と予習(3)記事を思い出してください。
横浜地裁事例では、本件で述べたような議論が殆どなされていないようです。この件で仮に被告がこうした主張を展開していたならば、本件のように最高裁までもつれ込んだかも知れないのに、です。
この点について私は、予習(3)記事「3.代理人弁護士」で述べたとおり「横浜地裁事例の被告に代理人弁護士が就いていなかった(いわゆる本人訴訟であった)」ことが大きな原因ではないかと考えています。
この点も、専門家である代理人弁護士が主張立証を尽くしている本件の結果を予想するに際して、この横浜地裁事例の結論はあまり役立たないと私が考える理由の一つです。

長くなってしまいましたが、以上が、私が本件最高裁判決を控えて考えていることです。
もちろん、最高裁がこうした点について正面から判断するかどうかは分かりませんし、主な判決の理由を他の点に置くかも知れません。
しかし、何らかの形で「契約自由の原則」と「管理組合の権限の範囲」の問題には言及するのではないかと期待しています。
そして、その判断は、今後「高圧一括受電導入問題」に限らず、「総会決議や規約が権限の範囲内か」という、これらの有効性判断に係る重要争点に影響を及ぼすはずです。
そのため、結論がいずれであっても、また、高圧一括受電方式の導入を予定していない皆様におかれても、3月5日の本件最高裁判決は要チェックであると思います。

・・・ふう、何とか判決に間に合いました。もっと書きたいことはありましたが、そろそろ引越の準備をしなければなりませんのでこの辺で。
判決後にまたお会いしましょう。

この一連の予習・予想が全く的外れであった場合は、原審資料を入手できていないせいであり、また引越しのためじっくり検討する余裕がなかったせいである、ということにしておいてください!

2019年3月6日追記
判決速報版記事はこちら↓

momoo-law.hatenadiary.jp

*1:「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成」

*2:共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。

*3:建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。