管理組合と自治会におけるコミュニティ活動に関する東京高裁令和5年5月17日判決について_⑴

マンション管理新聞2023年6月5日付1238号に、ある裁判例(東京高裁令和5年5月17日判決・「本件高裁判決」)が掲載されていました。
その1年弱前の同新聞2022年8月15日付1212号には、その原審(東京地裁令和4年7月20日判決・「本件地裁判決」)が掲載されており、その際は「まぁそうだよね」とスルーしていたのですが、本件高裁判決では結論が変わっていました。
インパクトが大きいと思いますので、久しぶりの裁判例解説ブログです。

もっとも、人望のなさのせいで判決の原文を入手できていないため、上記マンション管理新聞の記事だけを頼りにこのブログを書いています。間違いがあったらゴメンナサイ(とはいえ、マンション管理新聞の記事はいつも正確ですから、間違いがあればおそらく私のせいです。)。
また、いつもどおり分かり易さを重視して、法的正確性を若干犠牲にした表現を採用していますので、専門家のツッコミは勘弁してください。

事案の概要は以下のとおりです。
原告(控訴人):組合員
被告(被控訴人):団地型マンションの管理組合
以下、「本件組合員」「本件管理組合」「本件マンション」と呼びます。

本件管理組合は、その原始規約から「管理組合という団体として」自治会(「本件自治会」)に加入すること(「団体加入」)を定めており、毎年の総会決議に基づいて自治会費を本件自治会に支払っていました。
そして本件管理組合は本件自治会に対し、防災・防犯・清掃等の活動(「防災等活動」)や、納涼祭・バーベキュー大会・クリスマス点灯式等の活動(「イベント等活動」)の実施を委託し、自治会費をこれらの対価(委託費)と位置付けていました。

本件自治会の構成員は、本件管理組合の組合員や本件マンション居住者です。
また、本件組合員は個人としても本件自治会に加入していましたが、2016年5月に退会しました。
本件自治会はこのような個人加入者からは自治会費を徴収しておらず、その主な収入は上記本件管理組合が支払う自治会費であり、その他に若干の助成金やイベント等活動の参加費を得ていました。

原告の請求
1 「本件管理組合による本件自治会への団体加入及び自治会費の支払い」を定めた規約(「団体加入条項」)が無効であることの確認
2 団体加入条項に基づく数期分の自治会費支払承認総会決議(「会費支払決議」)が無効であることの確認
3 本件組合員が本件自治会を退会した日以降に本件管理組合に支払った管理費のうち、会費支払決議に基づき支払われた自治会費の本件組合員負担部分に相当すると算出される約5,000円を支払え(不当利得返還請求)

この「管理組合と自治会」の問題はマンション管理界隈において数年前に大いに盛り上がりましたが(私もこのブログで延々書きました↓)、裁判例、学者の先生方による検討、国会答弁等により、概ね結論が固まってきた…と思っていたところでの本件高裁判決であったため、大いに驚いています。

この問題の経緯について説明する気力がないので、「管理組合 自治会 町内会 コミュニティ活動」あたりでググってください。

本件の争点と、それらの帰結は概ね以下のとおりです。
下記争点の「順序」は、マンション管理新聞(そして、おそらく実際の判決)における議論の順序とは異なります。
ただ、本件地裁判決と本件高裁判決を比較し、「どこで判断が分かれたのか」を検討するためには、この方が分かり易いと考えた次第です。

争点①
イベント等活動が、区分所有法3条の「管理組合の目的」の「範囲内」であるか否か(なお「防災等活動」が「範囲内」であることに争いはありません。)
「範囲内」であれば、それを本件管理組合が自ら行ったり本件自治会等の第三者に委託したりすることを、団体加入条項や会費支払決議によって定め、実行・支出することができます。

争点②
イベント等活動が「範囲外」であるとしても、本件自治会が防災等活動のような「範囲内」の活動も行っている場合、団体加入は「範囲内」といえるか。
これも「範囲外」であれば団体加入に基づく自治会費の支払いも「範囲外」となります。
この団体加入が「範囲内」であれば、自治会費の支払いも「範囲内」といえる余地が残ります。

注意すべきは、争点①②は、いずれも「本件管理組合が、団体加入条項や会費支払決議に基づき団体加入し、本件自治会にイベント等業務を委託し、その対価として自治会費を支払う」というスタイルを前提しているという点です。
いくらその活動が「範囲内」であるとしても、本件自治会が任意加入団体であることに変わりはありませんから、個々の組合員に加入を強制したり、既に本件自治会を脱退した個々の組合員から(本件自治会に代わって)本件管理組合が自治会費を徴収したりすることはできません。
本件自治会を脱退した組合員は自治会費支払義務を負いませんから、本件管理組合がそれを徴収すれば不当利得となります。

そこで、争点③も問題となります。
争点③
組合員が本件管理組合に支払った「管理費」を原資に団体加入条項や会費支払決議に基づき自治会費を支払っているという体裁をとっているとしても、その原資の実態は「組合員から代行徴収した個々の組合員の自治会費」ではないか。
なお、「管理組合が自治会の代わりに自治会費徴収の事務処理を担う」という意味での代行徴収が認められることは概ね見解が一致しており、本件高裁判決も同様の立場です。

代行徴収でなければ、組合員が管理組合に支払っているのはあくまで「管理費」ですから、これを原資とする管理組合から自治会への支払いには区分所有法上の多数決原理が及びます。つまり、少数派の反対者がいても実行することができますし、不当利得の問題も生じません。
仮に代行徴収であれば、それはあくまで「個々の組合員の自治会費の支払い」です。そして自治会は任意加入団体であって強制加入はできませんので、脱退後の徴収分は不当利得となります。

長くなりましたが、以上が本件の争点と構造です。
以上を踏まえ、本件地裁判決と本件高裁判決がそれぞれどのように判断したかを整理してみます。

本件地裁判決の判断
争点①
イベント等活動も、その目的・内容によってはマンション・周辺環境の維持向上に資する活動として「範囲内」となる場合があり得る。

争点②
⑴「範囲内」というためには、団体加入が「建物等の管理又は使用に関する事項に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益であること」を要する。
⑵本件管理組合が管理する建物等の対象範囲(即ち本件マンションの建物・敷地・施設等)と本件自治会の活動地域が一致している。
⑶本件自治会の基本方針に、本件マンションの生活環境の改善・向上のための活動が含まれており、実際、本件自治会は防災等活動を実施している。
⑷このように、本件自治会は、建物等の管理に含まれる活動を基本方針とし、実際にも建物等を維持していくために必要かつ有益な活動を行う団体であるから、団体加入条項も会費支払決議も「範囲内」である。
⑸本件自治会への団体加入が建物等の管理に必要・有益である以上、本件自治会が「範囲外」の活動を行っていた場合でも(つまり、仮にイベント等活動が「範囲外」であるとしても)、本件自治会への加入が「範囲外」となるものではない。

争点③
自治会費が組合員数・戸数に応じて算出されるなど「組合員が支払うべき自治会費を管理組合が代わりに支払っている」という実態が存在すれば「代理徴収」(※代行徴収)と評価する余地がある。
⑵本件における自治会費は年度ごとに「活動内容を踏まえて定められた金額」である。
自治会細則などから、自治会費は「自治会の行う活動のうち管理組合の業務に関連する活動の対価の位置付けで支払われているもの」といえる。
⑷したがって、代理徴収にはあたらない(つまり、本件管理組合が各組合員から徴収しているのはあくまで管理費であって、会費支払決議に基づく自治会の支払は、規約や総会決議で決められる管理費の使途に過ぎない。)。本件組合員退会後に従前と同額の管理費を徴収しても、本件自治会退会の自由を侵害しない。

結論
原告の請求は全て棄却する。

本件高裁判決の判断
争点①
⑴イベント等活動は、専ら地域住民の親睦を図るのが目的であり、イベント参加者という一部の者のみが利益を享受するものである。
⑵イベント等活動は「範囲外」である疑いがある。

争点②
⑴本件自治会が行う防災等活動や住環境向上のための行政への働きかけなどは、管理組合の業務にあたる(即ち「範囲内」である。)。
⑵本件自治会は本件管理組合がマンション管理を行うために必要かつ有益な活動を行う団体である。
⑶本件管理組合が団体加入し、防災等活動に要する費用を支出するのは「範囲内」である。
⑷本件自治会の活動に「範囲外」のものがあったとしても、それだけで団体加入が「範囲外」であるとはいえない。
⑸下記争点③のとおり、退会した組合員は本件管理組合に対し、退会後に代行徴収された自治会費について不当利得に基づく返還を求めることができるため、団体加入条項や会費支払決議自体は無効とはいえない。

争点③
⑴本件自治会の支出の大半はイベント等活動に充てられていた。
⑵イベント等活動は、任意加入の地縁団体である自治会固有の活動である(争点①)。
⑶本件管理組合による本件自治会への自治会費支払いは、自治会活動と管理組合業務とを混同するものである(争点①)。
⑷本件管理組合が本件自治会にこれらを委託し、その対価を支払うことは本来許されない。
⑸本件管理組合と本件自治会の構成員が実質的に一致している。
⑹本件自治会の活動費の大半は、本件管理組合が支払う自治会費で賄っている。
⑺「範囲内」に含まれる活動とそうでない活動との区別が適切に行われているとは言い難い。
⑻本件管理組合による組合員からの管理費徴収(その割合的に該当する部分)は自治会費の代行徴収である。
⑼本件組合員による本件自治会退会後も代行徴収を続けるのは、実質的に本件自治会からの退会の自由を制限するものである。
⑽したがって、退会後に代行徴収された分は、不当利得となる。

結論
本件管理組合は本件組合員に対し、その本件自治会退会後に代行徴収された分に相当する金約5,000円を支払え。
団体加入条項や会費支払決議は有効であるから、これらの無効を主張する本件組合員の請求は棄却する。

事案と各裁判例の説明だけで思いのほか長文となってしまいましたので、今回はここまでとします。
本件の更なる分析や管理組合がとるべき対応策等については、気力・体力と相談しながらということで。

なお、マンション管理新聞1238号によると「双方ともに上告する考え」とのことです。

本記事の続きはこちらです↓

 

秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人について(3) -職務執行停止仮処分・保全抗告-

秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人46期理事の職務執行を停止する仮処分(以下「原仮処分決定」)に対し、債務者46期理事から異議申立てがなされていましたが、東京地裁民事第8部は、令和4年9月9日付で原仮処分決定を維持しました(以下「本件認可決定」)。これらについては、前回までの記事(1)(2)をご参照ください。

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そして、債務者46期理事により、本件認可決定に対して保全抗告の申立てがなされていたところ、東京高裁第12民事部は、令和5年6月2日付でこれを棄却しました(つまり、本件認可決定に続き、原仮処分決定は再度維持されました。以下「本件保全抗告棄却決定」)。

(詳細は割愛しますが)本件保全抗告棄却決定には、原仮処分決定や本件認可決定における認定から後退した点はなく、逆に、当方の主張が若干補強されました。

保全抗告決定に対する再抗告は認められないため(憲法違反等の特殊な事項を含む場合に限って特別抗告が認められますが、本件はこれに該当しないと考えます。)、一連の保全手続は本件保全抗告棄却決定にて事実上決着しました。

本件の本案訴訟(一審)も、間もなく結審する予定です。

(追記)
6月22日に結審しました。

秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人について(2) -職務執行停止仮処分・保全異議-

秀和幡ヶ谷レジデンス管理組合法人(以下「管理組合」)46期理事の職務執行を停止する仮処分(以下「原仮処分決定」)に対し、債務者46期理事から異議申立て(以下「本件保全異議」)がなされていましたが、東京地裁民事第8部は、令和4年9月9日付で原仮処分決定を維持(認可)しました。

本件、特に令和3年11月6日に開催された臨時総会における議事進行に関し、一部事実と異なる報道・主張がなされていました。
この点について、原仮処分決定に際しては、裁判所の実務的運用により詳細な事実認定は示されませんでしたが、本件保全異議認可決定に伴い、主に以下のように認定されました。
なお、原仮処分決定の内容やそれまでの経緯については前回の記事をご参照ください。

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債権者:組合員1名(代理人弁護士:桃尾俊明)
債務者:管理組合及び46期理事(理事長及び理事3名※1。以下「46期理事」。代理人弁護士:なし※2)
※1:原仮処分決定の対象となった理事5名全員が保全異議を申し立てましたが、その後債務者Eがこれを取り下げ、また債務者Fは申立後に「理事を辞任した」旨を表明しました。それ故、下記主文において債務者Eは除外され、債務者Fについては原仮処分決定が取り消されました。
※2:管理組合顧問弁護士2名が46期理事及び管理組合の双方の代理人として本件保全異議を申し立てましたが、その後いずれの代理人も辞任しました(管理組合の顧問も辞任したようです。)。

主文(やや簡略化しています)
1 本件保全異議の申立てのうち、債務者管理組合の申立てによる部分を却下する。
2 原仮処分決定のうち、債務者Aは理事兼代表理事の職務を、債務者B、C、Dは理事の職務を執行してはならない部分を、いずれも認可する※。債務者Fの部分は取り消す。
  ※原仮処分決定を維持するという意味です。
3 債務者Fの取消しに係る部分につき、債権者の本件仮処分命令申立てを却下する。
4 申立費用及び異議申立費用は、いずれも債務者A、B、C及びDの負担とする。

まず、主文1は、原仮処分決定によって理事長としての職務執行を停止されていたにも関わらず、債務者Aが(個人としてではなく)管理組合代表理事としても本件保全異議を申し立てたことを理由に、「管理組合による保全異議申立て」が却下されたものです。
前述のとおり、この却下された部分の申立ても、当時の顧問弁護士が代理人として行っていました。

また、主文3は、前述のとおり債務者Fが理事辞任を表明したため「保全の必要性なし」と判断されたものです。

主文2が、本件保全異議の実質的な結論です。

1.議長不信任・交代決議の有効性
以下の事実認定を踏まえて、債務者A(当時の理事長)に係る議長不信任・債権者への交代決議に瑕疵はない、と判断しました。なお、一部メディアにおいて「債権者が当時の議長債務者Aから強引にマイクを奪い取った」かのような報道・主張も見受けられましたが、そのような認定は一切なされていません。
 (1)開会当時に債務者A、Fが発表した委任状数においては、46期理事会が多数を占めていた。
 (2)債権者側が上記発表に疑義があると指摘したことで行われた46期理事側による再集計(顧問弁護士の1名が立会い)の結果は、次のとおり債権者側委任状が大幅に増加したものであった。
  ①会場出席者:57名(議決権数59票)
  ②46期理事側への委任状:106名(議決権数110票)
  ③債権者側への委任状:98票(議決権数100票)
 (3)この発表後、議長を務めていた債務者Fが本件総会を終了させる意向を示したことから、債権者が本件総会に同席していた顧問弁護士に対し意見を求めたところ、同弁護士は、決議をとることはやむを得ない旨の発言をした。
 (4)議長が債務者Fから債務者A(当時の理事長)に交代し、債務者Aは再度票数を精査する必要がある旨の意向を示した。
 (5)債権者が債務者Aについて議長不信任・交代の動議を申し入れたが、債務者Aは、票数に疑義があるから本件総会を理事長責任で終了させる旨を述べ、動議を議場に諮ることを拒否した。
 (6)債権者が自ら動議の採決を議場に諮ったところ、賛成多数であったことから、議長不信任・交代決議がされたとして、自身が本件総会の議長を務めることとした。
 (7)債権者側の委任状は、議長選任及び当日なされた動議に対する議決権行使の権限を委任することもその対象としていた。
 (8)議長交代後、債権者側推薦候補者・46期理事推薦候補者の双方について本件役員選任決議の採決がなされ、債務者Aら46期理事も挙手して議事に参加した(その後債務者Aは「議決には参加していない」旨の発言をした。)。

2.本件役員選任決議
 (1)結果
  債権者を議長としてなされた本件役員選任決議の集計結果について、以下のとおり認定しました
  ①居室数(総議決権数):298
  ②出席組合員の議決権数:269
  ③出席組合員の議決権の過半数:135
  ④債権者側選任の賛成数:143(議場では137と宣言された。)
  ※なお、会場壇上にて本件総会に同席していた顧問弁護士(当時は3名)が代理人として作成した原仮処分決定前の審尋における答弁書には、当日出席者中の46期理事側選任賛成者数に関し「現役員による賛成が9票、会場出席者の賛成が19票であった」(即ち計28票)との記載がありました。しかし、債権者提出証拠である動画・画像に基づき認定された「46期理事側選任に賛成する会場出席者票数」は「3票」に止まりました。
 (2)債務者(46期理事)の反論とそれに対する裁判所の判断
  46期理事は主に以下のように反論しましたが(いずれも顧問弁護士が代理人として準備書面を提出)、これらの主張は次のとおりいずれも認められませんでした。
  ア 本件総会を撮影した画像は合成されたものである。
    ←証拠なし
  イ 債権者側の委任状は、当時の理事会(46期理事)が作成した書式ではなく、未だ議題が不明であった令和3年6月頃(本件総会は同年11月6日開催)から集められたものであり、個別委任の原則に反し、全て無効である。
    ←総会延期の経緯(46期理事会の判断)、債権者側委任状書式の記載(対象議題の明記)から、これらの委任状を作成した組合員の意思を合理的に解釈すれば、債権者らを代理人とする意思を有していると解せられる。
  ウ 一旦出席した者が事前に提出した委任状は、委任状を行使する旨を途中退席時に改めて申し出ない限り、無効となる。
    ←途中退席者が債権者らに委任する意思を有していたことが証拠(陳述書)により認められる。
  エ 日付の記載のない委任状は無効と扱うべきであり、債権者もその旨合意した。
    ←合意した証拠なし

3.保全の必要性
  次のように肯定されました。
 (46期理事は)「原仮処分決定後も理事会として業務を継続する意向を示しており、工事等の発注、物品の購入、預貯金の引出しなどを行えば、管理組合に経済的な損害が発生するから、保全の必要性が認められるというべきである。」

以上のとおり、原仮処分決定は維持されました。
なお、本件に係る本案訴訟(原告:上記債権者、被告:管理組合、補助参加:債務者A~D)は既に係属しています。