続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3)  -各見解の位置づけ-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-(「本連載(2)」)
に続く連載3回目(各項目の見出しは通し番号)です。

まずご報告です。全5回の連載と予告していましたが・・・やはりこの問題は丁寧に記しておきたいと思い書き加えてみたところ,おそらく5回では収まりません・・・。

6 法律の解釈

法律は,全てが一義的な文言で成り立っているわけではありません。
その対象が一義的に定めることができない事項である場合や,時代の変化により立法当初想定されていなかった事態が生じる場合などがあるためです。
だからこそ,日々法律解釈上の紛争が生じ,裁判例が蓄積されています。

このような場合に「解釈」が必要となります。解釈は,文言自体や立法趣旨,他の法令との整合性,当該業界の慣例,社会常識,時代背景など,様々な事情に基づきなされます。

そして,解釈が介在する余地がある以上そこには「幅」があり,考え方の違いにより様々な解釈が生まれます。
こうした解釈の違いは(今回の「管理組合がなし得る行為」というような範囲の広狭の問題では),最も狭く捉える見解は「最狭義説」,最狭義説ほどではないが狭く捉える見解は「狭義説」,広く捉える見解は「広義説」,最も広く捉える見解は「最広義説」・・等々と言い表されます(これらは便宜上つけられる各見解の呼称に過ぎませんから,分類の仕方や名づける人によって変わることもあります。「あだ名」だとイメージしてください。)。

7 福井先生のご見解(後半)

さて,福井先生のご見解に話を戻します。

福井先生は,区分所有法第3条の文言を根拠に,管理組合が行い得る行為は「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」に限定され,したがってコミュニティ活動(といわれるもののうち,特に夏祭りや懇親会といったレクリエーション性の強いもの)は基本的に認められない,という見解をとっておられるようです。
本連載(1)でご紹介したセミナーや,その参考資料である都市住宅学93号「マンション管理のガバナンス-利益相反とコミュニティ活動のリスクを考える」においても,その点が最も強調されていました。

では,この区分所有法第3条は解釈の余地がない一義的な規定であると言えるのでしょうか。もう一度条文を挙げておきます。

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。(以下略)

いかがでしょう。
これを文言のみに基づき一義的に理解しようとすれば,(どこにも「風紀」「景観」「防犯・防災」「周辺環境」と書いてありませんので)同条の対象は物理的意味におけるマンションの建物・敷地・附属施設のみであり,周辺環境はもちろん,防犯・防災といったソフト面は対象外,と考えるのが自然であると思います。

しかし,福井先生はそのようなお考えではなさそうです。
福井先生は都市住宅学93号において,改正標準管理規約にて管理組合の業務として新たに示された第32条12号の「マンション及び周辺の風紀,秩序及び安全の維持,防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」を挙げ,これについて「マンション敷地の外であっても周辺の範囲内であれば,防犯,防災,美化などの活動で,その経費を上回るマンションの資産価値の向上がもたらされる限りにおいて,管理の概念に合致するという趣旨である。」と指摘しておられます。

また,改正標準管理規約のコメントには「いわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち,例えば,マンションやその周辺における美化や清掃、景観形成、防災・防犯活動、生活ルールの調整等で、その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動は、それが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である『建物並びにその敷地及び附属施設の管理』の範囲内で行われる限りにおいて可能である。」との言及があります。

このように,改正標準管理規約も福井先生も,区分所有法第3条を,マンションそのものの物理的な管理という意味に限定して捉えているわけではなく,文言から意義を拡張して捉えているのです。つまり,上記第3条が「幅」のある「解釈」が介在し得る条文であることを前提としているといえます。

8 各見解の位置づけ

とすると,この「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の解釈は,

・条文を文字通り捉える「物理的管理限定説(最狭義説)」
・改正標準管理規約コメントや福井先生のご見解と思われる,周辺環境等に関わる活動は許容し得るが懇親目的の夏祭りは認め難いとする「限定的拡張説(狭義説)」
・より広く捉えて夏祭りを認める「夏祭り許容説(広義説)」

に分けることができそうです(※いずれも私が勝手に分類し名づけています。なお,厳密には,福井先生と国交省とのご見解が完全に一致するのかは別問題です。この点は後述しますが,私は国交省の方が許容範囲をより広く捉えているように感じています。)。

これらはあくまで「解釈の余地という幅」の中の立場の違いであって,あとは「どの解釈が妥当か」という問題となります。

・・・次回(5月14日頃の予定)は,この問題に関しこれまでどのように判断してきたかを整理することによって,裁判所が上記見解のうちどれに近い立場をとっているのかを探ってみます。

 

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)

に続く連載2回目(見出しは通し番号)です。

2 標準管理規約改正の意味と本件との関係
ブログ第1回記事でも簡単にご説明したとおり,(改正)標準管理規約とは国交省が設置した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(本連載(1)で定義した「現検討会」)が作成した「管理規約のモデル」であり,それ自体に法的拘束力はありません。

また,数年ごとに改正されることからも分かるように,普遍的なものでもありません(改正『前』標準管理規約は,本連載(1)で定義した「前検討会」が作成しました。)。

即ち,夏祭りのような管理組合活動が「今般の標準管理規約改正によりできるようになったor禁じられた」という法的な関係はありません。
少々乱暴にいえば,改正標準管理規約は「管理組合は夏祭りを(法的に)行うことができるか,(政策的に)行うべきか」に係る現検討会の見解の表れであるといえます。

3 コミュニティ条項削除への疑問
そして,ブログ第1回記事で述べたとおり,今回の改正標準管理規約(コミュニティ条項の削除・コメント)や裁判例を検討した結果,私は「(常識的に求められる要件を充たせば)夏祭りは実施可能」,即ち「管理組合はこの問題について,改正『前』からスタンスを大きく変える必要はない」と考えています。

そのため,私は今回の改正において現検討会がわざわざコミュニティ条項を削除したことについて今一つ納得できておりません。ブログ第1回記事で述べたように「コミュニティ活動ができなくなった」という誤解を生みかねないためです。

そこで,今回コミュニティ条項を削除した現検討会の「見解」がどのようなものであり,我々や管理組合の皆様はその見解をどう捉えればよいのか,を改めて考えてみます。
そして,私は法律実務家である以上,「法的にor政策的に」のうち,主に法的な部分を取り上げることにします。

4 区分所有法第3条と問題の所在
ブログ第1回記事でもご案内したように,本件は標準管理規約自体の問題ではなく,区分所有法の解釈,即ち「区分所有法は,コミュニティ活動(夏祭り)を禁じているのか」という問題です。つまり,

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。(以下略)

という同法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」に夏祭りが含まれ得るのか,が問題の所在となります。

5 現検討会座長福井先生のご見解(前半)
詳しくは本連載(1)でご紹介した都市住宅学93号「マンション管理のガバナンス-利益相反とコミュニティ活動のリスクを考える」にて整理していただいているところ,僭越ながら私なりにご趣旨を一言でまとめると,現検討会座長の福井先生は,管理組合が行い得る活動の範囲につき「区分所有法第3条の文言に忠実に捉えるべき」とお考えのようです。

そして,そのうち夏祭りに関しては「夏祭りの類はそれ自体が管理又はその附随・附帯事項に該当するとは言い難い以上,管理組合費を支出することは違法となる。」(同書6頁)等とご指摘のように,管理組合は法的に行い得ないというご見解であると窺えます。

確かに,区分所有法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」という文言のみに注目し,そこに夏祭りが含まれるかを考えると・・・含まれなさそうにも思えます。

では,この「文言に忠実に」は,あらゆる法的解釈に通用する考え方なのでしょうか。もしそうであれば,この福井先生のお考えに基づきコミュニティ条項が削除されたことに納得できそうです。逆に,「文言の意味を柔軟に・拡張して」捉えることも許されるのであれば,そこに夏祭りが含まれる余地も生まれそうです。

・・・次回(5月13日頃の予定)は,法律の解釈について簡単にご案内し,それに基づき福井先生のご見解について更に検討を進めてみます。

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-

マンション管理に関心のある皆様の世代であれば,サブタイトルでピンときますよね(思い浮かべるグループは更に世代によって違いそうですが。)。

1 はじめに
私がこのブログを開設し初めて掲載した記事は
標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除
でした(以下,「ブログ第1回記事」といいます。)。
そこで私は,改正標準管理規約におけるコミュニティ条項の削除と,管理組合におけるコミュニティ活動の可否について,次のように述べました。

改正標準管理規約第27条コメント記載の「マンションやその周辺における美化,清掃,景観形成,防災防犯活動,生活ルールの調整」という要素が皆無では適法性を争われる余地が生じ得るが,これらの要素が活動の全体を占めたり効果が具体的・確定的な活動である必要まではなく,部分的・抽象的・潜在的にでもそのような要素・効果が見出せるコミュニティ活動であれば(また当然の要件として常識的な予算化を経ていれば),当該活動への管理費支出が違法と評される可能性は低い

最近,この問題に関し2日連続で著名な先生方のお話を伺う機会を得ることができました。

4月22日(金)
東京都マンション管理士会主催セミナー
「標準管理規約の改正の意義とマンション管理士業務の関わり」
講師:政策研究大学院大学教授 福井秀夫先生(「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(以下「現検討会」といいます。)座長)
http://www.grips.ac.jp/list/jp/facultyinfo/fukui_hideo/
住宅:マンションの新たな管理ルールに関する検討会について - 国土交通省
資料:都市住宅学93号「マンション管理のガバナンス-利益相反とコミュニティ活動のリスクを考える」(※公益社団法人都市住宅学会の機関紙です。5月6日時点では,上記リンク先に93号は表示されていないようです。)

4月23日(土)
日本マンション学会千葉大
メインシンポジウム「郊外団地型マンションの現状と課題」
第2部 郊外型マンションの課題を乗り越えるために
~コミュニティ再生,エレベーター問題,建替えと改修,法制度等~
2 団地型マンションの現在及び将来の課題-コミュニティの維持・形成との関連で-
講師:早稲田大学教授 鎌野邦樹先生(「マンション標準管理規約の見直しに関する検討会」(以下「前検討会」といいます。)座長)
教員プロフィール | 早稲田大学 大学院法務研究科(法科大学院)
マンション標準管理規約の見直しに関する検討会について - 国土交通省
資料:マンション学第54号「団地型マンションの現在および将来の課題-コミュニティの維持・形成との関連で-」

以上のお話や論稿は,この問題に係る現時点における最新かつ最先端の議論であると考えて良いと思います。

これらを経て,ブログ第1回記事で述べた私見は・・・変わっておりません。以上。
・・・で終わってはつまらないですから,この
「管理組合は,法的に,いかなるコミュニティ活動を行い得るのか」
という問題について,主に夏祭りを想定し,もう少し深く掘り下げて検討してみようと思います。
「少し」といいつつもかなり長文になってしまいましたので,生意気にも連載します(今のところ(1)~(5)とする予定です。)。
このようなボリュームの記事はブログには相応しくないのかも知れませんが,この問題にご興味をお持ちの方に私の考えをできるだけ知っていただくべく,大幅な短縮はしないつもりです。

また,本ブログは,特に管理組合(役員)の皆様に読んでいただきたいと考えておりますので,弁護士の態度として適当かどうかはさておき,法律的な正確性をやや犠牲にし(「大まかに・簡単に・一言で言えば」を頻用し),分かり易さを重視しているつもりです・・・だったら短くしろって話ですが・・・。

それでは,次回から本論に移ります。