続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(4) -参考4事例と町内会・自治会-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-(「本連載(2)」)

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3) -各見解の位置づけ-(「本連載(3)」)

に続く連載4回目(各項目の見出しは通し番号)です。

9 各説の検討

9-1 検討のアプローチ

前回,区分所有法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の解釈に関する見解を,
・条文を文字通り捉える「物理的管理限定説(最狭義説)」
・改正標準管理規約コメントや福井先生のご見解と思われる,周辺環境等に関わる活動は許容し得るが懇親目的の夏祭りは認め難いとする「限定的拡張説(狭義説)」
・より広く捉えて夏祭りを認める「夏祭り許容説(広義説)」

と,私が勝手に分類して名づけてみました。

そこで続いては,これらの「どの解釈が妥当か」を検討することになりますが,そのアプローチの仕方には,

「自分自身がどのように考えるか」という研究者的観点によるものと,
「裁判所がどのように判断すると予想されるか」という実務家的観点によるもの

があるといえます。
私は,前者の観点では「夏祭り許容説(広義説)」が妥当であると考えるとともに,後者の観点においても,裁判所は同様に判断するであろうと考えています。

私はあくまで管理組合や区分所有者の皆様のために働く実務家でありますし,このブログの読者の方々も「一弁護士の個人的見解なんてどーでもいい。裁判になったらどうなるのかを知りたい。」という方が多いでしょうから,後者を中心に以下検討を続けます。

9-2 参考4事例

裁判所の判断を予想するのですから,関連する事例における裁判所判断の傾向を検証することが最も重要です。
そして,この点については以下の事例が頻繁に指摘されます(本連載(1)でご紹介した福井先生の都市住宅学93号でも同様です。以下「参考4事例」といい,それぞれ以下のとおり略します。)。

最判平成17年4月26日  (「平成17年最判」)
東京簡判平成19年8月7日 (「平成19年簡判」)
東京高判平成19年9月20日(「平成19年高判」)
東京高判平成24年5月24日(「平成24年高判」)

正確には参考4事例に直接あたっていただく必要がありますが,これらが口を揃えて述べたことを大まかに一言で言えば「管理組合は,町内会・自治会費を,管理費のように強制的に区分所有者から徴収してはならない。」ということです。

他方,これらいずれにおいても裁判所は「管理組合が,管理組合自身の行為として,コミュニティ活動を行うことはできない。」という判断はしていません。
・・・少々分かりにくいですね。

一旦,前提知識を整理します。
いわゆる町内会・自治会(以下,本連載では単に「町内会(費)」といいます。)とは・・・手抜きで恐縮ですが,ウィキペディアをご参照ください。

簡単にまとめると,親睦を目的とする地域の任意団体であり「退会自由」であることがポイントです。

これに対して管理組合は,区分所有建物の所有者であれば当然に(強制的に)加入する団体であって,町内会とは逆に「(区分所有者である以上)退会できない」ことがポイントです。

さて,先に述べたように,町内会費の徴収に関する参考4事例の判断は「管理組合は,町内会費を,強制的に区分所有者から徴収してはならない。」というものであり,これ以上でも以下でもありません・・・

次回(5月16日頃の予定),参考4事例についてより詳しく検討していきます。

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3)  -各見解の位置づけ-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-(「本連載(2)」)
に続く連載3回目(各項目の見出しは通し番号)です。

まずご報告です。全5回の連載と予告していましたが・・・やはりこの問題は丁寧に記しておきたいと思い書き加えてみたところ,おそらく5回では収まりません・・・。

6 法律の解釈

法律は,全てが一義的な文言で成り立っているわけではありません。
その対象が一義的に定めることができない事項である場合や,時代の変化により立法当初想定されていなかった事態が生じる場合などがあるためです。
だからこそ,日々法律解釈上の紛争が生じ,裁判例が蓄積されています。

このような場合に「解釈」が必要となります。解釈は,文言自体や立法趣旨,他の法令との整合性,当該業界の慣例,社会常識,時代背景など,様々な事情に基づきなされます。

そして,解釈が介在する余地がある以上そこには「幅」があり,考え方の違いにより様々な解釈が生まれます。
こうした解釈の違いは(今回の「管理組合がなし得る行為」というような範囲の広狭の問題では),最も狭く捉える見解は「最狭義説」,最狭義説ほどではないが狭く捉える見解は「狭義説」,広く捉える見解は「広義説」,最も広く捉える見解は「最広義説」・・等々と言い表されます(これらは便宜上つけられる各見解の呼称に過ぎませんから,分類の仕方や名づける人によって変わることもあります。「あだ名」だとイメージしてください。)。

7 福井先生のご見解(後半)

さて,福井先生のご見解に話を戻します。

福井先生は,区分所有法第3条の文言を根拠に,管理組合が行い得る行為は「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」に限定され,したがってコミュニティ活動(といわれるもののうち,特に夏祭りや懇親会といったレクリエーション性の強いもの)は基本的に認められない,という見解をとっておられるようです。
本連載(1)でご紹介したセミナーや,その参考資料である都市住宅学93号「マンション管理のガバナンス-利益相反とコミュニティ活動のリスクを考える」においても,その点が最も強調されていました。

では,この区分所有法第3条は解釈の余地がない一義的な規定であると言えるのでしょうか。もう一度条文を挙げておきます。

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。(以下略)

いかがでしょう。
これを文言のみに基づき一義的に理解しようとすれば,(どこにも「風紀」「景観」「防犯・防災」「周辺環境」と書いてありませんので)同条の対象は物理的意味におけるマンションの建物・敷地・附属施設のみであり,周辺環境はもちろん,防犯・防災といったソフト面は対象外,と考えるのが自然であると思います。

しかし,福井先生はそのようなお考えではなさそうです。
福井先生は都市住宅学93号において,改正標準管理規約にて管理組合の業務として新たに示された第32条12号の「マンション及び周辺の風紀,秩序及び安全の維持,防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」を挙げ,これについて「マンション敷地の外であっても周辺の範囲内であれば,防犯,防災,美化などの活動で,その経費を上回るマンションの資産価値の向上がもたらされる限りにおいて,管理の概念に合致するという趣旨である。」と指摘しておられます。

また,改正標準管理規約のコメントには「いわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち,例えば,マンションやその周辺における美化や清掃、景観形成、防災・防犯活動、生活ルールの調整等で、その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動は、それが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である『建物並びにその敷地及び附属施設の管理』の範囲内で行われる限りにおいて可能である。」との言及があります。

このように,改正標準管理規約も福井先生も,区分所有法第3条を,マンションそのものの物理的な管理という意味に限定して捉えているわけではなく,文言から意義を拡張して捉えているのです。つまり,上記第3条が「幅」のある「解釈」が介在し得る条文であることを前提としているといえます。

8 各見解の位置づけ

とすると,この「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の解釈は,

・条文を文字通り捉える「物理的管理限定説(最狭義説)」
・改正標準管理規約コメントや福井先生のご見解と思われる,周辺環境等に関わる活動は許容し得るが懇親目的の夏祭りは認め難いとする「限定的拡張説(狭義説)」
・より広く捉えて夏祭りを認める「夏祭り許容説(広義説)」

に分けることができそうです(※いずれも私が勝手に分類し名づけています。なお,厳密には,福井先生と国交省とのご見解が完全に一致するのかは別問題です。この点は後述しますが,私は国交省の方が許容範囲をより広く捉えているように感じています。)。

これらはあくまで「解釈の余地という幅」の中の立場の違いであって,あとは「どの解釈が妥当か」という問題となります。

・・・次回(5月14日頃の予定)は,この問題に関しこれまでどのように判断してきたかを整理することによって,裁判所が上記見解のうちどれに近い立場をとっているのかを探ってみます。

 

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)

に続く連載2回目(見出しは通し番号)です。

2 標準管理規約改正の意味と本件との関係
ブログ第1回記事でも簡単にご説明したとおり,(改正)標準管理規約とは国交省が設置した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(本連載(1)で定義した「現検討会」)が作成した「管理規約のモデル」であり,それ自体に法的拘束力はありません。

また,数年ごとに改正されることからも分かるように,普遍的なものでもありません(改正『前』標準管理規約は,本連載(1)で定義した「前検討会」が作成しました。)。

即ち,夏祭りのような管理組合活動が「今般の標準管理規約改正によりできるようになったor禁じられた」という法的な関係はありません。
少々乱暴にいえば,改正標準管理規約は「管理組合は夏祭りを(法的に)行うことができるか,(政策的に)行うべきか」に係る現検討会の見解の表れであるといえます。

3 コミュニティ条項削除への疑問
そして,ブログ第1回記事で述べたとおり,今回の改正標準管理規約(コミュニティ条項の削除・コメント)や裁判例を検討した結果,私は「(常識的に求められる要件を充たせば)夏祭りは実施可能」,即ち「管理組合はこの問題について,改正『前』からスタンスを大きく変える必要はない」と考えています。

そのため,私は今回の改正において現検討会がわざわざコミュニティ条項を削除したことについて今一つ納得できておりません。ブログ第1回記事で述べたように「コミュニティ活動ができなくなった」という誤解を生みかねないためです。

そこで,今回コミュニティ条項を削除した現検討会の「見解」がどのようなものであり,我々や管理組合の皆様はその見解をどう捉えればよいのか,を改めて考えてみます。
そして,私は法律実務家である以上,「法的にor政策的に」のうち,主に法的な部分を取り上げることにします。

4 区分所有法第3条と問題の所在
ブログ第1回記事でもご案内したように,本件は標準管理規約自体の問題ではなく,区分所有法の解釈,即ち「区分所有法は,コミュニティ活動(夏祭り)を禁じているのか」という問題です。つまり,

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。(以下略)

という同法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」に夏祭りが含まれ得るのか,が問題の所在となります。

5 現検討会座長福井先生のご見解(前半)
詳しくは本連載(1)でご紹介した都市住宅学93号「マンション管理のガバナンス-利益相反とコミュニティ活動のリスクを考える」にて整理していただいているところ,僭越ながら私なりにご趣旨を一言でまとめると,現検討会座長の福井先生は,管理組合が行い得る活動の範囲につき「区分所有法第3条の文言に忠実に捉えるべき」とお考えのようです。

そして,そのうち夏祭りに関しては「夏祭りの類はそれ自体が管理又はその附随・附帯事項に該当するとは言い難い以上,管理組合費を支出することは違法となる。」(同書6頁)等とご指摘のように,管理組合は法的に行い得ないというご見解であると窺えます。

確かに,区分所有法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」という文言のみに注目し,そこに夏祭りが含まれるかを考えると・・・含まれなさそうにも思えます。

では,この「文言に忠実に」は,あらゆる法的解釈に通用する考え方なのでしょうか。もしそうであれば,この福井先生のお考えに基づきコミュニティ条項が削除されたことに納得できそうです。逆に,「文言の意味を柔軟に・拡張して」捉えることも許されるのであれば,そこに夏祭りが含まれる余地も生まれそうです。

・・・次回(5月13日頃の予定)は,法律の解釈について簡単にご案内し,それに基づき福井先生のご見解について更に検討を進めてみます。