第三者管理移行前に考えてほしい10のこと 特別編 -ガイドラインと弁護士の起用-

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この2回に亘って「多くの管理組合においては、いわゆる第三者管理を採用するよりも、外部専門家を顧問等のアドバイザーとして起用し、委託先管理会社による業務の適正化を図った方が安全かつ合理的」ということを述べました。

1.外部専門家の活用ガイドライン
そんな中、先日、国交省が「外部専門家の活用ガイドライン」を公表しました。

www.mlit.go.jpこれによると、ガイドラインが主な対象として想定するのは「管理組合の担い手不足の課題に直面し、又は懸念している」「管理不全マンションになることも懸念される」「日常的に区分所有者や管理会社との連絡調整等の業務がある理事長の担い手確保に苦慮、修繕積立金の値上げ・滞納回収が必要といった課題を抱えるようなマンション」とのことです。
そしてガイドラインは、第三者管理(の一部のパターン)を実現するまでのプロセスや注意事項などを詳細に説明しており、資料としては確かに充実しています。
・・・ただ、これに目を通した方、「めんどくさそう」と思いませんでしたか?
ガイドラインで示されている注意事項に目を配りながらこのプロセスをこなしていける人物が管理組合にいるのなら、その方は全日本上位数%に間違いなくランクされる理事長能力を備えているはずですから、前2回で述べたとおり、その方が理事長を務め
必要に応じて外部専門家の助力を得つつ管理会社をコントロールしていくのが合理的で経済的であると、私は考えるわけです(逆にいえば、ガイドラインが想定する「担い手不足」のマンションに、こうしたプロセスをこなせる方がいるのかが心配です。)。
ガイドラインも、そのプロセスにおいて「顧問やアドバイザーとして外部専門家の支援を受けること」を提案しているのですが、よほど特別な事情がなければ、私は「その形」で良いと思っています。

2.弁護士と第三者管理
さて、後編の最後で予告した「弁護士が管理者を務めること」について考えてみます。私は消極的であり、その理由は既に前編・後編で述べたとおりですが、改めて。
(1)業務内容
弁護士は法律の専門家であるものの、建物の維持管理の専門家ではありません。もちろんマンションの事情にもよりますが、短期的(日常的)にも長期的にも要求されるのはむしろ後者の能力であって、これに比べると法律の専門知識を要する場面は一時的なものが多いと思われます。
なお、最近は(私を含め)マンション管理士資格を有する弁護士が増えてきました。ただ、同資格試験合格程度の知識のみを以て第三者管理における外部専門家として期待される水準の業務をこなせるかというと、私は安易に賛成できません。同試験で問われる知識は「専門家として管理組合・区分所有者に助言するのに最低限必要な知識」であるとはいえるものの、「第三者管理を担うのに十分な知識」には足りないと思いますし、何より同資格は「経験」を担保していないからです。
(2)継続性
弁護士の多くは個人事業者ですから、身体的(病気等)・経済的(経営不振)・法律的(懲戒等)な事情により業務を継続できなくなった場合には、それを他の者が引き継ぐ体制は通常整っておりません。他の弁護士が「一時的につなぐ」ことや後任を務めることは不可能ではありませんが、業務に個性が強く表れる弁護士の特質上円滑に引き継がれるとは限りませんし、管理組合との信頼関係も一から構築し直さなければなりません。
(3)事業規模
上記(2)継続性とも関連しますが、個人事業者である弁護士が管理業務上何らかの「事故」を起こした場合、その賠償原資が潤沢であるとは限りません(もちろん弁護士保険で賄える場合が多いとはいえます。)。
(4)コスト
ガイドラインも「外部専門家には、区分所有者である役員よりも高度な善管注意義務が課されると考えられる」と指摘しているように、当たり前のことながら弁護士は細心の注意を払って業務にあたり、また管理業務に必要な知識をアップデートしていかなければなりません。
また、上記(1)~(3)の要件を充たすために弁護士(やその組織)は相応の負担を強いられます。
当然、これらのコストは弁護士に第三者管理を任せる場合に支払う費用に反映されることになります。
(5)弁護士が行う他の業務との違い
私が最も強調したいのはこの点です。
確かに、多くの弁護士は後見人、相続財産管理、破産管財といった「財産管理業務」を日常的に取り扱っており、これを理由とした「弁護士には第三者管理の適性がある」という意見もあるようです。
しかし、これら「財産管理業務」とマンション管理には根本的な違いがあります。
財産管理業務は(会社更生等は別として)基本的に「現状維持」「管理資産・対象者は固定」「収束・清算」を目的とするのに対し、マンション管理は全く逆に「修理・改良」「管理対象建物の状況は日々変化・区分所有者は流動的」「数十年単位の継続・発展」を目的とするということです。
もちろん、一定の能力は両者に共通して必要とされますから、弁護士が財産管理業務を通じて培った能力がマンション管理において役立つ場面は少なくありません。
しかし「弁護士であれば財産管理業務に慣れているから、マンション管理も十分に扱える」ということは決してありません。マンション管理はそれほど単純なものではないのです。

同業の先生方から叱られてしまうかも知れませんが、以上が私の率直な考えです。
今回までの3回に亘る記事が、第三者管理採用をお考えの皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。

・・・次回辺りではそろそろ民泊新法について書かなければなりませんね。

第三者管理移行前に考えてほしい10のこと 後編

前回(AKBに学ぶマンション管理組合運営 -私のことは嫌いでも(以下略- - 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ)の最後にお約束しましたので、硬派なブログに戻ります。第三者管理について考えた前編の続きです。

2.外部専門家(業者)側の事情
前編の「1.管理組合側の事情」の「(2)外部専門家の選定が大変」や「(3)三者管理を担える外部専門家が少ない」と一部重複しますが改めて。

(1)広範な分野に対応できる外部専門家
マンションでは日々どのようなことが起こり、管理者(≒理事長&役員)はどのような場面で対応・判断を迫られるでしょうか。
日常的な管理・清掃、植栽、ゲストルーム等共用施設の管理、設備不良・故障、備品の購入、工事の発注、修繕・耐震・建替え計画の策定、管理人との遣り取り、管理費滞納等の問題のある区分所有者、住民間トラブル、会計・税務処理、専有部分内工事の申請・承認、専有部分売却時の仲介業者調査、対管理会社契約交渉、理事会・総会運営、隣地との境界確認、隣地住民とのトラブル、町内会等との関係構築、規約・細則変更、法人化とその登記・・・まだまだありますね。

これらに万遍なく「専門家レベルで」対応できる外部専門家を見つけるのは容易ではありません。

(2)継続性
マンション管理は数十年単位の仕事ですから、日々ノウハウや情報を蓄積していく必要があります。「外部専門家(管理会社も含みます)を雇う」とは、彼らが蓄積させてきたノウハウや情報を買うことでもあります。
ところが、あるマンション固有のノウハウや情報を外部専門家に集中させていた場合、その外部専門家が個人であったり小規模組織であったりすると、万一の場合にそれまでの積み重ねが失われてしまい易くなります。
また、外部専門家を替えた際に、こうした物件固有のノウハウや情報が(競合他社である)後任者にスムーズに引き継がれるとは限りません。

(3)コストと責任
こうした様々な問題への処理に要する日常的・突発的・継続的な作業は決して少なくありませんし、これらを第三者管理として引き受ける外部専門家も、高レベルな責任を負うことを前提に取り組まなければなりません。
そのため、(上記のように希少な)外部専門家にそれを委ねるとすれば、相応のコストを覚悟しなければなりません。

(4)財務的基盤
この「責任」とも関連しますが、外部専門家がミスや犯罪を犯した場合には最終的に金銭的賠償を求めることになります。
しかし、外部専門家が個人や小規模組織の場合、その賠償資金が乏しく被害回復を図れない虞があります(もちろん保険によりカバーがされる場合も多いでしょうけれど)。

(5)マンション管理会社
(コストについてはともかく)こうした条件をクリアし易い存在がマンション管理会社です。そのため「管理会社を外部専門家として起用するタイプの第三者管理」も考えられます。
ただ、それなら「役員は区分所有者が担い、管理の実質的大部分を管理会社に外注」という一般的なスタイルをとりつつ、管理会社の業務を監視監督すれば足りるのではないでしょうか(後述します。)。

3.管理意識
多くの方にとってマンションはとても大きな資産であり、大切な住まいであるはずです。
ところが、上記のような「役員は区分所有者が担い、管理の実質的大部分を管理会社に外注」という一般的スタイルをとっていても、「自分たちの資産を自分達で管理している」という意識はなかなか醸成されません。それなのに、この「役員は区分所有者」という要素まで欠けてしまったら管理意識はますます低下してしまい、第三者管理方式において不可欠である「外部専門家に対する監視・監督」も実効性を失うことになるでしょう。
輪番でも抽選でも長期政権であっても、とにかく「区分所有者が自ら管理を担っている」という意識の存在は、形には見えずとも少なからず管理状況に影響を及ぼしていると思います(もちろん、上記いずれの態様も過剰な場合は弊害もありますが。)。

4.私の考え
「第三者管理を採用しよう!」と考えている方へ。
2回に亘ってご紹介したように、それを実行すること、その後健全な管理を維持すること、その後方向転換することのいずれも、決して平坦な道ではありません。
もし、貴方が「それでもやる!」という決意をお持ちなのであれば、まずは貴方が理事長として、(上記のとおり外部専門家としての利点を広く備えているはずの)委託先管理会社と向き合い、その業務に問題があれば改善するよう求めるのが最も効率的で合理的だと思います。
その交渉に不安があり、また管理会社の業務の適否の判断がつかないのであれば(それが普通です。)、まずは外部専門家に「相談」し、一定期間管理を「手伝って」もらい、管理会社の業務の良し悪しを「見極め」てもらいましょう。
今は自主管理という方も同様です。こうした「相談」と「助力」を得ながら、管理会社を選択したり第三者管理採用の適否を見極めてもらったりするのです。
そのような関わり方であれば、外部専門家に支払うべき費用も(第三者管理の場合に比して)然程高額にはならないはずですし、その専門家との相性が悪くても、他に替わってもらえば良いだけです(「一旦始めた第三者管理を止める」よりもずっと簡単です。前編の「1(5)後戻りが困難」参照)。
しばらくそのように専門家の助力を得ながら管理会社を上手く使って管理に取り組み、その上で「やはり第三者管理が望ましい」という結論が変わらなければ、それから実行に移しても遅くはありません。
他の役員のなり手がいないのであれば、その定数を減らしてしまっても構いません(これも第三者管理採用よりずっと簡単にできることです。)。後で「役員に加わりたい」という仲間が現れた際に改めて増やせばよいのです。

「第三者管理を採用しよう!」と決断したということは、貴方はマンションの将来を真剣に考え、対策を模索し、第三者管理という方法に辿り着いた人であるということです。その上で「やれる」自信がある貴方であれば、きっと良い理事長になれると思います。

5.弁護士による第三者管理については番外編で
さて、弁護士の私が書いたこの記事をお読みになり「弁護士に管理者を任せてもダメなのか」という疑問を持つ方もおられるでしょう。
私は「お勧めしないし、当面私も引き受けない」とお答えします。
その理由は番外編として別の機会にご説明しようと思っています。

特別編はこちら↓

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