高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(3)_横浜地裁事例との比較から核心が見え…る?

3月5日に予定されている高圧一括受電方式に係る最高裁判決の予習を続けます(これまでの2回は以下のとおり。)。

前回記事でご紹介した横浜地裁判決は、高圧一括受電方式導入の総会決議に違反した区分所有者に対する59条競売を認容したものです。
本件も、これに準じて同じく認容される(一審・二審判断が維持される)であろう、と予想してしまって良いでしょうか。
本件と横浜地裁事例との違いを探してみます。

1.請求の内容
既に触れたとおり、横浜地裁事例は「59条競売」を求めるものであるのに対し、本件は損害賠償請求です。
もちろん単純に比較できるものではありませんが、一般的には前者の方が後者よりもハードルが高いと言えます。

2.当事者
請求内容の上記の違いから、当然当事者も変わってきます。
被告は、いずれも「高圧一括受電方式導入に反対しその手続を拒んだ区分所有者」であるのに対し、原告は、横浜地裁事例では管理組合であり、本件では区分所有者の一人です。

3.代理人弁護士
本件では、原告被告双方に代理人弁護士がついています。
ところが、横浜地裁事例の被告(つまり敗訴した区分所有者)には、代理人が就いていなかったようです。

4.争点
(1) 本件
予習(1)の記事でもご紹介したとおり、概ね以下のとおりです(言い訳がましく何度も書きますが、本件原審の資料が手元に無いため、マンション管理新聞の記事を手掛かりにしています。)。
不法行為・利益の侵害といえるか、高圧一括受電方式採用決議に際し区分所有法所定の「承諾」を要するか(定期点検時の停電が「特別の影響」といえるか)、同マンションの規約において団地総会だけでなく各棟の総会決議も要するか。
また、最高裁が原告に対し「総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠を説明するよう求めた。」という経緯があります。

(2) 横浜地裁事例
こちらは前回記事(予習(2))でご紹介したとおり、概ね以下のとおりです。
被告の文書提出拒否が区分所有者の共同の利益に反するものであり、それによる共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか(59条競売が認められるかの判断基準です。)。

これら1~4まで比べてみていかがでしょう。「似ているんだか似ていないんだか分からん」といったところではないでしょうか。これだけでは決定的な違いは見出しにくいはずです。

・・・「4.争点」のまとめ方が悪いせいかも知れません。しつこいようですが原審の資料が(以下略)。

実は、上記「4.争点」に係る両当事者(特に被告)の主張と裁判所の判断をより詳しく見ていくと、両者の違いが鮮明になってきます。

まず、横浜地裁事例の争点は、要するに「被告による協力拒否が如何にヤバい行為であり、如何にその態度が管理組合や他の区分所有者に迷惑をかけたか」という問題です。前回記事(予習(2))中の「3.裁判所の認定・判断」の部分をみると「如何にヤバいか」が羅列されており、これらはいずれも「行為・結果(影響)」という事実関係の認定であるといえます。

これに対し本件はいかがでしょう。
(もちろんこうした事実関係も争われていますが)予習(1)の記事「4.一審」~「7.最高裁による求釈明」を読み返してみてください。これらの多くが「法律的な問題」であることが何となく分かると思います。
つまり、本件では「何があったか」だけでなく、「そもそも法律的な責任が発生しているか(責任が発生するための法律的要件が充たされているか)」が争われているのです(「最高裁が上告を受理してるのだから当たり前だろ」という「詳しい人」からの突っ込みは無視します。)。

わざわざ最高裁が補充を求めるわけですから当然ですが、これらのうち特に重要であり、おそらく本件の帰趨を決する争点であると思われるのが「7.最高裁による求釈明」のとおり「総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠」です。

この「争点の違い」が両事例の決定的違いであり、そこから私は「横浜地裁事例は本件判決を予想するのに役立たない」と考えています。
つまり「『高圧一括受電導入決議違反』というテーマで共通する横浜地裁事例において一般的にはハードルが高い59条競売が認められたとはいえ、本件が同じ結論をとるとは限らない」、よりはっきり言えば「本件最高裁は、(原告の請求を認めた)一審・二審の判断を覆しそうだな」というのが私の予想です(「最高裁が弁論を開いたからそう予想するのだろ」という「詳しい人」からの突っ込みも無視します。)。

では、この「総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠」とはどういう意味なのでしょうか。
次回、予習の最終回で、この点を検討してみようと思います。

もう3月1日か…今週末は引越しの準備もあるのに5日の判決当日に間に合うのかな…。

最終回はこちら↓

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高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(2)_横浜地裁平成22年11月29日判決

前回の記事でご紹介したとおり、管理組合の総会における高圧一括受電方式導入決議に従わず従来の電力供給契約の解約手続を行わなかった者に対し、一部の区分所有者が損害賠償請求訴訟を提起した、という事例に係る最高裁判決が3月5日に予定されています。

momoo-law.hatenadiary.jp実は、この件のように「高圧一括受電方式導入決議に抵抗した者が訴えられたケース」は過去にもありました。しかもそれは単なる損害賠償請求ではなく、区分所有法第59条が定める競売請求(59条競売)が認容されているケースです(横浜地裁平成22年11月29日判決。なお、ここでは59条競売の説明は割愛します。私のこちらのブログをご参照ください…とできればよかったのですが、まだ関連記事を書いていないのでググってください。簡単に言うと、その所有している専有部分を強制的に競売にかけ、管理組合・区分所有建物から排除するという、管理組合の区分所有者に対する制裁措置のうち最も強力な手段です。それ故、これが認められるまでのハードルもかなり高いわけです。)。
このように書くと、「59条競売が認められたのであれば、損害賠償請求訴訟である本件は当然に認められるのではないか」と思われるかも知れません。

そこで、3月5日の最高裁判決を占う(?)べく、この横浜地裁判決についてざっくりと分析してみます。

1.経緯
平成21年5月 管理組合は、特別決議を以て高圧一括受電方式採用を決定
しかし被告は、同方式採用に必要な運営業者への文書の提出を拒否した。
そのため、管理組合は同方式に係る契約を締結できず、それに基づく工事を行うこともできなくなった。
平成21年10月 管理組合は臨時総会を開催し、暫定的に既存ケーブルを使って従来どおり東京電力から電気供給を受けつつ、高圧一括受電方式導入に備えて配線工事を完成させる旨を決議し、同工事は11月に完了した。
この臨時総会において、管理組合は59条競売及び被告に対する損害賠償を求める裁判を提起する旨の決議をした。
なお、同条に基づく弁明の機会が与えられる旨の通知を受けていたが、被告は上記臨時総会を欠席した。 

2.主な争点(便宜上59条競売に関する点に絞ります。)
被告の文書提出拒否が区分所有者の共同の利益に反するものであり、それによる共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか(59条競売が認められるかの判断基準です。)。

3.裁判所の認定・判断
(1) 管理組合は事前説明会や広報などの事前手続を周到に行っている。
(2) (被告は、高圧一括受電方式採用により「特別の影響」が生ずるため「承諾」を要すると主張するが)各住戸に等しく生ずる影響であるから、承諾は不要である。
(3) 同方式の採用は、各住戸の電気容量の選択肢を広げ利便性を高めるとともに、電気料金の低減も図るものであり合理性がある。
(4) 被告一人だけが文書提出を拒んでおり、それにより工事が行えない。
(5) 被告は、文書提出を拒む理由として「単相三線式電源に切り替える必要性がないこと」「業者を信用できないこと」「電源等に問題が生じた場合の東京電力への復帰がほぼ不可能であること」を挙げるが、その内容は極めて主観的な危惧感の域を出ておらず客観的な裏付けを伴うものとはいえない。
(6) しかも、被告は事前説明会や定期総会などの自己の見解を述べる機会があったにもかかわらずこれらには出席せず、本件訴訟提起後に行われた被告を対象とする説明会においても質疑応答をするにとどまっている。
(7) 本件訴訟の過程においても裁判官の説得に耳を貸さず、競売されるかもしれないとの警告を受けても自己の見解を変えようとしない。
(8) 被告の態度には建設的な議論を通じて問題解決に取り組む、という姿勢は見られず、専ら自己の見解に固執し、他の住民と協力して住環境の保全と向上を図ることには目を向けないという姿勢が顕著である。
(9) その上、被告は、以前から他の住民と協調して住環境の保全を図ることを拒否することがしばしばあった。
(10) とりわけ、雑排水管改修及び浴室防水工事を拒否した際には裁判にまで発展し、被告はその和解において「・・・管理規約、総会決議その他の関係法規を遵守し、相互に協力することを約する。」旨の約束をしたにもかかわらず、その後もこの約束に反した対応をとり続けている。
(11) 以上から、上記「2.主な争点」は全て認められる。

いかがでしょうか。
前回記事でご紹介した事例とよく似ていますね。
ということは、最高裁もこの横浜地裁と同様に、一審・二審の判断を維持して原告の請求を認めるのでしょうか。

次回は、この2件の違いを検討しつつ最高裁判決を予想(?)してみようと思います。
3月5日に間に合うかな…。

次回記事はこちら↓

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高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(1)

最近発行されたマンション管理新聞第1096号にこんな記事が載っていました。
「3月5日に判決 最高裁第三小法廷 「解約義務」の有無争点 2/5弁論」「高圧一括受電導入決議も反対者が契約解約を拒否」
同新聞第1086号及び1094号にもこの件の詳細が掲載されています。

以下のようにtwitterでも簡単に紹介しましたが、同紙によると経緯は概ね次のとおりです(なお、高圧一括受電方式の内容や電力供給契約の自由化については、本ブログでは割愛します。また、恥ずかしながら原審判決を入手できていないため(判例秘書にもウエストローにも非登載…どなたかご提供いただけると嬉しいです。)、正確性をお約束できない点はご容赦を。)。

1.訴訟提起までの経緯
札幌市 総戸数500超の団地型マンション
2011年頃から高圧一括受電方式導入を検討
2014年8月、特別決議を以て導入を可決
2015年1月、電力供給契約に係るルールを定めた細則制定や規約の変更に係る決議
同決議に基づき、管理組合は各区分所有者に対し、従来の電力会社との電気供給契約を解約し高圧一括受電方式採用を申請する旨の書面提出を求めた。
ところが、上記決議に反対した区分所有者のうち2名(被告)が書面提出を拒否(他の者は提出)
高圧一括受電方式採用に際しては全区分所有者の書面提出が必要であったことから、予定していた時期の同方式採用が不可能となった。
2016年5月、同方式導入に尽力してきた専門委員会委員の区分所有者(原告)が札幌地裁に対し損害賠償を求めて提訴。

2.請求
高圧一括受電方式を採用していれば享受できたはずの安価に電力供給を受ける利益が侵害されたことを理由に、同方式と継続された従来方式との差額分につき、導入予定日から訴訟提起前までの5か月分9,165円の支払い等を求めた。

3.主な争点
不法行為・利益の侵害といえるか、高圧一括受電方式採用決議に際し区分所有法所定の「承諾」を要するか(定期点検時の停電が「特別の影響」といえるか)、同マンションの規約において団地総会だけでなく各棟の総会決議も要するか。

4.一審(札幌地裁平成29年5月24日)判決
請求認容
共用部分の変更および管理に関して集会(総会)決議で定めた以上、反対者も決議に従うのが区分所有建物の当然の理である。
停電については「単なる不安感」であり、また被告らのみに生ずる事態でもないから特別の影響とはいえず承諾は不要である。
規約上、高圧一括受電方式採用に伴いブレーカーやメーターは団地管理組合が所有することになっているため、採用については団地総会決議で足り各棟の総会決議は不要である。

5.二審(控訴審 札幌高裁平成29年11月)判決
一審判決を維持
被告らは、区分所有者等の共同の利益たる低廉な電気料金の享受を妨げた。
被告らの契約の自由は、共同の利益実現のための制約を免れない。

6.被告らによる上告受理申立
導入決議に従わないことは法律上保護される利益の侵害にあたらない。専有部分の電力についていずれの電力会社と契約をするかは区分所有者に委ねられている。
従来の電力供給契約を解約しないことは共同の利益を侵害する行為にあたらない。
共同の利益に反する行為について、(原告のように)個々の区分所有者が権利行使することはできない。
総会決議の効力の解釈に誤りがある。従来の契約の解約は総会決議事項ではない。マンションにおける本質的な権利である電力供給先を選択する権利を侵害することは許容されていない。

7.最高裁による求釈明
最高裁は、原告に対し、総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠を説明するよう求めた。
原告は、同法第30条1項*1及び第6条1項*2を指摘しつつ、総会決議・細則は、電力供給という区分所有者全体に影響を及ぼす管理ないし使用に関する事項である、と主張した。

8.弁論と判決予定日
これらを踏まえて2019年2月5日に最高裁で弁論が開かれ、判決は3月5日と予定された。

経過は以上のとおりです(しつこいようですが原審判決を入手できれば整理し直します。)。
次回以降、本件同様高圧一括受電採用拒否が問題となった裁判例横浜地裁平成22年11月29日)のご紹介と併せて、本件について更に検討してみます。

続きはこちら↓

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*1:建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

*2:区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。