民泊新法と管理組合 -規約変更の要否-

今更ながら、今年6月に住宅宿泊事業法(といちいち書くのは面倒なので「民泊新法」といいます。)が成立しました。施行は(早ければ)平成30年1月と予定されています。
立場上何かブログに書かなきゃなぁ・・・と思いながら何か月も経ってしまい、その間に多くの専門家が同法の内容を解説しているようなので、私はもういいか、と心が折れそうになった日もありました。

が、管理組合の方々からこんな声が聞こえてきました。
「民泊新法について勉強しようにも、複雑で難しい。」
なるほど、確かに日頃法律に触れる機会のない方が「届出」「住宅とは」「人を宿泊させる事業とは」「住宅宿泊事業」「管理業者」「委託義務」「仲介業務」「標識」「旅館業法」「建築基準法」・・・という用語や法律や考え方をきちんと理解するのは容易ではありません。

しかし、管理組合の方が民泊新法を学ぶ動機の殆どは「民泊を阻止したいから」でしょう。
そうであれば、複雑な解説は不要です。
管理組合がやるべきこと(やれること)は限られていますし、シンプルです。
「複雑で難しい」とお困りの皆様の誤解を解かなければ。
・・・なんということでしょう。昨年既に殆どのことをこのブログで書いているではありませんか。

momoo-law.hatenadiary.jp

とはいえ、「こちらを読んでください。終わり。」ではせっかくこのブログにアクセスしてくれた方から打診棒で叩かれかねません。
そこで、この昨年の記事(旧記事)と重複することもありますが、改めて「管理組合が民泊を阻止する」にあたって何をすべきなのかを、できるだけ分かり易くするために(そして私の手間を省くためにも)対象を絞って整理してみようと思います。

1.民泊新法の内容
同法は「民泊をするにはどうしなければならないか」を定めた法律ですから、極論すれば「民泊をさせたくない管理組合」の皆様が苦労して詳しく勉強する必要はありません。
もちろん、民泊事業者に対して「民泊新法に違反しているではないか」と指摘する場面においては有用な知識となりますが、そのような対処時には専門家に相談することもできますから、その勉強は本ブログでご提案する程度のことを済ませてからでも間に合います。

2.規約等による民泊の禁止
上記旧記事でも触れたとおり、この点を誤解されている方は少なくありません。
民泊新法によって「これまで旅館業法等に抵触していた(つまり違法であった)民泊が(一定の制約の下で)合法的にできるようになった」に過ぎないのであって、「管理組合が民泊を甘受しなければならない」わけではないのです。

例えば「ペットを飼うこと」「ベランダの柵に布団をかけて干すこと」は、いずれもそれ自体合法であり、戸建て住宅で行うには何の問題もない行為ですが、多くのマンションでは規約等(あえて「等」をつけています。理由は改めて。)によって禁じられています。
民泊新法によって、民泊がようやくペット飼育や布団干しと同じラインに立ったというだけなのです。

なお、先日こんなニュースがありました。
「民泊、マンション規約で禁止なら認めず 国交省

www.asahi.comこのニュースからも、上記のとおり「規約で民泊を禁じ得る」ことが分かります。
そして、ここでいう「仕組み」は、民泊新法や同法に基づく諸法令といった「民泊事業者と行政」との間に適用されるものを指すと思われます(例えば「民泊事業の届出時にそのマンションの規約を提出させ、禁止されていれば認めない。」といった仕組みが考えられます。)。
そのような「仕組み」が実効的に機能することが望まれますが、規約にはこれとは別次元の「管理組合内のルール」という本来的な役割がありますから、もし上記のような「仕組み」が作られなかったり実効性がなかったりした場合でも、この「ルール」を以て民泊を禁ずることができるのです。

3.規約等の変更
管理組合の規約等の状態によってパターン分けをします。
(1)規約等によって既に民泊禁止を定めている管理組合
そのような規約等を設定する際に十分検討を済ませたでしょうし、そこで禁じた民泊と民泊新法に基づく民泊に態様の大きな違いはないはずですから、基本的に慌てる必要はないと思います。
余裕があれば、次の定期総会などの機会を活用し、今後パブリックコメントを経て発表される予定の民泊新法対応標準管理規約改正案も参考に、更なる改良に取り組んでください(「住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない」という文言を加筆的に盛り込んでおくことをお勧めします。従前の文言と意義において重複するとは思いますが、政策的意味はあると考えます。)。
「新法民泊に伴うマンション標準管理規約の改正等について」国交省https://www.mlit.go.jp/common/001189187.pdf

(2)規約等に現行標準管理規約第12条と同趣旨の条項がある管理組合
(ここでは標準管理規約自体の説明は省きます。この記事が少し参考になると思います。)
標準管理規約に関する誤解と正解 - 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ
このような管理組合が一番多いのではと予想します。
標準管理規約第12条の
「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」
という条項(や、多少文言が異なっていても同趣旨の条項)が規約等の中にあるかどうかをご確認ください。
こうした条項があり、かつ、それ以外に専有部分の用途を制限した条項がない場合がこのパターンに分類されます。

詳しくは上記旧記事をご参照いただくとして、結論を。
速やかに、上記(1)の標準管理規約改正案や他のマンションにおける事例を参考にして、また必要に応じて専門家にご相談の上、民泊を禁ずるルールを設定するようお勧めします。
「上記標準管理規約第12条の文言を以て民泊が明確に禁じられている」と法的に評価されるか否かが未だ不透明であるからです。
つまり、このまま放置しておくと、最悪の場合裁判においてその争点でも戦わなければならないということです。規約等の変更により重要な争点を一つ(管理組合に有利な方向で)潰せるのならば潰しておくべきです。

(3)規約等に標準管理規約第12条のような規定も、民泊を禁ずると解釈し得る他の規定もない管理組合
その管理組合では、(民泊新法に則った)民泊が許容されている状態にあると考えるべきですから、(上記(2)の管理組合よりも危機感をもって)規約等を整備してください。

長くなってしまいましたので、今回はここまで。
次回は、もう少し具体的に、どこに(規約なのか細則なのか集会(総会)決議なのか。本記事で「規約『等』」とした理由と併せて)、そしてどのようなルールを定めるべきなのかについて考えてみます。

第三者管理移行前に考えてほしい10のこと 特別編 -ガイドラインと弁護士の起用-

momoo-law.hatenadiary.jp

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この2回に亘って「多くの管理組合においては、いわゆる第三者管理を採用するよりも、外部専門家を顧問等のアドバイザーとして起用し、委託先管理会社による業務の適正化を図った方が安全かつ合理的」ということを述べました。

1.外部専門家の活用ガイドライン
そんな中、先日、国交省が「外部専門家の活用ガイドライン」を公表しました。

www.mlit.go.jpこれによると、ガイドラインが主な対象として想定するのは「管理組合の担い手不足の課題に直面し、又は懸念している」「管理不全マンションになることも懸念される」「日常的に区分所有者や管理会社との連絡調整等の業務がある理事長の担い手確保に苦慮、修繕積立金の値上げ・滞納回収が必要といった課題を抱えるようなマンション」とのことです。
そしてガイドラインは、第三者管理(の一部のパターン)を実現するまでのプロセスや注意事項などを詳細に説明しており、資料としては確かに充実しています。
・・・ただ、これに目を通した方、「めんどくさそう」と思いませんでしたか?
ガイドラインで示されている注意事項に目を配りながらこのプロセスをこなしていける人物が管理組合にいるのなら、その方は全日本上位数%に間違いなくランクされる理事長能力を備えているはずですから、前2回で述べたとおり、その方が理事長を務め
必要に応じて外部専門家の助力を得つつ管理会社をコントロールしていくのが合理的で経済的であると、私は考えるわけです(逆にいえば、ガイドラインが想定する「担い手不足」のマンションに、こうしたプロセスをこなせる方がいるのかが心配です。)。
ガイドラインも、そのプロセスにおいて「顧問やアドバイザーとして外部専門家の支援を受けること」を提案しているのですが、よほど特別な事情がなければ、私は「その形」で良いと思っています。

2.弁護士と第三者管理
さて、後編の最後で予告した「弁護士が管理者を務めること」について考えてみます。私は消極的であり、その理由は既に前編・後編で述べたとおりですが、改めて。
(1)業務内容
弁護士は法律の専門家であるものの、建物の維持管理の専門家ではありません。もちろんマンションの事情にもよりますが、短期的(日常的)にも長期的にも要求されるのはむしろ後者の能力であって、これに比べると法律の専門知識を要する場面は一時的なものが多いと思われます。
なお、最近は(私を含め)マンション管理士資格を有する弁護士が増えてきました。ただ、同資格試験合格程度の知識のみを以て第三者管理における外部専門家として期待される水準の業務をこなせるかというと、私は安易に賛成できません。同試験で問われる知識は「専門家として管理組合・区分所有者に助言するのに最低限必要な知識」であるとはいえるものの、「第三者管理を担うのに十分な知識」には足りないと思いますし、何より同資格は「経験」を担保していないからです。
(2)継続性
弁護士の多くは個人事業者ですから、身体的(病気等)・経済的(経営不振)・法律的(懲戒等)な事情により業務を継続できなくなった場合には、それを他の者が引き継ぐ体制は通常整っておりません。他の弁護士が「一時的につなぐ」ことや後任を務めることは不可能ではありませんが、業務に個性が強く表れる弁護士の特質上円滑に引き継がれるとは限りませんし、管理組合との信頼関係も一から構築し直さなければなりません。
(3)事業規模
上記(2)継続性とも関連しますが、個人事業者である弁護士が管理業務上何らかの「事故」を起こした場合、その賠償原資が潤沢であるとは限りません(もちろん弁護士保険で賄える場合が多いとはいえます。)。
(4)コスト
ガイドラインも「外部専門家には、区分所有者である役員よりも高度な善管注意義務が課されると考えられる」と指摘しているように、当たり前のことながら弁護士は細心の注意を払って業務にあたり、また管理業務に必要な知識をアップデートしていかなければなりません。
また、上記(1)~(3)の要件を充たすために弁護士(やその組織)は相応の負担を強いられます。
当然、これらのコストは弁護士に第三者管理を任せる場合に支払う費用に反映されることになります。
(5)弁護士が行う他の業務との違い
私が最も強調したいのはこの点です。
確かに、多くの弁護士は後見人、相続財産管理、破産管財といった「財産管理業務」を日常的に取り扱っており、これを理由とした「弁護士には第三者管理の適性がある」という意見もあるようです。
しかし、これら「財産管理業務」とマンション管理には根本的な違いがあります。
財産管理業務は(会社更生等は別として)基本的に「現状維持」「管理資産・対象者は固定」「収束・清算」を目的とするのに対し、マンション管理は全く逆に「修理・改良」「管理対象建物の状況は日々変化・区分所有者は流動的」「数十年単位の継続・発展」を目的とするということです。
もちろん、一定の能力は両者に共通して必要とされますから、弁護士が財産管理業務を通じて培った能力がマンション管理において役立つ場面は少なくありません。
しかし「弁護士であれば財産管理業務に慣れているから、マンション管理も十分に扱える」ということは決してありません。マンション管理はそれほど単純なものではないのです。

同業の先生方から叱られてしまうかも知れませんが、以上が私の率直な考えです。
今回までの3回に亘る記事が、第三者管理採用をお考えの皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。

・・・次回辺りではそろそろ民泊新法について書かなければなりませんね。