理事会における理事長解任の可否 ‐標準管理規約を前提に‐

※平成29年12月18日追記
本記事に関しては平成29年12月18日最高裁判決に係る同日付のこの記事も併せてご参照ください。

momoo-law.hatenadiary.jp

 

先日の本ブログで触れたとおり、標準管理規約第35条は次のように定めています。

第35条 管理組合に次の役員を置く。
  一 理事長
  二 副理事長 ○名
  三 会計担当理事 ○名
  四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
  五 監事 ○名
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により【※理事のうちから、理事会で】選任する。
※今般の標準管理規約改正に伴い文言が若干修正されました。

つまり、同条によると、総会では「役員を誰にするか」だけを決めておき(第2項)、「誰がどのような役職に就くか」については理事が話し合って決める(第3項)ことになります(監事は直接総会で選任されますが(第2項)、その意味は別の機会に。)。

例えば、役員選任について上記規定を置くX管理組合(理事5名)においてA~Eが総会で理事に選ばれたとすると、このA~Eが話し合い「理事長はA、副理事長はB、会計担当理事はCとし、DとEは平理事」というように具体的な役職を決めるわけです。
(なお、この点に関連し、はるぶーさんが極めて実務的な問題を検討していますので、是非ご参照ください。)

www.e-mansion.co.jp

ところが、後日B~Eが「Aは理事長に相応しくない」と思うようになりました。B~Eとしては、比較的簡易な手続で済む理事会決議を以てAの理事長職を解きたいところです。
(なお、区分所有法第25条2項所定の裁判所に対する解任請求という方法もありますが「簡易な手法をとりたい」というB~Eの意向に反するのでここでは省略します。また、Aは頑固で自らは辞任しないと仮定します。)

この場合、理事会決議により
(1)Aを「役員から外す(Aは理事でもなくなる)」
(2)Aを「理事長職から外す(Aは平理事などになる)」
という2つの手法が考えられます。それぞれ許容されるでしょうか。

まず、手法(1)について。

上記のように標準管理規約第35条2項が「理事及び監事は、マンションに現に居住する組合員のうちから、総会で選任する。」と定めているとおり、「(具体的役職は別にして)役員を誰にするか」は総会で決めることになっていますから、それを理事会決議で覆してしまうことになる手法(1)は許容されません。
そのため「Aを平理事にもしたくない」ならば、総会決議を通じて役員から解任する必要があります。この点は、標準管理規約第48条13号が総会決議事項の一つとして「役員の選任及び『解任』並びに役員活動費の額及び支払方法」と定めていることも一つの根拠になります。

では、手法(2)は許容されるでしょうか。

管理規約に「理事会決議で理事長職を解くことができる」などと明記されていれば争いなく可能といえそうですが、上記のとおり標準管理規約の文言を採用している場合にはそのように明記されておりません。
標準管理規約において理事会の権限として根拠となり得るのは、冒頭でも紹介した同規約第35条3項の「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により【※理事のうちから、理事会で】選任する。」という規定のみとなります。

私は、以前からこれを「『誰を理事長に据えるか』を理事会判断に委ねている」規定であると理解し「理事会決議で(他の者の選任を伴って)理事長を解任することができる(即ち手法(2)は可能)」と考えており(株式会社の代表取締役を取締役会において解職する場合と同じような考え方です。)、実際そのようにアドバイスしたこともあります。

ただ、以前はそのことを直接解説・判断した文献・裁判例は見当たらず、逆に「理事会決議での解任を認めるには、その旨を規約に明記するのが望ましい」と解説されていた記事も見受けられました。
また、手法(2)を否定する論拠としての「上記第48条13号には『解任』とあるのに、第35条3項は『互選』『理事会で選任する』であって『解任』が含まれていない(つまり、総会では役員の選任も解任もできるが、理事会では選任しかできないのではないか)」という、条文文言に着目した指摘にも「なるほど」と思っていました。

そのため、ご相談に際しては「手法(2)は可能であると思います。」と私見としてアドバイスしつつ、こうした他説もあることもご紹介していました。

こうした中、RJC48にてこの問題が議論されたことをきっかけに『コンメンタールマンション区分所有法』(日本評論社)の第3版を調べてみたところ・・・
その150頁~151頁にかけて、同書第2版までにはなかった「理事・理事長の解任」という項目が新設されており、(上記手法(2)の場面について)役職の解任は、それらの選任に準ずるものと解され、理事長職の解任については理事会の決議で行うことができると解される、という上記私見と同趣旨の解説がなされていたのです。これは嬉しい。
(なお、同書の別巻である『コンメンタールマンション標準管理規約』の第35条の解説には「役員は総会で選任しているのであるから、解任も同様の方法で行うのが通常である」という指摘がありますが、これは上記手法(1)が許容されないことの説明であると思われます。)

もちろん、上記のとおり未だ確立した判例があるわけではありませんので、これも一つの見解に止まりますが、この分野ではおそらく最も詳しく定評のある文献による解説ですから、これまでよりは自信をもって「標準管理規約第35条に準拠した規約の下でも、手法(2)は可能と考えます。」とアドバイスできるようになったと思います。

ただ、このような解釈が論争になること自体が建設的ではありません。
そして、前回の本ブログでも書いたとおり(しつこいですが)標準管理規約はモデルに過ぎません。
そのため、やはり問題が顕在化する前に、皆様のマンションの管理規約にて「理事会決議を以て理事長職を解くことができる(又は逆に「解くことはできない」)」と分かり易く明確に定め、無用な争いが生じないようにしておくことをお勧めします。