弁護士とマンション管理士 住宅新報第3555号「ひと」補足

本日発売の住宅新報(平成30年2月27日、第3555号)の「ひと」欄で紹介していただきました。

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住宅新報さんのお許しをいただき転載しています。)
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人柄の良さが滲み出てしまっていることはともかく、後半で触れているマンション管理士と弁護士との違いについて、限られた紙面では少々説明不足となりそうなので補足しておきます。

1.マンション管理士の業務
(お仕事のスタイルは色々ですからあくまで一般論ですが)マンション管理士は管理組合からの依頼に基づき、助言等のサービスを提供します。
ただ、「管理組合」といっても、ご存知のとおり事実上その運営・意思決定を担っているのは理事会(理事長)であることから、その業務は基本的に理事会の意向に基づき行います。

その報酬のスタイルも様々であり、定額の顧問料制を以て打合せ・電話・メールによる相談対応や理事会・総会への同席等を継続的に行うケースもあれば、規約改正等の具体的な作業をスポットで受託してその手数料を得るケースもあるでしょう。

ここまでについては、私を含む管理組合業務を行う弁護士もあまり変わりありません。ただ、マンション管理士には弁護士とはちょっと違うところがあります。

2.対管理会社
まず、マンション管理士特有(というと大げさかも知れません)の業務として、管理会社との管理委託費引下げ交渉を担い(また究極的には管理会社を変更することによって)、達成された値下げ幅を基準に報酬が発生する、というものがあります。

管理委託費が占める支出の割合は大きく、不合理に高額な委託費が支払われているケースも皆無ではありませんから、こうした業務自体は管理組合にとって有用なものであるといえます。

ただ、「安かろう悪かろう」という言葉があるように、「管理委託費を安くすること」は「支出の削減」に直結するとしても、必ずしも「管理を良くすること」にはつながらず、その質が落ちてしまう可能性も低くなく、また、その報酬が「値下げ幅」によることとなれば、管理の質を度外視して値下げを図るマンション管理士が現れても不思議ではありません。
そこまでに至らずとも、管理組合(のために動くマンション管理士)と管理会社の対立関係が徒に激化することは日常の管理業務にも悪影響を与えてしまいます。
もちろん、ほとんどのマンション管理士は決してそのようなことを考えず最適なプランを考えてくれるはずですし、そもそもマンション管理士という資格は「管理会社の思うがままにされがちな管理組合を助ける」を主目的の1つとして創設された資格ですから、このような関係自体を過剰に恐れるべきではありません。
しかし、管理組合としては、こうした関係が構造上存在することは認識しつつ、マンション管理士に対しても最低限の監視監督を行う必要があります。

もっとも、こういった「管理会社との対立関係」は、管理組合の代理人や顧問を務める弁護士であってもしばしば生じ得るものですから「両資格の決定的な違い」とはいえません。

3.対(役員ではない多くの)組合員

管理組合と一言で言っても、その中身は多くの区分所有者(組合員)の集合体であるため、ある組合員(達)が理事会(理事長)と見解を異にし、両者が激しく対立するという場面が起こり得ます。
こうした場合に、理事会側に立ってこの「(言葉は悪いですが)反対派」に対応するのもマンション管理士や管理組合側弁護士の仕事です。

さて、次の点が私の考える「弁護士とマンション管理士との決定的な違い」です。

つまり、弁護士は「管理組合(理事会)側のみならず、区分所有者の顧問・代理人を務めることができる」ということです。
もちろん、弁護士であっても、A管理組合の顧問や代理人を務めながら、その組合員Bの代理人としてA管理組合と対峙することはできません(いわゆる利益相反の関係です。)。

しかし、Aとは異なるXという管理組合の組合員Yの代理人としてXと対峙した経験(即ち、組合員の側に立って管理組合とケンカをした過去の経験)は、同じ態様の組合員Bの代理人業務に役立つことはもちろん、A管理組合の代理人としての活動に大変役立つのです。要するに「ケンカの相手の視点で考えることに慣れている」というわけです。

話が前後しますが、同じことは対管理会社の局面でもいえます。管理会社の代理人等として活動したことがある弁護士であれば、その視点に立って事案を分析することで管理組合と管理会社との過剰な対立を回避することができるでしょう(直接そのような経験がなくとも、そのような視点で検討する能力は、弁護士の1つの強みと言えます。)。

4.弁護士とマンション管理士の使い分け
このように「弁護士に依頼する利点」があるとはいえ、「管理組合業務の外注」において常に弁護士の方がマンション管理士より優れているわけでは決してありません。

momoo-law.hatenadiary.jp

この記事でも触れたとおり、弁護士はあくまで法律や紛争解決の専門家に過ぎず、マンションの全て(建築・設備・防災・コミュニティ等々)の専門家ではないからです。逆に、優秀なマンション管理士は、法律や紛争解決に関しても肝心な点はきちんと把握しています(場合によっては、マンション管理に詳しくない弁護士よりも)。実際、私も対応したご相談に対し、よく「まずは弁護士ではなくマンション管理士の助力を得た方がいい」とアドバイスしています。また「日常的な相談はマンション管理士が、法的問題については私が」という役割分担をしている(双方が顧問を務めている)管理組合もあります。

管理組合の皆様は、まずどちらかにご相談の上、どちらに(又は両方に)任せるか、という点から助言を得ていただくことをお勧めします。