読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(5) -参考4事例の射程-

続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(1) -君がいた夏は,遠い夢の中-(「本連載(1)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(2) -区分所有法第3条とコミュニティ活動- (「本連載(2)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(3) -各見解の位置づけ- (「本連載(3)」)
続・標準管理規約の改正とコミュニティ条項の削除(4) -参考4事例と町内会・自治会- (「本連載(4)」)

に続く連載5回目(各項目の見出しは通し番号)です。

9-3 参考4事例の射程

前回は,管理組合が行い得る行為の範囲に関し(本連載では特に「夏祭り」について),区分所有法第3条の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の解釈に係る各見解の違いを(桃尾が勝手に)整理した上で,この問題について4つの裁判事例(参考4事例)が存在することをご紹介しました。

また,任意加入団体である町内会(自治会)と強制加入団体である管理組合との違いについても簡単にご案内しました。

これらを踏まえ,今回は,この参考4事例が何についてどのように述べているのか,そして他の事例とどのような関係にありそれらにどのような影響を及ぼし得るのかを考えていきます(こうした問題は「裁判例の射程の問題」と呼ばれます。)。

町内会と管理組合を巡る主な問題は,以下のように分けることができます。

A 町内会費と管理費
 ア 管理組合が町内会費を管理費と同様に「強制的に」徴収することができるか否か
 イ 管理組合が町内会からの委託を受けて町内会費を徴収することができるか否か
B 管理組合自身のコミュニティ活動の可否
 ア 管理組合自身が主催すること
 イ 町内会が主催するものへの協力・共催
 ウ 許容される範囲・態様

結論を先取りすると,これらは(Aのアとイ,Bのア~ウ相互間では関連し得るものの,AとBは)全く別の論点です。

参考4事例において裁判所が「管理組合が行い得る行為の範囲外」であると判断したのはAアのみであって,それ以外について裁判所はいずれも(一定の要件の下で)寛容なスタンスをとっています(繰り返しますが,詳しくは参考4事例をご参照ください。ここでは各事例の「違い」にはあえて触れていません。)。

このAアは,「強制加入団体であるか否か」という団体の法的性質の問題,即ち「管理組合が,(町内会を退会した)区分所有者から,管理費と同じように強制的に町内会費を徴収すること」が議論の対象です。
これについて裁判所は,「管理組合自身がコミュニティ活動を行えない」という理由ではなく「町内会費の強制徴収は,町内会が任意加入団体であることと整合しない(強制加入であるのと同じ結果をもたらす)」という理由で否定したのです。

言い換えると,これらは「『町内会費の徴収という具体的行為』が区分所有法第3条所定の管理組合の目的に含まれるか。」という問題に係る判断であり,「『コミュニティ活動』が同目的に含まれるか」という問題に係る判断ではない(「管理組合は町内会費の徴収ができるか」と「管理組合は夏祭りを行えるか」を区別している)のです。

なお,参考4事例とは別の東京高判平成21年3月10日も,「管理組合は自治会退会者から自治会費を徴収し得ない」と判断しています。そしてその理由を,あくまで自治会が「管理組合とは別個独立の任意の団体」であるからと指摘しており,管理組合によるコミュニティ活動の可否云々には言及していません。このことからも,両者が別問題であることが(少なくとも裁判所は別問題であると考えていることが)窺えます。

このように,参考4事例は「管理組合自身によるコミュニティ活動が法的に禁じられている」ことの論拠にはならないのです(裁判例としての射程外ということです。)。

9-4 参考4事例におけるコミュニティ活動の評価

以上を裏付けるように,参考4事例の「平成19年高判」と「平成24年高判」は,それぞれ以下のとおり,管理組合自身のコミュニティ活動について肯定的に判示しています。

平成19年高判
「分譲マンションにおいて,居住者間のコミュニティ形成は,実際上,良好な住環境の維持や,管理組合の業務の円滑な実施のためにも重要であるといえる」
「被控訴人管理組合が管理する建物,敷地等の対象範囲と被控訴人自治会の自治会活動が行われる地域の範囲が一致しているという点において特殊性のある管理組合と自治会の関係があれば,管理組合が自治会にコミュニティ形成業務を委託し,委託した業務に見合う業務委託費を支払うことは区分所有法にも反しないものと解される。」

平成24年高判
・原審(東京地裁平成23年12月27日)
「『管理』とは,区分所有者が団体的拘束に服すべきものとされる事項をすべて含む広い概念であると解される。そして,本件マンションなどの大規模な住宅施設においては,近隣の居住者とのコミュニティ形成は,日常的な紛争の未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するものであり,マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合として必要な業務であるといえる」
・平成24年高判
「地域住民で組織する任意団体である町内会と良好な関係を形成し,本件管理組合の構成員にとって地域との調和のとれた環境を作り出すための活動・・・が,本件マンションの環境整備の一環としてその管理に関する事項に含まれることはいうまでもない」

このように裁判所は,管理組合自身が行うコミュニティ活動の必要性・重要性を明確に認めているのです。
参考4事例以外の裁判例において,これらと異なる結論に至った事例は,私の知る限り存在しません(本連載(1)でご紹介した福井先生の都市住宅学93号に掲載されている事例も参考4事例です。)。

9-5 小括

以上から,「裁判所がどのように判断すると予想されるか」という実務家的観点(「本連載(4)」参照)において,私は,ブログ第1回記事で述べたとおり「改正標準管理規約によるコミュニティ条項の削除を理由に,それまでの態度を大きく変える必要はない。」,即ち,適正な要件・手続を経ていれば,管理組合による夏祭りが裁判所によって違法と評価されるとは考えにくい,と思っています。

そのため,現検討会(「本連載(1)」参照)が参考4事例を踏まえながらコミュニティ条項を削除したことには疑問を感じており,同削除により「管理組合はコミュニティ活動を行い得ない(と裁判所も考えている)のではないか」という誤解を生みかねないと懸念している次第です。

そして,この点に係る福井先生や現検討会による参考4事例の捉え方は傾聴すべきご見解であるとは思いますが,それは必ずしも実務家的観点によるものではなく,あくまで研究者的観点(「本連載(4)」参照)によるものであるように考えています。
これが,私が本連載(2)にて,

即ち,夏祭りのような管理組合活動が「今般の標準管理規約改正によりできるようになったor禁じられた」という法的な関係はありません。
少々乱暴にいえば,改正標準管理規約は「管理組合は夏祭りを(法的に)行うことができるか,(政策的に)行うべきか」に係る現検討会の見解の表れであるといえます。

と強調した理由の一つでもあります。

・・・次回(5月18日頃の予定)は,福井先生のご見解について更に考えてみます。