新型コロナと総会延期と共用施設使用制限と感染情報開示の可否と根拠と雪かきについて自宅で考えてみた

新型コロナ、ちょっとシャレにならない状況になってきました。
私は感染症に関しては全く詳しくありませんので、家に閉じ込められている間は、子らの相手とスプラトゥーンと仕事の隙間時間に粛々とマンション管理について考えておこうと思います。
とはいえ、ほぼすべての書籍・資料は事務所に置きっ放しなものですから、あくまで「ここ数日で判断しなければならない事項について、ちょっとした参考に」という精度の情報であるとお考えください(コロナのみならず責任からも身を守る姿勢)。

1.総会・理事会の延期
先日の記事でもご紹介したとおりです。
新型コロナによる管理組合の総会延期 - 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ

簡単に結論だけを記すと、こんな感じになります。

ただ、これはあくまで「延期判断に係る理事長個人の責任」の話であり、そのことと「それに伴って管理組合に不都合が生ずること」は別問題です。そして(延期そのものではなく)こうした不都合に起因する理事長個人の責任もまた気になるところだと思います。
この点に関連して、マンション管理センターがこのようなQ&Aを公表しました。
新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A
https://www.mankan.or.jp/cms-sys/wp-content/uploads/2020/03/20200327-CORONA-QA.pdf

法的に完全な解決が示されているわけではありませんが、少なくともこうした措置を講じておけば、理事会(長)としては、管理組合の内部的関係において「役員としての役目を果たした」と考えて宜しいのではと思います。
仮に、それによって管理組合に対外的問題(例えば管理会社との管理委託契約に係る混乱)が生じたとしても、その責任を理事会(長)に負わせることは酷であって(裁判所もそこまでは認めないと予想します。)、そうした不都合は管理組合(区分所有者)全体で受け止めるべきことではないでしょうか。現在のような異常事態を想定した仕組み・ルールを設けていなかったのは現理事会(長)だけでなく管理組合全体なのですから。

2.共用施設の使用制限(閉鎖・使用時間短縮等)
「マンションの集会室・キッズルーム・ラウンジといった共用施設を閉鎖したり、使用時間を短縮する」という措置を講じている管理組合もあるようです。
確かに、これらの施設は行政から「避けるように」と要請された「密閉空間、密集場所、密接場面という3密環境」にあたり易いものです。
ただ、こうした共用施設の使用方法・権限について定めた規約・細則を備えた管理組合は多いのに対し「閉鎖や使用時間短縮」といった「使用制限」に係る明確なルールを定めている管理組合は然程多くなさそうです。
それでは、このような管理組合では、臨時総会を開いて規約・細則を改正しないと使用制限に踏み切ることはできないのでしょうか。既存のルールの中に、理事長や理事会の決議でこれらを行うことに関し、何か根拠となり得る規定はないでしょうか。
ここから先は「各管理組合の規約・細則次第」という要素が強いので、標準管理規約を前提とします。
住宅:マンション管理について - 国土交通省

まず、「新型コロナウィルスの感染を防ぐ」という目的は個々の住民の生命身体の問題であって、区分所有法第3条が定める「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行う」という管理組合の権限外の事項ではないか、という問題意識はあり得ます。
しかし、例えば「毒物や危険物といった『有害な物質』が共用部分に付着した」という事態が生ずれば、その対応が上記目的に沿っていることにあまり異論はないでしょう。
ウイルスも「建物に付着し、それに触れた者にも移り、そこから感染し得る」もののようですから「有害物質」(と呼んで良いのか厳密には分かりませんが)の一種として「管理組合が相手にすべきもの」と考えて良さそうです。

では、本題である共用施設の使用制限についてはどうでしょうか。
標準管理規約を見渡しても、明確にこの点に言及している条項は見当たりません…が、次の2つが見つかりました。

第21条6項
理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。
第54条
理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。
十 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等

いずれも理事長又は理事会の判断で行い得るものですから、これらが使えれば「臨時総会を省く」という目的は果たせそうです。順に見てみましょう。

第21条6項は「保存行為」と定めています(同条項の基礎となる区分所有法第26条1項も、敷地及び共用部分等の保存行為の実施は管理者(理事長)の権限であると定めています。)。
共用施設の使用制限は「施設を直す」わけではありませんが、上記例のように「有害物質が付着した~付着した疑いがある~付着する恐れが高い」という場合に、そこに立ち入らないように現場を保全することは十分保存行為にあたり得ると思いますので、共用施設の使用制限をその一態様と考えることも可能であろうと考えます。
同条項に関する「コメント」(簡単に言えば、国交省による標準管理規約に関する補足説明です。上記リンク先参照)も
「災害等の緊急時における必要な保存行為としては、共用部分等を維持するための緊急を要する行為又は共用部分等の損傷・滅失を防止して現状の維持を図るための比較的軽度の行為が該当する。後者の例としては、給水管・排水管の補修、共用部分等の被災箇所の点検、破損箇所の小修繕等が挙げられる。」
と述べているところ、使用制限は「共用施設の清潔な状態を維持する」ものであり「緊急性」もありますし、施設の物理的変更を伴わない軽度な行為であるともいえ、更に「被災箇所の点検・消毒に伴う保全」ともいえそうです。

次に第54条について。「災害等により総会の開催が困難である場合」という条件を付しています。もちろん、現状においても「現実に総会を開催するための工夫」は色々と考えられますから開催不可能ではありませんが、使用制限の趣旨からすれば至急判断する必要があるでしょうから、こうした時間的事情も相まって、やはり「開催が困難である場合」と考えて良いのではないでしょうか。
そして、理事会が行い得る決議事項として、第10号は「応急的な修繕工事の実施等」と述べています。「修繕工事等の実施」ではなく「修繕工事の実施等」であること(「等」が何にかかっているか)に注目です。つまり、ここで想定されている行為は修繕工事に限りません。
この点、同条号に係るコメントも、
「『応急的な修繕工事の実施等』の『等』としては、被災箇所を踏まえた共用部分の使用方法の決定等が該当する。」
と述べていますので、共用施設の使用制限は「共用部分の使用方法の決定」にあたると考えられそうです。

以上のように、明確な規定がない標準管理規約を前提としても、総会決議を経ずに理事会(長)の判断によって使用制限を行うことについて、一応の根拠を見出せるように思います。

もちろん、使用制限を実行する際には、できるだけ住民に与える影響を軽減することが望まれます。具体的には使用制限の予告、使用時間短縮→閉鎖といった段階的措置、人数制限や入替制等の代替的措置の工夫、といったところが考えられます。といっても、今回はなかなかそのような余裕はないかも知れません。各管理組合の実情に応じてご検討ください。

3.感染情報の開示
運悪くマンション内に感染者が生じてしまった場合、管理組合はその情報を住民に知らせることができるでしょうか。これも、上記と同様に「ウイルスが付着した可能性のある共用部分を知らせて注意喚起する(場合によっては立入りを制限する)」という建物の問題であるといえますから、可能であろうと考えます。
当然、プライバシーに配慮する必要がありますし、そもそもそのような事態になれば関係当局による指示・指導もあるはずですから、それに従えば足りるでしょう。

以上は、「総会決議を経ずに使用制限や情報開示を行うことの規約上の根拠の有無」の問題であって「これらを実行するか否か」はまた別の問題です。
共用施設の使用頻度・内容、住民の属性、理事(長)や管理会社の能力といった諸事情を考慮した結果「使用制限や情報開示をするべきではない」という結論に至ることもあり得ます。

そして、こういう事態において全ての組合員が納得する施策など存在しません。他方、その内容によって理事(長)個人が法的責任を負うことも考えにくいといえます。そして何より、この大変な事態を乗り切った後も、皆様のマンションの管理は長く続きます。理事(長)は過剰に思い詰めることなく判断し、また組合員の皆様もその決断を柔軟に受け止めていただきたいと思います。

あ、最後に本日大雪が降ったエリアにお住いで、明日管理人さんに雪かきをやってもらおうとしている方々へ。
管理委託契約上の業務にそれが含まれているか否かは要確認ですよ。