高圧一括受電に係る最高裁平成31年3月5日判決の予習(1)

最近発行されたマンション管理新聞第1096号にこんな記事が載っていました。
「3月5日に判決 最高裁第三小法廷 「解約義務」の有無争点 2/5弁論」「高圧一括受電導入決議も反対者が契約解約を拒否」
同新聞第1086号及び1094号にもこの件の詳細が掲載されています。

以下のようにtwitterでも簡単に紹介しましたが、同紙によると経緯は概ね次のとおりです(なお、高圧一括受電方式の内容や電力供給契約の自由化については、本ブログでは割愛します。また、恥ずかしながら原審判決を入手できていないため(判例秘書にもウエストローにも非登載…どなたかご提供いただけると嬉しいです。)、正確性をお約束できない点はご容赦を。)。

1.訴訟提起までの経緯
札幌市 総戸数500超の団地型マンション
2011年頃から高圧一括受電方式導入を検討
2014年8月、特別決議を以て導入を可決
2015年1月、電力供給契約に係るルールを定めた細則制定や規約の変更に係る決議
同決議に基づき、管理組合は各区分所有者に対し、従来の電力会社との電気供給契約を解約し高圧一括受電方式採用を申請する旨の書面提出を求めた。
ところが、上記決議に反対した区分所有者のうち2名(被告)が書面提出を拒否(他の者は提出)
高圧一括受電方式採用に際しては全区分所有者の書面提出が必要であったことから、予定していた時期の同方式採用が不可能となった。
2016年5月、同方式導入に尽力してきた専門委員会委員の区分所有者(原告)が札幌地裁に対し損害賠償を求めて提訴。

2.請求
高圧一括受電方式を採用していれば享受できたはずの安価に電力供給を受ける利益が侵害されたことを理由に、同方式と継続された従来方式との差額分につき、導入予定日から訴訟提起前までの5か月分9,165円の支払い等を求めた。

3.主な争点
不法行為・利益の侵害といえるか、高圧一括受電方式採用決議に際し区分所有法所定の「承諾」を要するか(定期点検時の停電が「特別の影響」といえるか)、同マンションの規約において団地総会だけでなく各棟の総会決議も要するか。

4.一審(札幌地裁平成29年5月24日)判決
請求認容
共用部分の変更および管理に関して集会(総会)決議で定めた以上、反対者も決議に従うのが区分所有建物の当然の理である。
停電については「単なる不安感」であり、また被告らのみに生ずる事態でもないから特別の影響とはいえず承諾は不要である。
規約上、高圧一括受電方式採用に伴いブレーカーやメーターは団地管理組合が所有することになっているため、採用については団地総会決議で足り各棟の総会決議は不要である。

5.二審(控訴審 札幌高裁平成29年11月)判決
一審判決を維持
被告らは、区分所有者等の共同の利益たる低廉な電気料金の享受を妨げた。
被告らの契約の自由は、共同の利益実現のための制約を免れない。

6.被告らによる上告受理申立
導入決議に従わないことは法律上保護される利益の侵害にあたらない。専有部分の電力についていずれの電力会社と契約をするかは区分所有者に委ねられている。
従来の電力供給契約を解約しないことは共同の利益を侵害する行為にあたらない。
共同の利益に反する行為について、(原告のように)個々の区分所有者が権利行使することはできない。
総会決議の効力の解釈に誤りがある。従来の契約の解約は総会決議事項ではない。マンションにおける本質的な権利である電力供給先を選択する権利を侵害することは許容されていない。

7.最高裁による求釈明
最高裁は、原告に対し、総会決議や使用細則が被告らの「解約義務」を基礎づけることについて区分所有法上の根拠を説明するよう求めた。
原告は、同法第30条1項*1及び第6条1項*2を指摘しつつ、総会決議・細則は、電力供給という区分所有者全体に影響を及ぼす管理ないし使用に関する事項である、と主張した。

8.弁論と判決予定日
これらを踏まえて2019年2月5日に最高裁で弁論が開かれ、判決は3月5日と予定された。

経過は以上のとおりです(しつこいようですが原審判決を入手できれば整理し直します。)。
次回以降、本件同様高圧一括受電採用拒否が問題となった裁判例横浜地裁平成22年11月29日)のご紹介と併せて、本件について更に検討してみます。

続きはこちら↓

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*1:建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

*2:区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

そのマンションは巡ってきた幸運か、それとも破滅の罠か

皆様、大変ご無沙汰しております。
前回更新(2018年5月)から8カ月も経ってしまいました。

この間、インフルエンザにかかったり(2年ぶり2回目)、関与先のマンションで「桃尾は顧問料収入を狙って管理組合を乗っ取ろうとする悪徳弁護士だ」というビラをバラ撒かれたり(〇月ぶり×回目)、スプラトゥーン2で親指の皮をはがしたり、新築・既存の大型タワーマンションの各規約や細則の作成・改正のお仕事が重なったりと忙しく、なかなかブログを更新する余裕がありませんでした。

そんな中、どうして急に更新する気になったかというと、ウチの娘がタオルケットをかぶってtwitterが激しくバズった機会を利用して、このブログの知名度も上げてしまおうというセコイことを考えたからなのです。

とはいえ、私が普段このブログで綴っている「区分所有法がどーたらこーたら」とか「近時の裁判例がウンタラカンタラ」というお話は基本的に超つまらないので、今回初めてこのブログを覗いてくださった方に媚を売るご興味をもっていただくために、私自身のマンション購入について書いてみようと思います。

私が初めてマンションを買うまでのお話は、このブログでも途中までご紹介しました。

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・・・2016年9月までの記事ですから、今から2年半くらい前ですね。オシャ子のみならず既にこの時からジブリに頼っていたことがバレてしまい恥ずかしいです。

この記事に続けて、9年前に現自宅を購入するまでの経緯を書き進めようと思っていたのですが、放置したままでした。

そして月日は流れ、先月、自宅マンションを買い換えました。
間もなく引越しの予定です。なんということでしょう、現自宅購入エピソードをご紹介する機会を失ってしまいました。

そんなわけで、今回の新居購入のお話へ。

新しい家を探すとき、とてもワクワクしますね。
その選択肢も色々です。その中でも大きな選択肢は戸建てorマンション、賃貸or分譲だと思います。

私は既に分譲マンションに住んでおりその利便性に魅力を感じていますし、何より管理組合を依頼者(や相手方)にするお仕事をしていますから、やはり次も分譲マンション・・・と簡単に決心できたわけではありません。

私の仕事の一つは、マンションが腐海に沈んでしまうのを防ぎ澄んだ風と水を取り戻すことです(そりゃあ、私もちょびっとは火を使うこともあります。)。そのため、全てのマンションが風の谷のように平和ではないこともよく知っています。

だからなかなか住処を選べません。
腐海が近い(悪環境)かも知れない、怒りで我を忘れた王蟲(所有者・住民)がいるかも知れない、チコの実(管理費・修繕積立金)が全然足りないかも知れない、トルメキア(管理会社・管理員)の言いなりになっているかも知れない、ジル様(理事長)が私腹を肥やしているかも知れないッ!

こうした事情は、実際に住んでみなければ分かりません。
流石にプライベートでまで私自身が蒼き衣を纏って金色の野に降り立つのはしんどいですから、どうしても慎重にならざるを得ません。

そこで私は考えに考え・・・「風の谷の中で引っ越す」ことにしました。
そう、同じマンション内の他の部屋への引越しです。真上の部屋です。

ここなら安心です。
風や水は綺麗ですし、所有者・住民の皆様は親切な方ばかりです。チコの実も長靴一杯あります。クシャナ殿下やクロトワも有能で、歴代のジル様も頑張ってくださっています(私もジル様役経験者です。)。
もちろん新築ではありませんから、大規模修繕をはじめとして今後取り組まなければならない問題は山積みですし、落ち込むこともあるけれど、私はこのマンションが好きです。

このように「既に住んでいるマンション」は、他のマンションに比べて圧倒的に知り得る情報が多いわけです。マンションというとても大きな買い物において、これらの情報は大変貴重です。「不動産取引の成否は情報次第」とさえ言われています。これは不動産業者に限った話ではありません。「安全であることの愉悦」と偉い人も言っているように、「安全であると知っている」という安心は何事にも代えがたいものです。

「今も分譲マンションに住んでいるけれど、今後引っ越さなければならない」という方は、是非「今お住まいのマンションの別の部屋」という選択肢も考えてみてください。そうすると、そのお住まいが「将来買うかも知れないマンション」になりますので、必然的に管理組合活動への関心も高まると思います。

結果的に他のマンションに移ることになるとしても、そう遠くない時期に「管理組合が正常・活発に運営されている」ことが今以上に経済的価値を持つようになると予想されますから(この点は別の機会に)、お部屋の売却に際しその取組みが良い効果をもたらすはずです。

さて、上手い具合に話がまとまりましたので、今回はこのへんで。
次は、私自身が怒りで我を忘れた話にしようかな・・・。

管理組合に顧問弁護士がいると良いことがありそう 後編&費用

 momoo-law.hatenadiary.jp前回に続き、管理組合による顧問弁護士起用について猛アピールします。

5 継続性
多くの管理組合においては、いわゆる輪番制によって役員が選任されています。
輪番制には「役員を経験する組合員が多くなることで管理意識が高まり易い」、「固定メンバーによる独善的な運営を予防することができる」といった利点があります。
とはいえ、管理組合が取り組むべき課題は1,2年単位で解決できるものばかりではありませんから、プロ・本業ではないことから十分な実働時間を確保できず何ら事態が進展しないまま引継ぎが繰り返されてしまうケースが散見されます。また、役員就任後に膨大な過去の資料の全てに目を通すことは現実的ではなく、ご自身の就任前に生じた問題に対処することは容易ではありません。
この点、顧問弁護士を長期間に亘り起用していれば、その弁護士を介して情報を引き継いだり、その弁護士が役員任期の制約を受けず継続的に問題に取り組むことができますから、上記のような輪番制の不都合を回避し易くなります。

6 管理会社への牽制
私は、できるだけ「現在起用している管理会社との関係を維持し協力体制を構築する」というスタンスをとっており、管理会社の変更(リプレース)をあまり積極的にはお勧めしていません(理由は別の機会に。もちろんケースバイケースです。)。
ただ、管理組合と管理会社が管理委託契約の両当事者という関係にあることも確かですし、残念なことながら管理会社がその利益や都合のために管理組合と対立する場面も生じ得ます。。
こうした場合に管理組合と管理会社との知識・経験上の差が大きいと、管理会社は自社の利益・都合を優先し易くなってしまいます。
管理組合に顧問弁護士がついていることによって、管理会社が法的根拠なく過剰に利益を得たり負うべき責任を回避したりすることに対する牽制的効果を期待することができます。
なお、管理会社に(顧問弁護士の助言を受けた)管理組合のリクエストどおりに動いてもらうためには、管理会社からも一定の信頼を得られる弁護士を起用することも肝要です。

7 マンション管理を多く手掛ける弁護士に依頼するメリット
もちろん、各マンションの事情は様々ですから「同じ問題」というものはあり得ませんが、マンション管理問題のうち特に法律問題には多くの共通点があります。
そのため、弁護士があるマンションにおける業務を通じて得た知見は、他のマンションにおいても応用することができます(当然、守秘義務に抵触してはいけません。)。
また弁護士は、管理組合だけでなく区分所有者・住民を依頼者としてマンション管理問題に関与し、管理組合と対峙することも少なくありません。この「管理組合にとっての相手方(の代理人)」としての経験は、管理組合からの依頼案件において大いに役立ちます(簡単にいえば「相手の出方や嫌がることが分かる」わけです。)。
ある弁護士(注:桃尾を含みますが、これに限りません。)の顧問先管理組合が増えれば増えるほど、その弁護士から提供されるサービスの質も高まる・・・かも知れません。

8 費用
さて、顧問弁護士の魅力は伝わったのではないでしょうか。
「でも、お高いんでしょ・・・。」とご心配の方もおられると思うので、参考のために桃尾の場合について費用をご案内しておきます。
顧問料は、マンションの規模、当面解決すべき問題、総会や理事会への出席の要否、想定されるご相談量や対応に要する時間などを総合的に考慮してご相談しながら決定します。契約後、これらの
事情が変われば増減について協議させていただきます。こちらにも書いてありました。

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顧問料下限は3万円/月(税別)です(専有部分1~2戸の管理費・修繕積立金くらいでしょうか。)。
この場合の対応範囲は「時折メール・電話・ご来所いただいてのご相談に応じる(議事録等の管理組合・管理会社作成文書の加除修正も、通常はこの範囲で行います。)。原則として理事会・総会等には同席しない。管理費等請求書・通知書等の文書作成や法的手続も別」とイメージしていただければと思います。
上記諸事情に応じて顧問料5万円の管理組合もあれば、10万円を超える管理組合もあります。
そして、顧問契約は一定以上の信頼関係を前提するため、基本的には「いつでも解約可能」であり、その場合は実働期間に応じて精算いたします。
なお、初回相談は一般的な5,000円/30mとなりますが、その後のスポットのご相談・対応であり、かつ、タイムチャージを採用した場合の費用は、30,000円/hとしています(2018年11月更新。0.1h単位で計算し、都度作業時間をご報告しますので、ご予算に応じて調整していただくことも可能です。)。
もちろん、一般的な着手金・報酬金スタイルとする場合もあります。
どのような費用とするかについては、事案に応じて事前にご相談させていただきますのでご安心ください。

いかがでしょうか。
管理組合の顧問弁護士(として桃尾を起用すること)にご興味のある方は、お気軽にご連絡ください。